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第4話〜始動IV〜

前田の工作部隊は校門をくぐると、四方に散っていった。なぜか前田だけ残されたようで、1人校門の下で突っ立っていた。私も校門を出ると、まっすぐ歩き出した。しかし、何もないのはそれはそれでいいな。校門前の大通りはいつも車が行き交い、エンジン音とタイヤと地面が擦れる音でうるさかった。夕方には近くの小中学校の生徒がワイワイ騒ぎながら歩道を我が物顔で闊歩し、私たちの高校の生徒は学校前のバス停で笑ったり叫んだりしていた。それなのに今はどうだろうか。聞こえる音は川のせせらぎと鳥の鳴く声。清々しいような、それでいて少し寂しいような不思議な気持ちになっていた。トンビが飛んできた。こんな日は、力強く羽ばたくあの翼と一緒に私も空を飛んでみたいものだ。そんなことを考えている時、後ろからカサカサっと音がした。何かと思って振り返ってみると、前田だった。なんだ、ついてきたのか。1人で歩くのもいいが、私の良心がぼっちを放っておくことを良しとしなかったので、少し待ってやることにした。立ち止まって振り返る。



「待ってくださいよぉ〜」


なんとも気の抜けた声が聞こえた。1人置いていかれたことが、少しショックだったようだ。まあ仕方がない。隊員25+隊長で5人組を組んだんだ。あぶれない方がおかしい。まあ、大して問題なさそうだったので、構わず前に進む。待った時間、しめて3秒なり。学校の南を流れているいくつかの小川を渡るとひときわ大きな川が流れていた。現実にあった川とはどこか様子が違う。どうやら人工物は無くなったが、川の位置も旧石器時代に戻ってしまったようだ。しかし、私達の学校は市の一番北側に位置していたので、学校の位置が変わっていないと考えるなら、この川を渡らざるおえない。




パシッ



いきなり肩を叩かれた。ビックリして後ろを振り向くと、ずぶ濡れの人間がいた。よく見ると前田だった。どうやら川で滑ってコケたようだ。膝には擦り傷に水がかかって血が滲んでいた。


「ちょ、司令、寒いんですけど。」


なんだ。寒いだけか。上着を貸してくれとでも言いたそうな目でこちらを見てくる。


「確かにそうですね。土地が平らで遮るものがないですからね。いったん戻りますか。」


ここはあえて空気を読まない。前田も横を歩いてるが、「ああ、寒いな」「寒い寒い」と呟いたり、凍えているふりをしたりと正直うっとおしい。



行き来た道を戻るともうすでに戻っている班がいくつかあった。隊員はずぶ濡れの隊長を見て「どうしたんですか」とか「大丈夫ですか」と言って駆け寄って来た。仲がいいのはいいことだが、そんなに仲がいいなら誰か一緒に連れて行ってやればよかったんじゃないかと思う。


まあ、本題は学校周辺の調査なので、書いて来た紙を見せてもらう。結果としては、悪くはない出来だな。事細かにとはいかないが、ある程度細かな地形と障害物の有無は確認できる。屋上から見た風景と照らし合わせれば、多少は詳しい地図が作れるだろう。工作部隊には陣地作成をしてもらうので、とても期待している。



工作部隊から離れて、そろそろ部屋割りができたかなと思い、パソコン室に立ち寄る。ドアを開ける。やはりこの部署はすごい。みんなが一斉に敬礼をしてくれた。私も右手を挙げ答礼をする。周りを見渡すと、どうやらみんな疲れきっているようだ。今日はこの部署にほとんど仕事を任せていたからな。いい仕事をしてくれた。本当に感謝している。渡瀬大尉に歩み寄って部屋割りのことを聞くと、学校のサーバーにアップしてあるという。さすが仕事が早い。早速戻って放送をかけなければならないと思い、パソコン室を退室して放送室へ向かう。今日は戦闘部隊を放置してしまったが、明日からは陸上部の人を使って、やり投げの練習をさせてみようか。など明日の日程を考えてるうちに、放送室へ着いた。朝、放送部の人がやっていたようにスイッチを入れ準備をする。マイクに顔を近づけ、口を開く。



「司令部からお知らせです。校舎の東に宿舎がありました。それぞれの部屋割りがサーバーにあがっています。荷物を持って指定された部屋に移動してください。」



これでひと段落だろう。さっきサーバーにアップされたフロアマップを見ていると、放送室というのを見つけた。別に放送室が存在しているということは、元あった学校のものはそのまま残っているということか。あの建物の部分はもともと私達の学校の敷地ではなく、住宅街だった。それはそうとして、寝るところと食い物があれば人間生きていける。そうだそうだ。食事の準備もしなくてはいけないな。これは補給部隊あたりに頼めばいいかな。フロアマップを見て、金森かんな少尉の部屋へ向かう。


少尉の部屋へ着くと、周りの隊員は部屋に入る前だった。少尉も廊下に出ていたので、近づいて話しかけた。

少尉は、どうもリーダーシップがをとるのが得意らしい。私と話しながらもテキパキと指示を飛ばしていた。マルチタスクができる人はすごいなあ。もうちょっと真面目に私の話も聞いてくださいよ。ところで、他の部隊に比べると、女性が多い気がするな。そのことを少尉に聞くと、護衛隊に男が行ってしまったかららしい。まあいい。力仕事はまだまだ先だからな。金森少尉に食事を作る機械がいくつか置いてあったこと、使い方がサーバーにアップされていることを伝え、今日だけは使用方法を先に隊員に教えておいて、隊員から基地内の全員に伝えて欲しいということを言った。食事の時に起こる混乱を避けるためだ。「はい、了解しました。」とのことだから、任せて大丈夫だろう。



階段を降りて宿舎の放送室へ向かう。途中で優子を見かけた。すれ違おうとすると横から突然大きい声が聞こえた。


「あっ、司令。今までどこいたんっすか?」


立ち止まって話すのも時間の無駄なので、放送室へ行く途中だから、歩きながら話そうと伝へた。


「あの後、警備隊を使って簡単な周辺の調査をやってたんですよ。」


少し慣れてきたんだろうか。自分の言葉がいつもより砕けている。優子は大して気にしていないらしく、また質問をしてきた。


「なんか見つけましたか。」


漠然とした質問だな。まあ何もなかったわけではないので、見たものを少しだけ話した。ちょうどそこで放送室のドアが見えた。


「私が喋ろうか?」


優子が自分がやろうかと提案してきた。私があまり口数が多い方ではないのを察したからだろうか。ここはお願いすることにする。話す内容を伝えて、私も自分の荷物を取りに職員室へ戻る。宿舎の扉をあけてみたら、もう空が赤くなってきていた。今日1日は多分人生で1番長かった日だろう。そんなことを思っていたら、職員室へはあっという間だった。カバンを持ってまた宿舎へ戻る。渡瀬大尉が気を利かせてくれたのか、私の部屋は1番上だ。登るのは大変だが、見晴らしはいい。カバンを置いたら食事を食べに行く。




一階へ着いたら、みんなの顔が少し曇っていた。どうやら食事の味があまり良くないようだ。私も補給部隊の人から機械の使い方を教えてもらい、食事に手をつける。




結果的にいうと不味いのではなくて、とても固かった。食事のレベルも旧石器時代って事か。現代人にとってはこんなもの食えたもんじゃない。私も柔らかい木のみだけは食べて、あとは残してしまった。しかし、魚介から肉まで(まあ干し肉だが)あったので豪華ではあった。ただ、調味料は塩だけの上、固い。まあ文句を言っても仕方ない。食後に会議をやることになっているので、会議室へ急ぐ。優子が放送した時に部隊長クラスを呼んでもらったのでもう集合しているだろう。



会議室に着くとやはりみんな到着していた。申し訳ないとひとこと謝ってから話を始めた。



「今日は世界が変わって最初の日で、落ち着いて話ができる時がなかったので、明日からは本格的に動き出したいと思います。そこで、明日からの日程ですが、今日見つけた北東の自然堤防を防衛の要として拠点化することをメインに行いたいと思います。」


この後、まずは、拠点まで素早く兵を送り出せるようにするため、北東の自然堤防まである程度の人数が通れる道を作るように工作部隊に指示を出した。幸いなことに学校の備品は全てそのままのようなので、スコップが50個ほどあった。作業は素早く進むだろう。

さらに、戦闘部隊には、回れ右や行進などの集団行動の練習をさせることにした。やはり、軍隊には統率力が必要だからな。グラウンドの使用の割り当ては渡瀬大尉に一任した。

最後に、警備隊を使って長良川の浅瀬を探させることにした。もちろん、仲間の拠点と連絡をとるためである。この後、明日の起床時刻は7時です。あまり騒がずに明日に備えて早く寝ましょうと言ってお開きにした。



校舎を出るととても星が綺麗だった。人工物が少なくなると自然の美しさを見に染みて感じる。


部屋に戻ると、ベッドは麻で出来ていた。寝心地は最悪だったが、疲れていてすぐに寝てしまった。

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