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~八匹目・現実、運命あるもの~

さて。俺、神崎隆也は今、辰見神社の鳥居前まで戻って来ていた。持っていた荷物をお堂へ全て置き、再び鳥居前に集まった。理由は、ただ一つ。


「さてと。行きますか、辰高へッ!」

涼介は腕を空へ上げて、気迫十分に辰高方向へ指差す。全員、気合十分。涼介は空回り気味だが、まぁなんとかなるだろ。そして、俺たちは、最低限の物資と武器を持ち、辰高に向かう。涼介は俺と真田の前を歩いていた。


「しかし、ここの道は、すっきりしてるなぁ~瓦礫なんてひとつもないな」

左肩に長巻を背負い、涼介がぼやいていた。


「それはそうだろうさ。だってこの辺は、田んぼしかないしな」

俺は反射的に答えると、涼介もすぐに答える。

「それもそうだな。もっと田んぼ以外に何かあってもよかったのにさ」

「例えば?」


自然に真田も会話に入り、涼介へ話しかけた。それが、予想外だったのか涼介は少し考えた後、思いつきのように答えた。

「コンビニ・・・とか?」

涼介は足を止めて、真面目に答えた。が、真田も真面目に答える。


「普通だね」

「なんだと!じゃあ他に何があるんだよ」

こっちに振り返りながら涼介は反論した。


「私は大きな公園がいいな。それでそれで、こーんなでっかいすべり台を滑りたい!」

真田は大きく手を広げて、表現してるようだ。しかし、すべり台か・・・。

「じゃあ、隆也は?」

涼介は俺にも聞いてきた。

俺は、目を閉じる。頭のビジョンには風の音、木々の擦れる音がパッと浮かんだ。

「・・・・桜の森」

俺が言うと、笑いを堪えきれなくなった涼介が吹きだし、笑い始めた。

「桜って・・・お前・・・乙女か!」

「なっ!涼介のコンビニだって子供の考えだろうがッ」

互いに火花の散るような睨み合いをしてると・・・。

「ほら、二人とも。くだらないことでケンカしないッ」


真田は俺たちをなだめようとしたが、涼介は真田にも喰いついた。

「そんなこと言って、真田だって公園じゃないか!。」


熱くなってる涼介に対して、真田は少し照れくさそうに語り始めた。

「私さ。公園なんて、ほとんど行ったことないから。それで、ここに公園があれば、みんなで遊べたのにって思っただけなの。」

そう言った後、真田は、暗い顔をして俯いている。でも、それ以上に何かが、真田の中で渦巻いてるような・・・・。少しの沈黙の後、慌てて真田が手を動かしながら、しゃべり出す。


「ご、ごめんなさい。そんな沈むこと言った?と、とにかく、あれよ。早く学校行きましょッ」

そのまま真田は、辰高へ走って行ってしまった。そして、俺と涼介も一瞬、目があった後、真田を追いかけるため走り出した。その時の顔と言ったら、幸せそうな顔していた。

 しばらくして、辰高前へ到着すると、一人の人影が階段の一段目にどっしり腰を据えていた。忘れるはずがない。ボロボロの靴に大小違う刀、そして、蒼色のパーカー。その名は・・・・。


「竜汰?こんな所で何してるんだ?」

気兼ねなしに俺は竜汰に話しかけた。だが、なんだか夜とは様子が違い、竜汰の周りはピリピリと張り詰めた何かが渦巻いている。


「何って。お前らが来るまで少し休息を・・・」

腰を上げ、大きく深呼吸をして竜汰は俺たちへ背を向ける。その目線の先には、まるで廃墟のような辰高がそびえ建っていた。


「そうだ!あそこにまだ人がいるかもしれないんだ!」

俺がそう言うと、竜汰は、俺たちに背を向けたまま答えた。

「知ってる。だから、待っていた・・・・」


「『待ってた』って、あんたみたいな人が、化け物にひきはとらないはずなのに。なんで俺たちを?」

涼介が疑問を問うと、竜汰は俺たちの方へ向き直して、問いに答える。


「さすがに、怪我人を抱えて走れるほど、俺は器用じゃないんでな」

「怪我人ってことは・・・・。生存者がいるんだよね。」

真田がそう聞くと、軽く竜汰は頷き、そのまま階段を上がり始める。


「ああ、そうだ。時間が惜しい。行くぞ四人とも」

「待ってくれよッ竜汰」

「おいおい。俺も置いてくなよ」

「あ、待ってよ。二人とも!」

そして、俺たちはすぐに後を追いかける。いつもとは違う、空が暗いからなのか嫌な感じがヒシヒシと伝わってくる・・・・。最後の階段を登り、見たのは悲惨な光景だった。






「な・・・な・・・・・」

開いた口が塞がらない・・・・。






「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

涼介は胸を押さえ、過呼吸になって苦しそうに後ずさりし、真田は真田で口を押さえて顔が真っ青になっていた。無理もない。



今見てる光景はまるで『あの悪夢』のような、人々は四肢が無いものから血だらけなものまで、いろんな死体が無残にも転がっていたのだから・・・。


「何をうろたえている。さっさと来い」

前を見ると、この状況に全く動じていない竜汰の不敵な姿がそこにあった。ひどい、どうやったらあそこまで冷徹になれるのか・・・・。


「涼介、真田。大丈夫か?」

「私はなんとか・・・直視しなきゃ大丈夫だけど、涼介が・・・・」

涼介は肩を抱え、ガタガタ震える。瞳は光を失っていた。


「こわい・・・こわい・・・」

それはまるで、こいつの血液恐怖症を初めて知った時みたいな反応だった。

「涼介ッ。しっかりしてッ!、男でしょ?」

真田は必死に涼介の肩を揺らすが、抜け殻のように前後に揺れるだけだった。


なんとかしないと・・・・。

「しっかりしろッ!ここで足踏みしてる場合じゃあないだろッ?大丈夫。俺たちが付いてるからッ!」

そうすると、安心したのか。段々、涼介の震えは止まり、瞳も光を取り戻した。

「こ、これぐらい。だ、だいじょうぶ、だからなッ!」

だが、相変わらず足は前へには進まない。


「ホラ、手繋いでやるから行くぞ」

俺はさっと涼介の手をとり、真田は俺の背中に掴まる。

そして、そのまま屍を避けながら進む。血溜まりを踏んで嫌な感じ、それでも進むしかない。なんせ俺たちはまだ生きているのだから。


 辰見高校。1階、正面靴箱前。



俺たちは竜汰が予想している人のいる場所へ急いだ。

壁や廊下には大きな爪痕と血痕が散乱していた。そして、俺たちの着いた先は。

「着いたぞ」




「保健室?」

真田がそう言うと、竜汰は確信に満ちたように答える。

「ああ。ここに生存者いる」

「おーい!誰かいるか?いるなら返事をしてくれッ」

俺は強く保健室の戸を力いっぱい叩くと、微かに聞き覚えのある声が聞こえる。



「たかやか?わかったすぐに開けるぞ」

戸は少しずつ開き、人が一人が通れそうなぐらい開いた。それから、俺たち保健室の中へ入れると、そこには・・・。

「東雲先輩?」

「竹ちゃんに結城!」

どうやら、三人とも軽傷のようだ。でも、遊榎先輩の弟、『戒』が・・・・。

「助けてッ!神崎くん。戒が戒が・・・」

遊榎さん泣きべそをかきながら、俺たちに助けを求めきた。しかし、俺たちには医療の知識なんて精々テーピングがぐらいしかない。



「・・・・先輩。戒さんはもう・・・」

俺が思わず口を滑れらせてしまった。そうすると、遊榎先輩は怒り狂い、暴れだした。

「そんなことない!。そんなは・・・・」

遊榎先輩は俺の襟元を掴み上げた。こんな恐い顔を見たのは初めてだ。しかし、無理も無いか。俺だってこの内の誰かが死にそうでそんなこと言われたら・・・・

「やめ・・・て、ねぇちゃん・・・。おれ、・・・もう」

戒がそういうと、遊榎先輩は襟元から手を離し、戒に再び寄り添った。




「ごめんね、神崎。アタシつい、気が動転して・・・」

「あ、いや。俺の方こそ・・・ごめん」


しばらく重苦しい沈黙が続く。真田は包帯や傷薬を探していて、涼介は涼介で血液恐怖症がピークのよう、床に座り込んでいる。その傍には、ししょ・・・竹原先生は膝をいたわりながら、涼介を落ち着かせていた。竜汰は入り口をしっかりガードしている。不気味な殺気をかもし出しながら・・・・。

「よしッ!一通り医療品は持ったよ。でも、どうやって脱出しよう・・・」

「どういう意味だ?真田」

俺はすぐに真田に聴き返した。

「あのね。今、満足に動けるの。神崎くんしかいないの」

「どういうことだ?」

「だって。涼介は、あの調子だし。竹原先生は立てそうにないし、東雲さんは戒さんをおんぶしなきゃ動けないし。それから、結城先輩も口には出さないけど、三人をここまで守って来たと思うの。私は涼介を背負わなきゃいけないし。だから、いま動けるのは神崎くんだけなの」

ふと真田を話を聞いて一つ変なことがある。それは・・・。

「なぁ、真田。なぜ、その勘定に竜汰が入ってないんだ?」

そう俺が不思議に思ったことをぶつけると、真田はあたふたし始めた。さては竜汰の存在を忘れてたな。それでも、真田の一理あるにはわかる。しかし、俺たちは一体どうしたら・・・。

「いいんだ。真田、神崎。俺を勘定に入れるな」

「どういう意味だ。それ?」

真田がそういうと、竜汰は突然立ち上がる。

「つまり、こういうことだッ!」

竜汰が戸に大きな刀を突き立てた途端・・・。





―グオォォオオオオォォォォォォッ!



それはまさに『化け物』の断末魔だった


すぐさま竜汰は戸を斬り、道を切り開いていた。

「何ボサっとしてる。さっさと違う部屋へ移動しろッ!ここはもう駄目だ」

そう言い残し、戸の周りに居た化け物を挑発し校庭の方へ連れて行った。俺は一瞬だけ何か起きたか理解できなかったが、すぐに理解し、保健室から脱出しようとした時。

「ガルルルルルッ・・・・」




すぐに化け物の援軍が来て、俺たちはいつの間にか、囲まれてしまった。

どうすればいい。とりあえず、刀を抜いて化け物をけん制する。しかし、こんな策もそう長くは続かない。どうすればいい、どうすれば・・・・。

『しっかりしろッ!今、まともに戦えるのはお前だけなんだ』

銀の激に俺は冷静さを取り戻した。

『そうだな。俺が、俺がしっかりしなくちゃな!』

でも、本当にどうすれば・・・。

「ほらほら!こっちだよ。化け物ッ」

突然、遊榎先輩が化け物を挑発し、針の穴を通すように保健室を脱出した。

「お、俺たちも行くぞ。みんなッ」

先頭は結城に任せ、俺たちも結城後ろを追う。残りは、涼介と竹原先生。だが、やっぱり、付け焼刃の行動。そううまくはいかない。

「早く来い。涼介ここもそうは持たない」

今は俺が銀の炎使って盾にしているが、何処まで持つか分からない。

「わかってるけど、体がうまく動かないんだ」

そんなやりとりをやってる内に、あまり活発的じゃなかった化け物が急に動き出す。そして、標的は涼介だった。

「りょ、涼介ッ!」

助けに行きたいが、ここを疎かにすると他のみんなが・・・・。くそッ、また俺は何もできないままなのか?!

そして、鋭い爪が涼介を襲おうとしたその時。







「ごはッ」

「・・・・たけ・・・ちゃん」

「し、し ししょうーーーッ」

・・・・さいあくだ。竹原先生が・・・竹原先生が、刺されてしまった。腹から背中にかけてしっかりと貫通してるのが、遠目からでも確認できた。さらに俺が涼介たちに気を取られてる隙に銀の炎が突破されて、化け物が俺たちに襲い掛かる。

「あぶねぇッ!遊榎ッ!」

結城は戒を背負った遊榎を突き飛ばし、そのまま串刺に。つらく吐血する中、結城は叫ぶ。

「いいだろ?・・・・すきな子を守るぐらい・・・犬死にでもさ・・・」

そのまま結城は動かなくなり、化け物たちは結城の四肢を引き千切り喰らい始めた。胸が痛い。自分の身が引き千切られるような思いだ。



「どけぇぇぇぇえええええッ!」

俺より先に涼介が発狂し、そのまま、涼介は力任せに長巻を納刀したまま化け物をなぎ倒していく。すぐさま涼介と合流し、隣の校長室へ駆け込み、扉を勢いよく閉める。


だが、化け物の足音はピタリと止み、その場へ静止したようだ。


その後周りを見渡すと綺麗に整理された棚に高そうなカーペットと椅子。

そして、机へ足を組みながら座っている白っぽい水色の髪の少女が、俺たちを待っていたのように座っていた。容姿は白のベレー帽に辰高の制服を着ていた。


「なぁ、君はここで何してるんだい?」

俺が慎重に少女に話かけると、少女は何所からともなく油性マジックとスケッチブックを取り出し、何か書き始めた。少し時間が経つと書き終えたのかスケッチブックを見せてきた。

書いてあった物は何かの記号のような感じで、考古学者に見せればすごく喜びそうな形をしていて、とても俺たちには解読できない。



「ようこそ。私の家へ」

俺は驚き、咄嗟に声のした方へ顔を向けると銀が壁に寄りかかっていた。

「銀、読めるのか、あれ」

俺がそう言うと銀は頷き、俺たちの前へ出てきた。

「久しいなぁ。最初、全然わかんなかったけど、その字を見てピンときた。雫。」

銀んも言葉を聴き、雫は再び油性マジックを走らせ、俺たちに見せてきた。

「えっとなになに?フムフム、わかった。それがお前の言い分か、雫。いや、水龍」

銀が言ったと同時に部屋の空気が一気に悪くなる。そして、雫の眼は黄色へ輝き、スケッチブックを閉じた。その瞬間、窓が閉まっているのに前から突風が俺の側を通って後ろへ抜ける。



―なんとか間に合ったか。



みんなすぐに後ろへ振り向くと、右腕を剣に変えて刺している雫。


それを右手でガッチリと掴み、受け止めている竜汰。


訳のわからないまま、銀は雫に話しかける。

「そこまでだ、雫。さもないと・・・」

銀は右手親指を銀の炎で包み、自分の首元へ突き立てる。そこからは鮮血がスラーっと流れ出す。さらに、銀は言葉を続ける。

「オレはここで命を絶つ!」


そう銀が怒鳴り上げると、雫は少しの硬直の後、剣を元の右腕へ戻し、そのままカーペットに座り込み泣き始めた。それを見ると銀は、突き立てていた手を下ろし、雫の前で屈み、頭を撫で始めた。

「雫。ごめんな、お前の気も知らないで・・・・。だから、オレたちと一緒に来い!」

雫はまた何所からともなく油性マジックを取り出し、カーペットに文字を書き始める。今度のは、俺たちにも読めるカタカナだった。

「ゴメンナサイ ゴメンナサイ ワタシノセイデマチノミンナガ・・・」


そして、雫は沈黙のままカーペットを強く握り締めた。

「・・・・・ふざけるな・・・。」

その声は明らかに怒りがこもり、涼介の目は狂い始める寸前。さらに、雫へ近づき襟掴んで無理やり立たせた。

「お前があの化け物の親玉か・・・。よくも・・・・。よくも、家族を・・・。友達を・・・。竹ちゃんを!」 

そう言いながら、雫をさらに上へと持ち上げていく。首が絞まってるのか雫の顔が段々険しくなってくる。

どう考えても俺には、こんな子が街を焼き払うことなんて到底思えない。


「オレもそう思う。隆也」

声の主は明らかに銀。銀は涼介から雫を引き離すと、お姫様だっこし、こっちを見ていた。


「涼介。オレが確実に言えることは、『雫は目的を何も果たせてない』ってこと」

「どういう意味だよ。それ・・・。教えてくれよ・・・・。」


我を取り戻した涼介は必死に理由を聴くが、銀は縦へ首を振らない。


「すまん。今は教えられない。なぜなら・・・」

突然後ろから、竜太に蹴り飛ばされた。そして、同時に後ろの扉が破壊され、化け物が入ってきた。

「ここにいる理由はない。退却だ」

竜太はそう言い、窓をブチ破り外へ出た。さらに後を追うように俺たちも外へ出た。

外は、暗く化け物が余計におぞましく見える。

「いいか。今から、校門まで一気に走り抜く。ついてこれないものはおいて行く」

そう言って竜太は走り出す。俺たちは言われるがまま、竜太の後を追う、その身のこなしはまるで忍者のように軽く俊敏だった。

それに俺たちは、ついて行くので必死だった。

気づけば、もう校門まで十メートルもない所。遊榎先輩がこけてしまった。

俺はすぐに足を止め、即座に遊榎先輩に手差し出した。だが遊榎先輩は俺の手を弾いた

「アタシ、もうあんたたちに迷惑かけるのはうんざり。さっさと、行け!」

「そんなこと・・・俺にはできない・・・。」

「アホ!ほかのやつはお前が必要不可欠。あたしも戒も、もう限界・・・」

そう言って遊榎先輩は眠るように目を閉じた。その時、化け物が俺に襲いかかる。とっさに持っていた日本刀を盾代わりにし、うまく攻撃を流す。だが、遊榎先輩は無残にも喰い散らされた。クッソ!。俺は歯を食いしばりながら、全力で校門へ抜ける。

そうすると、化け物は校門前で止まり、棒立ちしていた。

「ごくろさま、しばらく危険はないだろう」

その時、俺を抑えていたものが外れ、いつの間にか、木へ激突していた。

ぶつけた顔を両手で押さえていると、近くで草が倒れる音がした。


「おい!真田。どうした!真田」

痛みを抑え、真田の方へ向くと、真田が倒れていた。俺はすぐに真田に駆け寄り、助け起す。

「おい、しっかりしろ。真田!」

俺が声をかけると、すぐに真田は、目を開け、笑顔を見せてくれる。


「大丈夫。ちょっと立ち眩みがしただけ。でも、体の自由が利かないや・・・」

「じゃあ俺がおんぶしてや―」

涼介が提案するが、真田は不満そうに。

「いや」

見事に撃沈した涼介をよそに、俺も真田へ声をかける。



「俺は駄目か?真田」

真田は目線を下へ向け、首を横に振った。少しショックだが、真田嫌なのだから仕方がない、残るは・・・・・。

そう思いながら、竜太を見ていたら、竜太は察したのか真田の手を掴み上げ、立たせた。

そして、竜太はしゃがみ、そのまま真田をおんぶし、辰見神社の方へ歩き出す。



俺と涼介も後ろを歩き出そうとすると、雫をおぶった銀が話しかけきた。

「待ってくれ、隆也。少し話をしないか」

「そうだな。俺もこれからお前を信じていいのか、聞かなきゃな」

そして、改め、涼介と俺と銀は、竜太の後を追うように歩き出した。

最初に質問したのは、涼介からだった。

「銀。あんたは味方か、敵か、はっきりしてもらおうか」

銀は、その問いを聞き、ため息付いてから話し出した。

「オレは味方だ。何が起ころうと、お前らを見捨てないし、向こう側に戻るつもりもない。」

「なら、なぜこいつをかばった。理由を聞こうか?!」

殺気だっている涼介に対して、銀は冷静に答えを返す。

「理由は、二つ。一つは、こいつの能力が必要だから。





もう一つは、・・・・『仲間』だから。



「何それ、俺にも納得いくように説明してくれ!」

涼介がそう訊くと、銀は空を見ながら答える。

「それは、『このままじゃ、風花を救えないから』じゃあ駄目か?」

「どう意味だそれ?」

「そのままの意味だ。さっき、苦しい思いをしながら何を学んだ?怒りか?絶望か?憎しみか?否!、オレたちが学んだのは、全て『未熟』ってことなんじゃないか」



確かに。俺たちは、何もできなかった自分に怒りを感じた、結城先輩が目の前で刺されて絶望を感じた、遊榎先輩が倒れた時、助けてくれなかった竜太を憎しみ。





結局、俺が未熟だからじゃねーか・・・・。





俺も涼介もそれ以上の追求はしなかった。涼介とは、違う解釈かもしれないが、銀と俺と仲間が居れば、なんとかできるじゃないか。少なくとも俺はそう感じた。

しばらく沈黙が続き、銀は刀になり、雫も刀へなった。普通ならびっくりするところだが、なぜかそれに慣れてしまった。我ながら怖い話だ。

 丁度、葉を付けた桜の木の辺りで、涼介がしきりに真田の尻を凝視していた。そんな涼介に俺は小声で話しかけた。

「涼介、お前がそんなやつとは思わなかったよ」

「はぁ、何の話だよ」

「まさか、お前が尻好きだったとは・・・・」

「そうそう、あのラインが~な、って、ち・が・う・よ。竜太の左手だ」

そう言われるがまま、おんぶしている竜太の左手を見る。すると、竜太の左手は真田の尻をガッチリ掴んでるではないか。

「普通、おんぶって太ももを両手で持つものだろ?なのになぜ、竜太は左手だけでおんぶしてるんだ?考えれば考えるほど謎だ・・・・」

「だよな~、うん」

結局、辰見神社へ着くまでの間、ずっと考えていたが、分からず仕舞いでいた。



「・・・・・眠い」

「ちょ、待てよ、どこ行くんだよ」

突然、真田を境内へ降ろし、本堂を飛び越え何処かへ行ってしまった。




「しょうがない。竜太にだって何かあるんだろう、とりあえず日も傾いてきたし、本堂へはいろうか」

そして、俺はいつの間にか眠っていた真田をお姫様抱っこして、本堂へ入り、風花の部屋に寝かす。その後、さすがに疲れている涼介と、さっきより顔つきが穏やかな銀と一緒に温泉へ入った。

空は十六夜の月。月明かりが、俺たちを照らす。長湯してもしょうがないか、元々汗を流すためだしな。しかも俺にはやらなくちゃいけないことがある。



「すまない、涼介、銀。先に上がる」

「お、おう。また後でな、俺はもう少しつかって行くよ。気持ちの整理もしたい・・・・」

「そっか、また後で」

涼介と別れ、俺は親父の形見を手に境内へ向かう。

じっとなんてしてられない。涼介も言っていたが、俺だって気持ちの整理できていないし、無性に刀を振るわずにはいられない。俺は鞘から刀を初めて抜く、刀身は綺麗な波紋に親父の名が赤黒く刻まれている。

「あれ、おかしいなぁ。俺泣いてるのか、涙がとま・・・ら・・・ない・・・」

刀身に自分の涙でぐちゃぐちゃな顔が反射して見える。なんだこの悲劇の主人公みたいな顔は、俺はまだ幸福な方なのに。友達がしっかりそばにいるのに・・・。



「うぉぉおおぉぉぉぉおおおっ!」

あの化け物を思い浮かべ、無我夢中に刀を振るう。空を斬る音が虚しく夜の闇に消え、次第にその音は激しい吐息へ変わる。そして、とうとう体のバランスを崩れて冷たい地面へ倒れこんだ。

「はぁ・・・っはぁ・・・・」

自分の体温より外気の気温が低いのか、体から湯気が絶えず出ていた。


「お前も涼介も似たもの同士だな」

声の方へ勢いつけて体を起こすと、外灯に当たって不気味に見える不敵に笑う銀がそこに居た。

「お前のそういう力任せは向かないと思うんだけど?」

今の言葉が気に食わない俺はゆっくり立ち上がって、反論する。

「どういう意味だよ。それ」

俺がそういうと

「じゃあ、試してみるか!」

その瞬間。周りの空気が俺を突き刺すようにのしかかる。


「く、苦しい・・・。肺が・・・」

無意識に脚を後ろへ引くと突き刺さる空気は消え、銀は少しニンマリしていた。

「やっぱりな」

「どこがだ」

「涼介なら、今のオレに突っ込んできたけどなぁ。だから、主はオレに似てると思うんだけど」

そう言いながら銀は、いつの間にか鳥居の上へ登っていた。



「それがどうした。しかも主って俺のことか?!」

「そう。主は主、オレはあなたに仕えるもの。いま思いついた。」

銀は鳥居から飛び降り、俺の目の前へ降りてきた。

「だから、主にはもっと強くなって欲しいんだが・・・」

「まぁ、そうなんだけど。どうすればいい?」

「そう焦るな、今日はもう寝ろ。それまでにいろいろ考えておくから」

そして、俺に背を向けながら消えてしまった。

相変わらず訳の解らないことをするなぁ、銀はな。


「気も紛れたし・・・・俺も戻るか」


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