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魔王が死んだ世界  作者: 兜ユーキ
〜魔王の終りと勇者の始まり〜
3/16

勇者の始まり



どれだけ意識を失っていたのだろう。

全身の感覚はあるのだが、そのすべてが鈍く動かすことはままならない。

真っ暗でなにもない、先ほどまでいた輪廻の輪付近とは真逆で、不安しかないはずなのだが、がなぜか俺の心は安心で満たされていた。


程よく暖かく心地いい。退屈を感じることなくゆるやかに過ぎ去っていくこの時間がとても尊く感じていた。


しかしその思いも日数が経つごとに変化していく。

無自覚に芽生えた外への渇望は日増しに大きくなり、わずかずつに体が動くようになる。

時折俺の体がやわらかな壁にぶつかると、優しい声とあたたかな触感が俺の感覚を刺激する。


もう我慢できない


唐突に噴火した火山のように、俺の外界への思いは膨れ上がり決壊した。

心を支配していた安心を捨てると、強烈な喪失感に(さいな)まれた。

それに対してわずかな後悔を生むが、もう引き返せない

俺は外の世界に希望を見出(みいだ)しただ一点、光にむかって進んだ。



「おめでとうございます!元気な男の子ですよ」


声と感触的に女の人間が手袋をつけた手で俺を抱きかかえる。どうやら生まれ変わった先は人間のようだ。

あの神様のせいかわからないが、知識を引き継いだ状態であるために言葉を理解していた。

まだ体が完成していないのか喋ることはおろかまともに体を動かすことができない。

声はだせても「おぎゃぁ」くらいだ、まぁなんとかすればしゃべれそうな気もするが、騒ぎを起こすだけだろう。


「ああ…無事に生まれてきたことを感謝します。セシル…まだ理解できないでしょうけどこれからよろしくね」


開けられない目では、状況を把握できないが、今抱きかかえささやくような声の主が俺の母親なのだろう。

その声はとても優しくそれでいて強さを秘めた


どことなく聞き覚えのある声だった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺が人間として生まれてから5年が経過した。

人間の成長速度はとても遅い、それを痛感する。

しかしその全ては俺が今までに経験したことないことばかりで、この5年は長かったけどあっという間であった。


今は、様々な本が並べられた書庫で地べたに座り本を読んでいた


「あ、セシル!またここで本を読んでいたの?」


セシル=アクセル。それが俺に与えられた名前だ…この姓アクセルは、おそらく世界でもっとも有名な名だろう。


「はい、父様と母様のことが書かれた本ですから」


そう言って満杯の洗濯カゴを持った母、リリア=アクセルへと本の表紙をみせると、顔を赤くさせ恥じらう。

天使かと思う艶やかな金髪に青く澄んだ大きな瞳、シワのない透明感のある肌はまだ子供である俺の肌よりももちもちだ。

その姿はどう見てもぴっちぴちの10代の美少女だ。

今年もう三十路(みそじ)だぜ?信じられるか?


「お!セシルまた魔王討伐録読んでたのか?そんなもん俺が聞かせてやるって」


練習用の木刀を腰にロープで止めた筋骨隆々の男、ジット=アクセルは少し汗をかいた状態で俺に近づく。

落ち着いた雰囲気のリリアとは対照的に、燃えるような赤い髪と瞳が特徴的でやんちゃそうな印象を受ける。


「父様の話は尾ひれどころか背びれまで生えてくるので、信憑性(しんぴょうせい)にかけます。それに汗臭いからいやです」


そう言い放つと、あからさまにがっかりした顔で、外の井戸へと向かっていった。


「あ、汗を流すんでしたら、洗濯用の桶にも水を張っておいてください!」



もう言わなくてもわかると思うが、ジットとリリアは俺を殺した勇者と聖女だ。

だからといって恨みなどあるはずもなく、むしろ感謝していると言ってもいい。

それにこの5年間与えられた愛情はなにものにも代えられないかけがえの無い代物であった。


「たまには外で遊んだら?」

「はい、母様。あと少しで読み終わりますのでそのあとは父様に剣術を教わります」


そういうと、優しく微笑んだリリアは書庫を出て行った。


幸せだ…正直ずっとこのままでいたい

だが、そうはいかないだろうと考える。その理由はこの本に書いてあったことだが、今の世界はとてつもなく不安定だ。


理由は明確で、俺が…魔王が死んだから。


魔王が死んでから8年が経過しているらしい。俺の体感時間的には6年ほどなのだが、転生までに時間がかかったと考えれば何も不思議なことはない。

しかしその2年が激動であった。


魔王が死んだことにより、人間どころか魔物達の動きも活発になった。

魔物による侵略が始まり、国ごとの軍事力がどんどんと強化されていった。

そこまでは非常に簡単なことだった。

なにせ魔王に向けていた力のベクトルを少し変えればいいだけだったから。


しかし、共通の敵ではなく、自らを守るべき方向に向いた力は他者との隔絶の壁となり、わずか1年で協定のほとんどは破棄された。

それと同時に多くの場所で戦争が起こり、中立を望んだ世界最大の国家”中央国家・セントラル国”さえも戦火に巻き込んだ。


それでもたった5年で休戦状態になったのは、勇者に任せっきりにしていたせい…というかお陰ともいえる。

対個人…この場合であれば魔王に対しての武力だったために、対国家のような戦略兵器は持ち合わせていなかった。


戦争と言っても戦うのは人間同士、しかし決着をつけるのは、その人間を全て消し去るような兵器や大規模魔法が必要不可欠だ。

その研究に各国が躍起(やっき)になっていた。

ゆえに、今は仮初(かりそ)めの平和を維持していた。

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