ギャルゲーの世界に転生したのだが、恋人を寝取られそうです
寝取られ要素を含みます。ご注意下さい。
この世界が前世でやっていたギャルゲーの世界だと気付いたのはつい最近だ。
どうやらそのゲームがスタートする高校入学式がきっかけなのか、当日の朝それを思い出したのだが、何でこんな状況になっているのかさっぱり分からない。
いや、問題はそう言う事じゃない。
前世の事はあくまで記憶、つまりは他人の事として受け止めたのだけど、そのゲームでの俺の立ち位置まで思い出したところで血の気が引いてしまった。
何故なら、俺には彼女がいるのだが、ゲームでのヒロインの1人でつまりは主人公に寝取られると言う訳だ。
冗談じゃない! 確かに向こうから告白して来たから調子に乗っていた事は認めよう。でも、俺は彼女の事が大好きなんだ。
ならば、なんとしてでも状況を打破せねばなるまい。どうすればいい?
ゲームの事を必死に思い出そうとしていると、母親から急げと声をかけられれる。
くそっ、入学早々遅刻とか出来る訳もないからな。気持ちだけは焦りながら慌てて準備へと向かった。
「淳平君。おはよう。わぁっ」
「香織。大好きだ」
朝から迎えに来てくれたらしい。確か記憶では俺は素っ気なく断った筈だが、来てくれて良かった。
安堵のあまり彼女を抱きしめて本心を告げる。
「じゅじゅじゅじゅじゅ淳平君!? どどどうしたの?」
胸の中で暴れる香織の姿にハッとする。何やってんだ俺。
慌てて離れるものの、気恥ずかしくて顔が熱い。
「いや、その……色々考えたんだけど。俺は香織が好きだって言ってなかったと思って。
いや、スゲー恥ずかしいし、何をと思うかもしんないけど。……ああくそ、上手く言えねぇ。
とにかく、これからは大事にするからな」
早口でまくし立てる。……いや、マジテンパるんだって。何言ったかよくわかんねーよ。
と、唖然とした後涙を浮かべる香織。
当然慌てる俺。
なんでだ? もうすでに愛想尽かされてたのか?
「う、嬉しい。淳平君いつも迷惑そうだったから」
よ、良かったぁ。でも、そんなに俺酷――かったな、これから心を入れ替えよう。
「ごめん。その。……言った通り恥ずかしくてさ。
でも、もう高校生になるんだし、これからはちゃんと本心を言うし大事にするよ」
「うん……うん……」
愛しくて再び抱きしめた香織が、胸の中で何度も頷いてくれる。
ああ、幸せだ。本当にこれからは彼女を大事にしよう。奪われたのもきっと俺の態度が悪かったんだろうし。うん、きっとそうだ。
それからは、香織との時間を何よりも大事に過ごした。
のだけど、入学して2月も経った頃だろうか。急に付き合いが悪くなった香織に再び危機感が上がる。
くそっ、安心したばっかりにあれ以降前世の事なんて思い出すのは疲れるからと考えた事もなかった。
今はそんな事を言っている場合じゃない。とにかく思い出さないと。
一緒に帰ろうと言う誘いをついに断られ、家に帰り着いた後打開策ばかり考える俺。
いつからだ? そう言えば1月前辺りからどこか様子がおかしかったような気がする。
たずねても大丈夫だからとしか言わないし、言いたくなったら言ってくれと言っておいたのだけど。あっ、そう言えば!
ゲームの事を思い出せば、悔しい事に主人公と香織はクラスメイトでしかも隣の席。
だからこそ親しくなりやすいヒロインだったのだが、お人よしな香織の事だ、ゲームの時のように色々世話を焼いたのだろう。
分け隔てなく優しさを振りまく香織らしい。
ただ、時折辛そうにしていて、それを主人公が聞いて加速的に仲良くなる……え? もしかして俺すでに嫌われていた?
そこまで思い至ると、思考が止まる。
いや、考えたくなくとも考えないと……いやだ、別れたくない!
そう言えば、ゲームの俺も別れてからは女々しく付きまとうイベントがあったはず。今回は高校生になってから優しくしてきたけど、それでは駄目だったと言う事か。
そこまで思いが至ると、体中の力が抜けていくような気がした。
はははは、結局何をやっても駄目なんじゃねーか。
次の日、高校に初めて1人で登校した。大事な人が隣に居ない。
照れた顔でお弁当を作って来てくれていたのが無くなって久しいが、ついにお昼のお誘いすらなくなった。ならば俺から誘おうと思ったのだけど、クラスにすら居なかった。
放課後も話したいと香織のクラスに向かったのだけど、行き違いになってしまう。
「はは、俺ってほんと滑稽だな」
成績も順調だし運動は部活こそやっていないものの出来る方に部類される。友達だって多い俺は所謂順調な高校生活を遅れていたのだろうけど、そこに香織の存在がないだけで学校にも行きたくなくなってきた。
それにしても、振ってさえくれないのだろうか?
ゲームの時ですらその後ややこしい事になるとは言え、彼女から別れの言葉を告げられると言うのに。
「あーあ、泣けてくるわ」
思わず口からこぼしつつ、負け犬のように帰宅する。
どうしよう、ダメージがデカすぎて何にもやる気が起こらない。
抜け殻のようになった俺は自然に成績を落としてしまう。友達も心配してくれたのだけど、強がるので精一杯だった。
香織と会えなくなって既に3ヶ月も経っている。香織はどうやら俺の予想通り主人公とくっついた様だ。
どうしてこうなった? なるべく話さないでくれとお願いしていたが、自然と耳に噂は入ってしまうもので、いつまでも傷ついている自分に自嘲してしまう。
女々しいにも程があるな。好きならば自分から会いに行けばいい……でも、振られたと言う事実を向けられるのが怖い。
最初の1週間死に物狂いで会おうとしたのに避けられて、もう俺は気力を奮い立たせられなくなっていた。
気付けばもうすぐ1年も終わりに近づいていた。
成績は皆や親に心配掛けるからと、それに勉強やっている時間は忘れていられると打ち込み前よりも更に上がっている。
だが、聞き捨てならない噂を耳にする事に。
「長谷部の野郎が何股もしてるだって?」
彼女の噂を極力聞かないようにしていた事と、周りが気を使っていた事もありその噂を耳にするのが遅れてしまったようだ。
驚きのあまり詰め寄ってしまい、噂をしていた女の子達を引かせてしまったのは申し訳ないと後で思うのだが、その時の俺はそれだけ必死だったって事だ。
「あ、あの。だいぶ前から噂になってたよ?
確か7~8人ほどの女の子と親しくしているのだから、噂にならない方がおかしいし。
付き合ってる子達は自分こそ本命って1人を除いて皆言ってるしで、正直周りからは白い目で見られてるのに」
攻略人数と同じ。
そう気付いた時俺はもうすぐ授業だと言うのも無視して香織のクラスへと、クソ野郎がいるクラスへと駆け出す。
許せねぇ。
怒りだけがうずまき、気付けば走り出していた。
そのまま教室へと入り、野郎を殴り飛ばしたんだっけ。香織が唖然としていたのを覚えている。
それから……俺は謹慎処分となり、こうやってその時の行動を家で思い返している。と。
「まっ、殴り足りないけど、仕方ないか。
香織が戻ってくる訳でもないし」
やけくそ気味に吐き出す。
何で未だに好きなのかは分からない。だけど、俺は香織が未だに好きだ。これは説明出来るようなものじゃないのだろう。
はは、戻ってきてくれる事を夢見るだなんて、本当に女々しいな。泣けてくるわ。
情けなさのあまり1人で泣いていた所、インターホンが鳴り響く。
そう言えば今日は母さんも家に居ないんだったか。
友達がプリントでも持ってきてくれたか、心配して様子を見に来てくれたのだろう。
そう思って扉を開けたその先には――。
香織ちゃんサイドのお話はこちらです。http://ncode.syosetu.com/n5794bv/
合わせてお楽しみ頂ければと思います。