【雨のなかで泣きたかった(、君にみられたくなかったから)】
あれ以来君はぼくから逃げ出した。
「逃げる」と言うのは間違っているかもしれないけど…。
君の決断を実行した。 そういうことだろうか。
この年になって同じ部屋で寝るなんて確かに変だったのかもしれない。
でも、君はどうして、離れることを選んだのだろう。
今更ながら後悔する。
「約束?」
君の悲しみを写す目が、澄みすぎていて、
「約束」
ウソはつきたくないと思わせた。
今更ながら気になってくる。
君のあの例え話は、どこから出たものなんだろう?
友達に何か言われた?
テレビで何かを見た?
新聞で何かを読んだ?
ぼくたちはあのまま秘密の中で愛し合っては…ダメだったのだろうか。
弟が…親が…傷つくことを避けて、ぼくたちも傷つくことを避けて…。
ダメだったのだろうか。
コンコンと、ノックの音がした。
「開けていい?」
君の声。
優しい優しい君の声。
愛しい愛しい君の…。
もう名前も呼んでくれないのだろうか?
答えたら声の震えがバレそうで、ぼくは何も言えなかったんだ。
君を見たら涙がバレそうで、開けようともしなかったんだ。
返事がないからか、君はそれ以上留まらず、どこかへ行ってしまった。
どこか遠くへ。
ぼくの元ではない、どこかへ。
本当はね、会いたかった。
君からぼくの元を訪れたこの瞬間を大事にしたかった。
でも、そしたらきっと抱きしめちゃうから。
今日、今のぼくは、抱きしめちゃうから。
君との約束…破ってしまうから。
ごめん。
ごめん。
ダメな弟で。
少し開いた窓から夜空を見上げる。
天の川がゆっくり流れている。
一年に一度の再会…。 織姫も、彦星も、幸せだということはちゃんとわかっているのだろうか。
今夜が雨ならよかった。
君に涙を見せずに、些細な夜のデートに誘えたかもしれない。
「さっきは開けなくてごめん。どうしたの?」
って、濡れた笑顔で聞けたかもしれない。
「ううん、なんでもないの」
濡れた笑顔で、君は答えただろう。
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【雨のなかで泣きたかった(、君にみられたくなかったから)】
お題提供:暖音 様 (http://houka5.com/333/)