亡国の王子と桜色の魔女
☆ちかーむ×ガブリの民コラボ☆
はべさんが来る前、まだ二人と一匹だった頃のお話
注意!
元ネタがかなりマイナーです。
ドールやお人形の画像等が苦手な人は元ネタなんだろ~って検索をかけないでください!
モフフアドルフォスは悩んでいた。
せっかく召喚に応じているのに誰も本契約にならないのはなぜだろうか?
モフフアドルフォスの今の契約者は鮮やかな桜色が美しい巻き髪の魔女だけだ。
しかしこの魔女は強大な力を持つゆえ、モフフアドルフォスの力をあまり必要性としないのだ。
力は使わなければ強くならない。
強くなければ民を守れない。
このままではガブリ王国の再建は夢のまた夢。
「さて、困ったものだ。」
ふう、とため息をつき、この庵に住まう、もうひとりの青い瞳の魔女の作る美味なる菓子を口にする。
狼の歯には柔らかすぎるその菓子は口のなかで砂のように崩れていく。
しかし、小さな体にはその菓子さえ重い。
早く大きくならなくては。
ガブリ王国の国王は民の想いで体が大きくなる。
国が滅び、民も散りじりになった今、モフフアドルフォスの体を維持するのが精一杯だ。
それでも年々小さくなっていっている。
ふう…
ため息をまたひとつ。
ゴンっ!と後頭部に固いものが当たった。
振り替えると小さなカップを摘まむように持った巻き髪の魔女。
「メロディーヌ…」
整ったつり目がちの瞳が嫌そうにすがめられる。
「変な名前で呼ばないでください、モフフ王子」
モフフアドルフォスの小さな両手に収まる大きさのカップ。
わざわざ用意をしてくれたのか。
紅茶の香りが鼻孔をくすぐる。
一口の飲むとちょうどいいあたたかさ。
掌からも腹のなかからもぽかりと暖かくなった。
「乗りかかった船です。お手伝いしているでしょう?」
つり目がちの黄色い瞳が猫のようにすがめられる。
マレイユ・ロメロディア
過去に一度だけ呼んだ魔女の名前。
我と契約を結べた唯一の召喚者。
「馳走になったな。」
「今度来るときは、ため息を出しきってからいらしてください。」
「そうしよう。さらば、メロディーヌ」
呆れたような魔女の顔が霧の向こうにきえた。
目を閉じあの日の喜びを思い出す。
何人もの召喚者が私の前を通りすぎて行き、なかば諦めていたあの頃。
新鮮な肉を贄に我ら叡霊を呼ぶ声。
柔らかく少し低い、耳障りのよいなめらかな声。その声に応え、顕れた魔方陣を潜り声の主のもとに向かった。
「この肉の礼に我が名を教えよう。
モフティファン・ギュンター・ガブリエル・ウルフィノレ・モフフアドルフォス・エドヴァルト・フォン・ガブリライヒ・アルベルトゥス・キャニス・ルプス・ガブリ十一世だ。」
名を名乗ると一言一句間違えることなく返る己の名。
「よろしく、私はマレイユ・ロメロディアこの森に住む魔女よ。」
雷が落ちてきたかのように身体中がビリビリと痺れた。契約が成されたしるし。
「…ガブライヒ?そう…モフフ王子と読んでも?」
おそらくこの魔女は知っているのだろう。我が王国の滅亡を。私を王子と呼ぶもの達は既にいないということを。私が消え行くものであるということを。
「ああ、構わない。マリー。」
「変な愛称をつけないでください。メロと。」
「解ったメロディーヌ。用があるときは名を呼べ。」
「メロディーヌではありません。」
怒った顔も愛らしい。
けれど我はそなたの他の誰も呼ばぬ名が欲しいのだ。
いつかその名を呼ぶにふさわしき姿に戻れた…その時までは。
「あの日のから我は変わっていないな。」
ぼそりと呟く。
喚ばれることのない空間で亡国の王子は目を閉じて夢をみる。
ガブリの民に再び囲まれるその日を。
魔女の庵で二人の魔女がお茶を飲む。
「モフフ王子、珍しくキラッ☆とせずに…何だかおとなしかったわね。」
エルは青い目をすがめて王子の居た場所を見る。
その、視線をたどり、メロ氏は空になったちいさなカップを見つめる。
桜色の巻き髪を揺らしぽつりと呟いた。
「いつになったら気づくのかしら…契約が成らない原因は名前が長すぎるせいだってことに。」
髪と同じ桜色の唇から呟かれたその言葉は、狭間でたゆたうモフフ王子には届かなかった。




