魔王の死
新しく書き始めました。
毎日少しずつ書いていくのでよろしくお願いします!
世界は恐怖で支配されている
巨大な国家は軍事力を持って自国民を守り、どんなに小さな国家とでも協力し明日を生き抜く努力を怠らない。
一人一人がちっぽけな力であったとしても、その一つ一つが間違いなく未来につながると信じ自らを鍛えた。
小さな力がつながる。大きな力も自らの思いで手を差し伸べる。
これが彼の望んでいた世界であったが、その彼がこの世界で唯一無二の、最凶最悪の敵であった。
ここは世界の果てとも言える場所に存在する暗黒大陸であり魔王の領土である魔国。ここには更地に天を穿つような真っ黒で巨大な城がぽっつりとあるだけだった。
魔王城、そう呼ばれるだけあってこの城には、魔王が住んでいる。
世界中の人々がこの魔王が倒されるのを心から願っていた。
魔王は魔物を生み出している。
魔王を人間をゴミのように蹴散らし、虫のようにたやすく殺す。
魔王は…魔王は…魔王は…
全ての災厄、不幸は魔王が原因だとされてきたし、実際そうであった
しかし、魔王が魔王として誕生してから6000年。
魔王討伐に歩みを進めた者は数億あれど、死者の数はそれほどいなかった。
「よくぞここまできた、勇者の称号を持つ者よ!!」
魔王城の1階、大広間の中心に立つ一人…いや、魔王が今まさに入り口から入ってきた二人の男女に声をかける。魔王の容姿は語り注がれているものと完全に一致しており、ゴツゴツとした黒い肌に赤く輝く瞳、口を開くとかすかに見える歯は、鋭くギラついている。しかし、それ以上に魔王を取り囲む奴の魔力が強さを物語っていた。
「お前が魔王か…てっきり最上階にいるもんだと思っていた」
今代の勇者であるまだ若い男は、余裕をもったフリをしながら話す。
男の足はすでに子鹿のように震えている。それもそのはずだ、目の前にいるのは世界の敵、魔王なのだから。
圧倒的存在感である、彼の放つ魔力の濃度は全世界の人間をかき集めても足りないと直感でわかる。
「3000年くらい前まではそうしてたんだけどな、やはりここにいた方が楽だし、広いから…それに待ってたんだ、今代の勇者は歴代最強だって聞いてたんでな」
緩やかな言葉の中に時折混ぜられる”殺意””威圧”
これが並みの兵士であれば、体内の液体を無様にぶちまけてショック死しているだろう。
しかし勇者だからといって、完全に抵抗できるわけではなく、もうすでに足腰に力は入らなくなっていた。
その様子を見て、魔王はかすかに落胆のため息をついていた。
「こ…ここまでの力を…!!リ、リリア!?」
男の手を同じように震えている女がしっかりと握った
「ジット!あなたは一人じゃない、私が!世界中の人類が!あなたの味方よ!」
するとどうしたことか、二人の震えはピタリと止まり、魔王を見据える目に力が戻る。
その様子を見ていた魔王は本当に嬉しそうに口角を上げるが、顔立ちが不気味なだけに愛嬌もへったくれもない。
勇者として本来の姿を取り戻した男、ジットは背中に背負った身の丈ほどもある大剣の柄を握ると鞘やそれを止めていたベルトが消失する。
そしてその剣を両手で握り体の中心で構えると魔王は赤い眼を見開く
「それは…聖剣”エクスカリバー”か?」
「そりゃそうか、お前の討伐に何度も駆り出された伝説級の剣だもんな」
しかし、魔王は別のことを考えていた。確かに幾重にもエクスカリバーをみていたが、こんな色、形状ではなかったはずだ。純白という言葉がかすむほどに聖なる力を秘めた聖剣の名にふさわしい見た目だったが、この勇者が持つ聖剣は淀み、歪み、所々に邪悪な気配をまとった全くの別物へと変貌していた。
勇者は聖剣エクスカリバーを伝説級といったがそれは大きな間違いだ、人間が知り得る範囲ではそれが上限だが実際にはもう一つ上の世界級であり、認識できないと同様に、人間の力では壊すことは愚か、加工も出来ない代物だ…それがどうして…
だが…あの剣なら…
「貴様の言う全世界の人類の力って奴を、俺に見せてみろ!!」
魔王の言葉が開戦の合図になった。
聖剣をまっすぐ構え、魔王の体を貫かんと突進してくる。その動きは並みの人間には瞬間移動に見えるレベルで、常軌を逸した魔王の眼を持ってしても、勇者の体がダブって見えるほどだ。しかしその程度だ、6000年も勝ち続けた魔王には、未来予知にも及ぶ経験測がある。
切っ先の軌道を読み切り、わざと紙一重で躱す。大げさに躱せば、次の動作に遅れが生じる、なによりかっこ悪いから
しかしその判断が甘かったと言える。聖剣にまとわりつく淀んだ瘴気が黒刃となって顔面を浅くではあるが抉った。
「ぐっ…なんだ今のは!」
「力が…ありえないほどの力がみなぎる!!」
傷を確認して驚く魔王をよそに、勇者は自らの体から大量に溢れ出る謎の力に、戸惑いと同時に充足感を得ていた。
「光の精霊よ、我が魔力を糧にして力を与えよ!!聖なるの三叉槍」
素早い詠唱と魔法構築が聖女リリアから発せられ、光速で魔王の体を貫いた。
竜さえ殺す魔法の一種だが、魔王には一瞬動きを止めるだけにとどまるがその一瞬にさらに距離を詰めた勇者は、今まさに聖なる三叉槍で貫いた場所を聖剣で突いた。
魔王はとっさに後ろに飛び退くことで、ダメージを最小限に抑えたが再び迫る黒刃は回復不能な傷を与えてくる。
6000年にも渡って傷を負ったことのない魔王にとって、痛みというのは未知の領域であり、暇を持て余し心が欲していた刺激、そのものであった。
「これで終わりだな…」
誰にも聞こえない声で魔王は言った。
両の手を合わせると、小さな放電が幾度となく起こり、少し話した両手の間には直径が10センチくらいの黒い球体が出現した。
「俺には詠唱なんて不要なんだが、形式美ってやつだな”黒の砲撃”」
球体がパッと消えたと思えば、右手、勇者と聖女が入ってきた入り口、それらが最初っからなかったように消し飛んでいた。
勇者の右手に握られていた聖剣も消し飛んでいた。
当然、魔王の手をもっても聖剣を破壊することは到底叶わないため、どこか遥かへと飛んで行ったと思った
が
聖剣は魔王の胸を穿っていた
「かはっ!!ば、ばかな!!」
欲していたはずが、あまりに不可解すぎて驚きの声を上げる。
それは勇者や聖女も同様で、失った右手のことなど気付かないのか、ただじっと魔王を見つめている。
「くっくっく…どうした?俺を殺さないのか」
聖剣が刺さった状態で魔王は挑発的な発言をする。それによって我にかえった二人は少し警戒をしながら近づく
「平和な世界の幕開けに生贄となれ!!魔王!!!!」
勇者は聖剣の柄を力一杯握りしめ、真上へと振り抜き魔王を真っ二つにした
「光の精霊よ、我が魔力を糧にして力を与えよ”完全なる浄化”」
勇者が肉体を完全に壊し、魂が浮遊し再び肉体を再構築させまいと聖女が最上級の浄化魔法を放つ。いかに魔の王である魔王であっても魂の状態では無防備のため、抵抗することさえ許されず、現世から消え去った。
人類が生まれて1万年。
その半分以上が魔王によって恐怖支配を受け、心に真の幸福が得られなかった、そんな時代がこうもあっけなく幕を閉じた。
魔王の魔力によって魔王城の空は常に黒い雲に覆われていたが、それが消え、暖かくまぶしい光が闇を消し去り、その光景は新たな世界の始まりを告げていた。
魔王が死んだ世界
これから始まる世界
終わりが始まる
聖剣は真っ白になっていた。
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