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~二匹目・悪夢、友を欲するもの~

 「か、火事だ!」

男の大声が聞こえた途端、俺は、火の海になった村にいた。しかも決まって一軒の家の前に立っている。

 「はぁ~またか・・・」

普通なら大慌てで逃げ惑うところだが・・・

―これは悪夢なんだ。

ここ最近何度も見ていて正直もう・・・見るに耐えない。

何度も何度も同じことの繰り返し。そして最期にはドラゴンに食われる・・・。

最初はかなり逃げ惑ったが、無駄だとわかって以来、真 っ直ぐドラゴンの元へ向かうようになってしまった。

なぜなら早くこの悪夢から覚めたいからな。

こんな阿鼻叫唤の世界なんか見たくない・・・まさに昔の絵巻物に出てきそうな地獄絵図。

そんな嫌な場所を抜けると、神社の境内へ着く、いつもならここでドラゴンが待ってるのだが、今回は全然違った。

 「そなたの言い訳など聞きとうない!」

そこには、立花によく似た巫女服の女性がドラゴンを怒鳴りつけていた。

 「私は、そなたにそんなことして欲しいと望みましたか?否。私はそなたの幸せ願いました、なのにそなたは・・・・」

とうとうその女性は体の力が抜けたように泣き崩れた。

そして、ドラゴンがこちらに気づいたのか目で刺し殺すように睨みつけている。

大丈夫、これは悪夢だ。たとえ襲われてもこの悪夢から覚めるだけ・・・さめるだ・・・

―ガオオオォォオオォォォッ!

耳が破裂寸前の大咆哮と次の瞬間・・・

隆也ッ!

すると、そこには声を枯らしながら大声で俺のことを呼び続ける涼介とその横で俺の手を握っている立花、それにボカリを破裂しそうな勢いで握っている黒ジャージの真田の姿がそこにはあった。

 「大丈夫か?隆也」

 「ああ、大丈夫だ。ちょっとな」

俺がちょっと苦笑いした瞬間、立花はすごい勢いで平手を頬にもらった。

 「もう!涼介から全部聞いたよ、あんな無茶なロードワークをして!心配したんだから・・・」

立花は、そう言いながら俺を力いっぱい抱きしめられた。痛い・・・抱きしめられた痛みより立花に心配させた自分が情けない。泣かしたくはなかったのにな、何やってんだ俺は・・・そんな自分のことを責めていると、真田が眉間にしわを寄せながら近づいてきた。

 「ちょ、ちょっと離れなさいよ。風花」

何故か真田が慌てて立花を邪魔者のように撥ね退け、そのまま立花の手を引いてお堂の中へ入っていった。

なんだかさっぱりわからない、少なくとも俺にはさっぱりだ。

「隆也もすみにおけないなぁ~」

涼介が少しニヤけ顔で話しかけてきた。

「涼介。何ニヤニヤしてんの?」

「いや、なにもないよ。ただ・・・」

涼介は、少し暗い顔していた。

俺、何か悪いことしたか?とりあえずわけがわからない以上理由を聞こうか。

「ただ?」

「なんでもない!」

涼介が大声で怒鳴り上げた。

びっくりした・・・涼介がこんな大きい声を出すとはな思いもしなかったなぁ。

「そ、そうかならいいんだけど」

「ごめん!隆也。いきなり怒鳴ったりして」

涼介が自分の失態に悶えてるちょうどその頃に、お堂の中から少しおどおどしている真田と、あきらかになにか企んでいる立花がこっちに歩いてきた。

 「おかえり。真田、風花」

と言っている涼介に目もくれず、俺の目の前まで真田が歩み寄ってきた。

「わた、わた」

なぜか真田がいまにも爆発しそうなりながら俺に何かを伝えようとしていた。

綿?何が言いたいのかわからないがこれだけは分かる・・・

―か、かわいい。

なんだこの小動物は、憎みたくても憎めないような仕草。真田にもこんなところがあったんだな。

「わた、わた・・・」

大丈夫だ、真田。俺は後20分ぐらいなら待てる。だから奇想天外なことだけは言わないでくれよ、頼むから。

「わた、私と・・・」

真田の顔が言葉を詰まらせるたびに少しずつ赤く染まっていく。

な、なんだ?『私と』ってまさか、告白か?この状況で?まさかぁ~あはは・・・

「わた・・・私と組み手して下さい!」

まるでギリギリまで耐えた火山のように真田は叫んだ。

前言撤回。なぜこうなった・・・そもそも顔を赤くして言うことではなかった気がする。少なくとも俺はそう思う。

真田はさらに勢いで

「た、ただ組み手じゃあやる気にならないでしょ?だ、だから条件を付けてあげる。わ、私が勝ったら・・・」

おいおい、真田は俺に何をさせるつもりだ?ジュース1一本か?それとも1週間サンドバックとかか!ま、まさか1つなんでも聞くとか?どちらにしろ俺は負けられないが。とりあえず俺がもし負けたらのことが気になる

 「か、勝ったら?」

俺はそう真田に聞きて固唾を呑んだ。

 「私が勝ったら―になって・・・」

顔をうつむきながら真田は小声で呟いた。

 「いまなんて言った?」

いつの間にか真田の傍にいた涼介が聞いていた。

俺も自分の耳を疑うほどの発言だったが涼介は本当に聞こえなかったみたいだ

すると、真田は大声で

「私の友達になって欲しいって言ったの!」

すぐに真田は、照れを隠すように立花の後ろに隠しまった。

なるほど、さっきから顔赤かったのはそのせいか。でもただ単に友達になりたかったならこんな勝負をしかけなくてもよかったのに・・・あ、わかった。きっと風花の入れ知恵だろう、まぁそんなことはおいといてだ。問題は・・・

思考めぐらせている間に涼介が

「何言ってるんだよ。もう俺たちはとも―」

俺は慌てて涼介を真田から遠ざける。

「ちょっと、何するんだよ隆也!」

「いいからこっちにこい」

涼介の腕を掴みそのままお堂へと連れて行った。


 お堂は昼間でも薄暗く、いまにも何か出そうなぐらい気味が悪い。他には、大きな棚と安そうな絵巻物が飾ってある。きわめつけにはお堂の大仏がさらに気味の悪さをかもし出していた。

「いい加減に放してくれよ」

「あ、悪い悪い」

ここまでくれば声を出しても立花や真田には聞こえないだろう。俺は涼介の手を放し、言葉を続けた。

「危ない、危ない。もう少しで大事なチャンスが無駄になるところだった」

「何のチャンスだよ。ここまで連れて来たんだから何かあるんだよな」

「ある。真田の勝負、俺は受ける」

策はないが、思惑がある。

「え。受ける必要ないだろ?なんせ俺たちと真田はもう友達みたいなものじゃんか」

涼介は、不機嫌そうに言っている。

それは俺だってわかっているさ。でも向こうはそう思ってないみたいだ。

だからそれを逆手に取る。それには立花の入れ知恵も利用させてもらうがな

「あぁ。それはわかっているさ、でもあっちだけが条件を出すのは不公平じゃないか?」

多分、いまの俺はすごいドヤっとした顔していたと思うが気にせずに話を続けた。

「だから、こっちも条件を出す。」

涼介は真剣にな眼差しで、固唾を呑んだ。

「その条件って・・・?」

すごい興味深々な涼介が顔で俺を見つめていた。

俺は自信満々に腕を組みながら言い放った。

「俺が勝ったら涼介の家でバイトをしてもらう」

一瞬にして涼介の目が冷たくなったのがすぐにわかった。すぐに涼介が俺の提案に喰いついて来た。

「なんで俺の家でバイトなんだよ!」

涼介少し怒りながら言ってきた。

俺が思っていた反応のまんまだったから少し笑いながら

「俺も考え無しで真田を涼介のところでバイトなんてさせると思ってるのか?」

「なんか理由でもあるのか?」

涼介の肩を持ち、真剣に。

「涼介。お前はまたあんな物体Xを食べたいのか・・・・」

そうだ。今日最大級の最悪だったあの弁当・・・そもそも何を入れればあんな味になるんだ?一度聞いてみたいのもだが、まだ俺も命は欲しいから当分聞けないがな。

ぶつぶつ涼介が何か呟いていた。と思ったときに

「食いたくない!」

「そうだろ涼介。だから、涼介の家でバイトして料理がうまくなれば、もう俺たちはあの  物体Xを食べなくて済む。それに真田には『もう友達だろ?』って言ってやればいい、これで完璧丸く収まるってわけだ」

すると、涼介は少し考え込んだ後に

「そもそも隆也は真田に勝てるのか?」

「さぁな」

「『さぁな』ってなんだよ。これで負けでもしたら・・・」

「俺の戦歴に2度目の黒星がつくだけだ、他はなんのデメリットもない。やってみる価値はあるだろ?涼介」

涼介はコクリと頷き

「わかったよ。その代わり、しくじるなよ」

「わかってるって!さぁ、行くか」


 お堂の戸開け、真田の元へ向かう。真田はまだ照れているのが、堂々と境内の真ん中で胸の前で腕を組みながら仁王立ちしていた。

さて、ここからが本番俺の思惑道理に進めばいいのだがな・・・

俺は真田の目を見て

「真田。その勝負受けて立とう!」

真田はよっほど、うれしかったのか少し顔が浮かれていたが、すぐに顔を横に振り気合十分に真田は 準備体操を始めた。

「じゃあ、早速は始めるよ」

その姿はまるで、格闘家みたい・・・いやそのものだ。おっと関心してる場合じゃあない。こっちの用件を伝えなければ。

「そう慌てるな。そっちだけが条件を出すのはすこし不公平だろう?」

俺がそう言うと、予想しないなかった素振りを見せるがすぐに真田は口を開ける

「じょ、条件って?まさかそんな―」

そのまま真田は俯いてぶつぶつと赤面しながらつぶやき始めた。

とりあえず何か誤解されてるような・・・まぁ、こっちはこっちでさっき涼介に話した通りに進めるだけだがな。

「真田聞いてくれ。もしこっちが勝ったら、涼介の家で1週間バイトすること」

真田は再び顔を横に振り、俺の目を見て

「いいよ。私はぜったい負けないもん!」

自身満々に真田は、無い胸を張っていた。

よし。組み手の条件は決まった。

後は・・・

「では、一度でも技が決まるか、相手を降参させた方が勝ちね」

凛としたこの声は、まさしく立花の声だった・・・し、しまった。

先にルールを決められてしまった。まぁ、こっちの作戦には支障はない。

「わかった。そのルール、受けて立つ!」

俺はそう言いながら竹刀を真田へ向ける。負けず劣らずに真田も

「ぜったい負けないもんだ!」

いつもの革手袋をしたこぶしを俺に突き伸ばした。


俺と真田は互いに準備を済まし、涼介が

「それでは、真田響子対神崎隆也との模擬戦を始める。お互いに礼!」

「お願いします!」

「押忍!」

審判は涼介と立花がやってくれるみたい、さて舞台は整った。

ここからが本番、行くぞ真田!

「尋常に・・・始め!」

と、涼介の合図と同時に真田は一気に距離を詰め、腹部を目掛けて右の拳を後ろへ引く。が、真田はすぐに後ろへ飛び退きそのまま俺の周りをゆっくりと警戒しながら歩き出す。

対して俺は、開始から一歩も動いていない、なぜなら俺は戦う気がない。

いや、違う。戦う気がないじゃなくて戦えない・・・俺はできるだけ女の子に手を上げることはなんてできない。だからと言って勝負から逃げるわけにいかないし、結局真田に手を出さずに勝つには・・・

―恐怖させて降参させるしかない。

と言っても相手は真田、いつもの威嚇じゃあ攻撃させないのが精一杯みたい。

ならもっと威嚇するまで!俺は目を閉じ、全神経を研ぎ澄ます。

真田はそれを見計らったように俺の背後を取り、急接近し、攻撃すると同時に俺はすぐさま背後の真田へ竹刀を振る。勿論当てるつもりはないが相手は格闘技の姫、当たるか外れるギリギリを狙う。

一瞬だった。俺はすぐに後ろを振り向き真田の頭部を目掛け、竹刀を振る体制を取る。対して真田はすぐに俺の懐に入り、掌底を寸前だったが、問題ない。

なんせ俺の予想通りだからな、すぐに前に出していた左足を素早く後ろへ引き、真田の掌底をかわす。そのまま胴を目掛け竹刀を振り下ろした。

風の切る音と共に竹刀は真田の右胴へ触れていた。

「それまで!」

涼介が組み手の勝敗を告げる

「勝者、神崎隆也。お互いに礼!」

真田から一歩引き俺は礼をする。

「ありがとうございました」

「あ、ぁりが・・・」

―うわあぁぁぁあぁぁあぁん!

突然、真田が声を上げ泣き崩れてしまった。あわわ、これは想定外。

泣きべそだけで済むと思っていたんだが、まさかここまで泣くとは・・・まぁ、いくら強いと言っても真田は女の子だもんな・・・。とりあえず・・・

俺は中腰になって、真田に声をかける。

「さ、真田?」

「うるさい!そんなに私と友達になるのが嫌い?」

やめろ、真田。まるで俺がいじめてるみたいじゃないか・・・

さて、少し恥ずかしいが・・・

「嫌いなわけ・・・ないだろ?だって俺たちもう友達じゃないか」

俺はしゃがみ、笑顔で右手を差し伸べた。

「うん!」

真田は涙を流しながら俺の手を握る。少し冷たいなぁ

「―」

「えっ、いまなんて・・・?」

真田は突然立ち上がり、笑顔で

「私の負けって言ったんだよ!」

と、真田は俺の手を引っ張り立たされた思ったら・・・ぎゅっと抱きつかれた。

ちょうど真田の頭が俺の鼻先に当たっていい香りがする、それにあんな力があるのに筋肉ばかりじゃないみたい。

「お二人さん、水を差すようなんだけど何か忘れてない?」

涼介が俺と真田を見ながらそう言うと、真田は俺を軽く突き飛ばし、組み手の前よりも顔が赤くなる。

「約束は約束よ!柳の家でバイトすればいいんでしょ?わ、わかってるわよそんなの!」

真田は高らかな声は遠くまで響いていた。



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