~六匹目・休息、街へゆくもの~
俺、神崎 隆也は目を覚まし体を起こすと、涼介の姿はなく陽もそんなに高くはない時間。
俺は寝ぼけながら立ち上がり体を動かすためお堂の戸を開けて境内へ出た。空はモヤがかってるけど今日は晴れそうだ。特に体の痛みも残ってなくて、今日の探索にも支障はなさそうだ。
「起きてたのか、隆也」
その声は聞きなれた男にしては高い声が聞こえてきた。柳 涼介 それが彼の名前だ。
いつもは、うるさいだけだけど結構頼もしいやつだ。
涼介は戸の前にある階段で、なにか思いつめた顔をしながら座っていた。
俺は少し気にしながらも話を進めた。
「ああ、さっきな。どうも体を動かさないと、なまるからな」
「ふ~ん」
と、話をしながら俺は涼介の隣へ腰を下ろした。
「・・・俺たちはこのままどうなるんだろな」
俺は町を見つめながらいつも間にか愚痴をこぼしてしまった。
「さぁな。でもこれだけは言える」
涼介は、自信満々に言い続ける。
「笑ってたらどうにかなるだろってな!」
と、俺の顔を見ながら笑っていた。
俺は、思わず鼻で笑ってしまった。
「鼻で笑うことないだろ?」
少し怒り気味に涼介が怒鳴ってきた。多分、本当に怒ってるわけじゃない。
「ごめん、ごめん。あまりにも予想通り答えが返ってきたさぁ」
俺は笑いながらそう答えると、涼介は質問で返してきた。
「じゃあ隆也はどうなんだよ」
そう言われると困る。正直親父たちもあの炎に焼かれて死んでるかもしれないし、もう誰も生き残っていないかも・・・なら俺らは・・・
「生き抜くしかないな!」
俺はまるで自分の気を紛らわすように立ち上がり叫んだ。
少しの沈黙の後、涼介はスッと立ち上がり、満面の笑みを浮かべた。
「そうだな!そうするしかないな!」
後ろの戸を開けた。そして涼介が俺に向かって話しかけてきた。
「隆也。汗掻いたし、風呂でも行くか」
普通は不思議だろうと思うけど、風花の家は天然温泉だから断水しても風呂には困らないのだ。まだ朝早いし誰もいないだろうと俺はそう思い、涼介と一緒に風呂場へ向かうことにした。風呂場は、お堂を出て左の突き当たりにあり、行くまでには台所がある。でもまだ朝早いのか誰もいない、当たり前かそんなことを考えていると
「あっ・・・俺タオル、忘れた・・・」
涼介がいきなり言い出した。
なんだそれ。風呂のタオルぐらいなら貸してやるのにな、人には好みがあるし強要はしないが・・・
「わかった。じゃあ俺は先に風呂場へ言ってるからな」
「はいよ、後でな」
と言って涼介はお堂のほうへ戻っていった。待ってるのもめんどうだから先に入って待ってるか。
俺は風呂場にある脱衣所に手をかけた。
―フンフ~ン♪
鼻歌か聞こえた時には脱衣所の戸開け、もう手遅れだった。
目の前には、とても武道家には思えないほどの細い手足に色白の肌。それよりも今重要なのは真田が下着姿ってことだ・・・二人の目が合った瞬間、場が凍りつく。
ヤバい、ヤバい。
絶対パンチ一発は免れない、どうする先に謝るか逃げるか・・・
あーヤバい!
思考が俺の頭を駆け巡る中、体の血の気がすごい勢いで引いていくのがわかった。
真田はその反対に顔が肌色からどんどん赤く染まってく。何秒単位の時間が数十分ぐらい感じた頃。
やっと頭と体の動きが一致したのか真田はいきなり右足をほぼ垂直に上げた。
気づいた時には頭と顔にひどい激痛が走る。そして目の前が真っ暗になった。
何所だここは!俺が冷静さを失っているうちに真田は、叫びをあげながらお堂の方へ走り去っていった。やっと我に返った俺は今おかれている状況を確認することにした。
多分真田は俺に対して、かかと落としをした。そして俺は多分床をぶち抜いて、顔だけ床に埋まってる状態なんだろうな。手は普通に動くし、足は感覚的に正座に近い状態のはず。
いや、まて。
これ誰かに見られるの凄く恥ずかしいんだけど!俺が凄く慌てていると、ドタドタと二つの足音が聞こえてくる。うぁぁぁあ~最悪だぁ・・・やっぱりあのかかと落とし避けとけばよかった。後悔にふけっていると、足音は俺の近くで止まった。
「おい、だ大丈夫か?隆也!」
「何してんだよ。」
足音の正体は、涼介と銀だった。二人に手伝ってもらって、暗い床から頭を抜き出すと、何故かホッとしている涼介。そして、今にもため息が出そうな顔をしている銀がそこにいた。
「はぁ・・・びっくりさせんなよ。真田のやつ!」
「そうだな」
二人は少し御立腹なように顔を歪ませている。真田のことも気になるが、先に涼介たちの話を聞くか。
「真田が何かしたのか?」
「もう、こっちが聞きたいよ。お前は真田に何をしたら、『死んじゃったかもしれない』って俺らに泣きついてくるんだよ・・・」
呆れた声で涼介は俺に質問してきた。笑われることを承知の上で俺は話始めた。
「実はな・・・・・・・」
俺は、さっきあったことを一生懸命二人に説明した。
「・・・・・・ってことなんだが」
二人の反応は意外だった。
「そうか、大事なくてよかったなぁ」
「まったくだ」
二人は、ホッとしたように声をもらした。
「どうしたんだよ二人とも、そんなに俺の体はヤワじゃない」
そう俺は・・・
「そうだな。なんせ軽トラックに撥ねられても、打撲で済んじまうんだからな!」
そうそう。結局、そのまま家に帰ったら親父に大目玉食らったっけなぁ・・・ってこんな昔の思い出に浸ってる場合じゃない。早く真田追いかけないと・・・俺は急いで風呂場を後にしようとするが。
「どこ行くんだよ」
銀に腕を捕まれ、元居た所へ引き戻された。
「どこって、真田の所だよ。とにかく俺の顔を見せて安心させなくちゃ駄目だろ?」
俺がそう言うと、銀は黙って俺を脱衣所にある大きな鏡の前へ連れて来さされた。そして、自分の顔を見ると、血がいろんな所に付き、とても人前に立てる顔ではなかった。
「ンまぁ、風呂に入ってからでも遅くはない、真田にも時間がいるだろ?」
涼介が笑み浮かべながら、俺の肩を景気よく叩いた。
確かに一理あるかもしれない。真田も落ち着く時間がいるのかもな。
「そうだけど・・・・」
涼介は、俺の顔を見ずに風呂へ入っていった。理由はわかってるが、このぐらいの血でも駄目なのか~。新しい発見をしつつ、俺も所々破れているYシャツと、布が擦り減ったGパンを脱ぎ捨て風呂場へ向かった。
いやっほ!気持ちいいいぃぃぃ!サイコゥゥゥ!
涼介のはしゃぎ声をよそに俺は、鏡の前で血だらけの顔洗っている。
銀は銀で温泉に興味津々、ゆっくり湯を楽しんでいた。
俺が顔を洗い終わる頃には、落ち着きを取り戻した涼介がゆったり湯船に浮かんでいた。そんな涼介を横目に俺は湯の奥で腰を下ろした。
効能は知らないけど、なかなかいい湯だ。まるで、傷が癒えていくみたいだ。
『みたいじゃなく。そうなんだよ』
銀が突然、テレパシーで気前よく話しかけてきた。
あれ?俺そんなに湯のこと思ってたっけ・・・
『お前の顔と仕草を見れば、それぐらいわかるさ』
俺はとっさに銀の顔を見た。その顔は自信に満ち溢れた顔つきでこっちを見ていた。何かこう・・・ムカつく。まぁいいか、今はそんなことに頭を使ってる場合じゃないしな。
『さてと、俺は真田の所へ行くとするか。』
そして、俺は湯船から立ち上がって出口の方へ向かった。その時には体の傷はほとんど完治していて、傷跡なんか一切なくなっていた。
『行くのはいいが、そこの浮いてる奴も連れて行け。いい加減のぼせるぞ。』
銀の話を聞き、俺は涼介に目を向けた。目の先には涼介が湯船へ仰向けに浮いていた。しょうがないなぁ~本当に・・・
俺は再び湯船に戻り、完全にのぼせた涼介を肩へ乗せて風呂場を後にした。
よっと。俺は肩の涼介を脱衣所へ下ろし、目の前の大きなタオルをかけた。流石の馬鹿でも、今風邪を引いたら薬もないからな。さてと、俺も体を拭いて真田の様子を見に行くか。俺は手早く体の水滴を拭き、着ていた服を着て、脱衣所を出た。
しかし、どんな顔をして会えばいいんだ?
こんな顔か?それとも・・・こんなのか?ん・・・・いろいろ試行錯誤している内に風花もとい真田の部屋の前へ居た。あーもう自棄だ、どうにでもなれ!。俺は覚悟を決め、部屋の戸を3回ノックしたが、反応はなかった。
「真田。俺だ、神崎だ。は、入るぞ」
俺が部屋へ入ろうとドアに手をかけようとすると、ドアが独りでに開いた。なんだ?気を抜いた瞬間、真田がいきなり飛びついてきた。
真田の目は泣きじゃくった様に赤く、紙はほどけたままで、黒い袖はさらに黒く染まっていた。
「もう・・・こないからしんじゃったとおもったじゃない」
真田の迫力に圧倒されながらも、とりあえず言い訳をしないと
「ご、ごめんな。顔が血だらけだったから、お風呂に入ってたら遅くなった。」
「ばか・・・・」
俺の顔を見ても真田は不安なのか、俺から離れようとはしなかった。
むしろ、俺のボロボロなTシャツに顔をうずめてきた。小刻みに身体を震わせながら・・・。
あーもう!。何やってんだ俺は!ここでカッコいい一言も言えないのかよ、神崎隆也!。いや、言ってやるさ。
「死ぬわけないだろ?なんせ、身体が丈夫なのがとりえでもあるからな。」
ていうか、これぐらいで死ぬなら化け物の攻撃で一発昇天だっての。それとも、真田には何かそういう“たぐい”のトラウマでもあるのか?
「・・・・本当に?」
真田はまだ半信半疑のようだ。俺はさらに真田の頭を撫でながら言葉を続ける。
「ああ。約束だ。もし真田より早く死んだら俺もの全部くれてやる。でも、残ってたらの話だけどな」
俺はいまできる精一杯の笑顔で真田に今思ってること伝えると、真田の手がスルッと俺のから離れた。そして、右側のポケットから、髪の色と一緒の髪留め用の輪ゴムを取り出す。
それから、いつものポニーテールに髪をくくると、俺の顔を見ながら。
「絶対だから!。約束だよ!嘘ついたら約束通りに何でも好きなもの貰うからねーだ!」
と、笑いながらお堂の方へ走り去ってしまった。
単純というなんと言うか。って、涼介を脱衣所に放置したままだった。銀がまだ風呂にいるなら連れてきてもらうか。俺は心の中で銀を呼んでみることにした。
『銀。そっちは今何してるんだ?』
『何って神社の階段前に集合しているが・・・・』
『本当か?それは!』
『昨日言ってただろう。「明日、用意ができた奴から集合な」と、お前が言ったのだろう。』
そうだっけか?イマイチ思い出せない。まぁ、いいか。銀がそういう言うならそうなんだろう。
『忘れてた!今すぐ支度して行くから、待っててくれよ。』
それから俺は、すぐに神社の階段前に急いだ。
「遅いぞ、隆也! 何してたんだよ。たくぅ~」
神社の階段前に着くやいなや、涼介が俺に怒鳴り付けてきた。
だが、お前にだけは言われたくない。
「それはすまないと思ってるけど、さっきまでのぼせて湯船にプカプカ浮いてのはどこのどいつだったけなぁ~」
俺は、白々しく言い振舞うと、涼介が悔しそうに言い返してきた。
「あっ!汚ねぇぞ。そういうの・・・」
そして、グダグダしている俺たちに怒ったのか、真田が間に割って会話入ってきた。
「ちょっと! いつまで茶番劇やってる?ほら、さっさと行くよ!」
と、俺たち言い残して階段を駆け降りて行ってしまった。
まずい。この状況で一人で行動するのは危険すぎる!誰かを走って迎えに行くようだった。
そう想い涼介と顔を見合わせた。どうやら言わなくても、やろうとしていることは一緒みたいだ。
―真田を追いかけるぞ!
俺と涼介は、階段を急いで駆け降りた。両脇の木々は、火の粉のせいなのか少し枯れ気味だった。そして、やっと階段を降りた辺りにいる真田を見つけ、階段を降りきったところで声をかけようとしたが・・・。
俺たち三人から笑顔がすっと消えていた。目の前は、いろんな人々で賑わっていた場所はなく、建物の瓦礫ともう何かも判らない骨の残骸が、いろんな所に転がっていた。
それなりに“覚悟”をして来たつもりだったけど、正直この先がすごく不安になった。
皆が絶句している中、涼介は俺と真田の前に立ち、話を始めた。
「何さっきから棒立ちしてるんだよ。ほら、早くしないと昨日の化け物がまたいつ襲ってくるか。」
「ああ、そうだな。今行く! 」
俺はすぐに涼介に追いつき、後ろを振り向くと真田はまだ[心、此処に在らず]の様子だった。それに気づいた俺は再び、真田の目の前で立ち止まった。
「何してるんだ?真田。ほら、早くしないと涼介に置いてけぼりにされるぞ」
俺がそう話かけると、真田はコクリと頷き涼介の方へとぼとぼ歩き出した。だが、その足取りは重くまるで奴隷のようだった。
そして、やっとの思いで涼介の前に辿り着くと涼介のテンションはまるで中学生が修学旅行に来たみたいだ。そして、そのテンションで声を上げた。
「よっしゃーっ!それじゃあ元気出して行こう!」
「元気出して行くのはわかったけど、まずは誰の家から回るんだ?」
「そ、それは・・・。まずは、ここから一番近い俺の家で、次に近い真田の家。そして最後に隆也の家ってことでどうかなぁ?」
涼介はまさに今考えたような口振りで答えた。
「わかった。それで行こう。真田もいいよな!」
俺はイマイチ元気のない真田に話を持ちかけた。けど真田は ボーッと空を見ていた。
「どうした真田?大丈夫か?」
俺は心配になり、真田の肩を軽く叩くと、真田はびっくりして後ろに飛び退いた。
「だ、大丈夫だから・・・大丈夫だから・・・」
真田はゆっくりと、俺の目の前を通り過ぎ、先を歩く涼介についていった。
大丈夫か・・・そんなわけないくせに。そんな訳で、何故かハイテンションな涼介と、残酷な現実を見せられ気負いしている真田。そして、そんな感じの二人を不安に思う俺、神崎隆也は涼介の言う通りにまず、涼介の家へ向かうことにした。
通る道端には、瓦礫や誰かも分からない骨が無数に転がって、家屋もほとんど瓦礫と変われない状態だった。そんなことのせいなのか、少し歩いただけで1キロ歩くをほどの気持ちだった。そして涼介の家へ着くと、涼介は自分の家で何かを探してるようだった。
「涼介。俺にできるないか?」
俺にも何かできるかもしれない。そんな気持ちで涼介に話しかけた。
「ああ、じゃあ・・・バケツ! 探し来てくれよ!」涼介は探し物しながら、答えてくれた。
「分かった。探してくる。それまで待ってくれよな!」
それに対して涼介は左腕を上へ挙げ、親指を突き立てていた。
俺は真田を連れて、近くの雑貨屋に足を運んできた。その雑貨屋も周りと同じく、瓦礫となっていてバケツを探すのは難しくなっていた。いざ、探そうと俺が腕捲りをしようとした時だった。
「なに?! 涼介の態度! 人の気も知らないで!」
真田はいきなり涼介の愚痴を溢し始めた。それはまるで、今までの不安が爆発したようだった。
「お、落ち着け真田! アイツだって悪気があって、あんなことをしてるんじゃないんだよ!」
「悪気がないってどういうことよ! 」とっさにでた俺の言葉に真田は食い付いてきた。
これは、話さなきゃ駄目だろうな~もし、話したことが涼介にバレたら只じゃすまないかもしれないけど、言うしかないよな。
「実は・・・アイツのお父さんの遺言なんだ・・・」真田はキョットンとしたままで、俺は話を続けながら近くの瓦礫に腰をかけた。
「俺もよくは知らないけど、大体今から7年前。俺が涼介と知り合う前の話だ・・・」