【泣かなくていいんだよ ( ぼくたちは 交われないんだから )】
小さな白い花が小脇に咲いた、小さな公園のブランコに君が蹲るように座ってた。
「昔ね」
ぼくの方を見上げない。
一日中暑い日の光を浴びすぎて少し撓った白い花に語りかけているようだった。
「空と大地は恋人同士だったんだって」
突然何を言い出すのかわからず、ぼくは君の視線に合わせ、さっきより少し潤った白い花を見つめていた。
「大恋愛の末に太陽も、月も、雲も生まれた。しばらくはみんな幸せに暮らしてたんだって」
俯きながらも微かに微笑むのが君の声でわかっていた。
泣きそうなほど、微かな笑顔だと…。
「でもね」
君の声が震えたのを気付かずにいようとしていた。
もう、結末は、わかってる。
「今はもう、口もきかないんだって。お互い。大好きだったのに。何故だかわかる?」
君はもう、ぼくじゃなく、花たちに語りかけている。
いや、と花に代わって答えてみた。
「太陽と月が、恋をしちゃったから。お互いをね…。以前の大地と空の様に、お互いを愛しちゃったんだ」
悲しそうに、寂しそうに、君は語り続ける。
小さな白い花たちは夕暮れの風に吹かれ、君の話に切なそうに相槌を打つ。
私達も全てわかってるよ、そうぼくたちに言ってるようで。覚悟を決めて来たぼくでさえ、心が痛くなってくる。
「空は泣き出した。大地は激怒した。止まない雨と、止まない地震で、世界は壊れそうになったんだ。
ただ一人…。雲がね。
雲が世界を助けようとしたの」
そう言うと、君は初めて顔を上げ、オレンジの日に照らされピンクに染まる雲に手を伸ばした。
一筋そっと流れた涙を拭いもせずに。
「もうやめてくれ、って。苦しいよ、って。叫んだんだって。
でも、空も大地も聞いてくれなかった。
それを見た太陽と月は、自主的に離れ離れになったの」
わざと明るく言い、君は上げていた手をブランコの鎖に絡め二筋目の涙を流した。
「お互いを見ていたら恋しくなるから、永遠に交われない様に離れたの。
そしたら空と大地は静かになったんだって。もうこの話をしないように、お互いに口をきかなくなって。
でも、今度は…雲が泣き出した。
壊れてしまった家族を思って。
かなしずぎる結末を迎えた兄と姉を思って…」
「キャー!」
嬉しそうに叫びながら弟がまだ少しおぼつかない足取りで、遊んでいた砂場から君の側の白い花へと走ってきた。
今にも花たちを潰しそうな弟の手を君は優しく制し、今日はじめてぼくを見つめた。
「わかるよね…?」
涙に濡れた瞳を見つめ返すのは、ぼくには辛すぎた。
愛している瞳だからこそ、一層…。
ぼくは黙って、君がたった今弟から救った白い花を一輪つみ、君の髪にそっと飾った。
「泣かなくていいんだよ。
君も…彼も」
弟は無邪気に笑いながらピンク色に染まる空を見上げている。
君は涙を拭い、聞いた。
「約束?」
「約束」
ぼくは答えと共に、そっと最後の口付けを君の髪の白い花に落とした。
「帰ろう」
君は小さく頷き、弟の手を引き、ぼくたちはゆっくり公園を後にした。
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【泣かなくていいんだよ( ぼくたちは 交われないんだから )】
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