~一匹目・茶髪、技を持つもの~
翌日
ピピピピピッピピピピッピピピ・・・・
―うるさいなぁ
スマートフォンが鳴り出す。適当にボタンを押して止め、部屋の時計を見ると5時半頃を指している。
少し肌寒い中、起きてすぐにいつもジャージに着替えて外で準備運動を一通り済ませ・・・
「さて、走るか」
まだ外が薄暗く、靄がかって肌寒いけど、これも日課のひとつ。
春は薄い桃色が綺麗な桜の花びらが散り、夏は蝉の声は聞こえず木々がこすり合う音が聞こえる。
秋にはモジミやらイチョウの紅葉も一風変わったように見える。
冬は白い息が出でて霜が降りていたり、しかもたまに雪とか降ったりしてなかなか飽きない道だ。
家から辰見神社を三往復する。
一汗掻き、家へ戻ると、鉄を叩く独特の音と機械音がガンガンと鳴り響く。
多分、昨日の作業の続きをしているのか、少し気になるが、作業場には決して入ってはいけない決まりだ。理由は危ないし、万が一、製作中の刃が欠けたりしたら、とんでもないことになってしまうからな。
まぁ、その内見れるかもしれないし何より『自分の好きなこと』の邪魔だけはしたくないからな。
俺は、作業場の隣にある風呂場で軽く汗を流した後、体拭きあらかじめ畳んで置いた制服に着替えて、学校の準備を早々に済ませ居間へ向かう。
「おはよう、隆也」
「おはよう、かあさ・・・」
―殺気!?
後ろから聞こえる床の軋む音に気づき、とっさに持っていた竹刀で木刀を膝をうまくたたみ、衝撃を抑え受け止めた。
「やるようになったなぁ、息子よ」
親父は、息子の成長が嬉しいのか、笑いながら木刀を下げた。
「はぁ・・・おはよう、親父」
俺はその笑顔に圧倒されながら、少しため息をつきながら言葉を返した。
「おはよう、息子よ!」
親父は、相変わらず何考えてるのかさっぱりだ。
「隆也、時間!」
俺は、かあさんに言われとっさに時計を見ると、俺の考えていた、出発時刻をとっくに過ぎていた。
「やっべぇ、かあさん、親父行ってきます!」
そして、俺はすぐに朝飯を口の中へかき込み、身支度をして家を飛び出した。
辰見高校。略して辰校は俺の通っている高校だ。辰校は、丘の上にあって少し眺めるぐらいの高さもある。
しかも階段の下から少し上を覗けば女子のきれいな花園が・・・と少し期待したが現実は非情である。
女子のほとんどが体操服のズボン穿いていて見えないという何か残念な気持ちがいっぱいに・・・
おっと、何を考えているんだ俺は!そんなバカなことに自分でツッコミを入れながら首を横に振っていると、後ろの階段から聞きなれた声がした。
「おーい、隆也!」
俺はその声を聞き立ち止まり、無視するのも可哀相なので後ろを振り向いた。
「おはよう、りょうす・・・」
涼介の服装を見た俺は呆れたようにため息をつき、顔に手を当ててゆっくりと口を開いた。
「・・・あのさぁ涼介・・・。その制服なぁ・・・」
「なんだよ、勿体ぶらないで教え・・・」
涼介は、そう言いながら、自分の制服に目線を落としてみると・・・
「こ、これ辰中の制服じゃんか!?」
涼介はカバンを忘れて行くほど慌てて階段を駆け下りて行った。
あいつ、なんでさっきまで気づかないんだよ。家を出る時に気づくだろ?普通・・・
ぶつぶつと独り言を言いながら、階段に置き去りにされた可哀相な涼介のカバンを拾い上げた。
そして、登りかけの階段を上がる。
階段を上がりきると、そこには高校にしては少し狭そうな校庭が広がっていた。
校庭には朝練の終わったのか運動部が校庭をトンボを使い均している。
それを横目に俺は真っすぐに下駄箱へ向かい、買ったばかりの上靴へ履き替る。
それから俺は近くの階段を上がり4階まで上がった。
そして目の前にある小さな個人ロッカー開け、昨日置いていった教科書取り自分のカバンへしまう。
その後、俺は一番端っこの教室に入ったところでチャイムが鳴り始める。
そして、SHが始まった。
「よーし、みんな席に着け~SH始めるぞ」
と同時に、さっき着替えに帰った涼介が教室に入ってきた。
「ギリギリーセーフ!」
「アウトだ、涼介」
「イテッ!」
そして、涼介の頭を出席簿で軽く叩いて、師匠が入ってきた。
「えっと、青木、今日掃除当番でそれから赤木は・・・・」
彼は、師・・・じゃなくて竹原先生。俺ら1年A組の担任をしていて、俺を剣道の世界へ連れ込んでくれた人なんだ。もし俺が師匠に会っていなかったら、涼介とは縁がなかったかもしれない。
「・・・・ということでSHを終わる。今日も一日頑張れよ!」
そして、一時間目の授業、現代文が始まった。
授業はまず、先生の自己紹介から始まるのがセオリーだ。女の先生は黒板に自分の名前を書き出す。
「え~と。新任の本田 美穂子ですぅ。みんなよろしくお願いします。」
本田先生がペコリと頭を下げる。すると、社交辞令のように拍手がパラパラと鳴った。
そして、さっそく授業が始まる。教科書開き、新品のノートに折り目を付けてシンプルなシャーペンを手に取り、ノートをとり始める。他の生徒は、スマートフォンや授業と関係がない本など、とにかくクラスの三分の一は授業とは別のことをしていた。先生は先生で、緊張しているのか胸に手を当てながら、黒板にタイトルを書いていた。
「え~と。今日は、『山月記』というやつをやって行きたいと思いますぅ。」
授業中は、ペンを動かす音と本田先生の説明している声。そして・・・・。
「はいはい!先生、先生!。なぜ人が虎になったんですか?!」
俺はペンを置き、両手で頭を抱えた。そうなぜなら・・・
「や、柳君。それは後でみんなに説明するから、待っててね。」
本田先生は、あたふたしながら涼介の質問に答えていた。
頑張れ、先生。この質問攻めに耐えればあなたはきっと、すごい先生になる。俺は心の底から応援していた。なぜなら、この質問攻めあった先生はほとんどの校長か教頭に抜擢されているからだ。そして、涼介がこんなに質問しているせいか、その授業でいままで五十点以下を取った生徒はいないほどに・・・
「でさぁ。先生・・・」
「だからね。柳君・・・」
説明してる間に終わりを告げるチャイムが鳴り、高校生初の授業は『本田先生と柳涼介君の討論会』になってしまったのである。
まぁ、いいか。いまに始まったことじゃないしな。
そして、授業は数学・理科・英語・と続き・・・
はぁ~やっと嫌いな英語が終わった。
授業が終わり、椅子にもたれながら背伸びしていると後ろから寝息が聞こえてきた。
はぁ~仕方がねぇな、俺は涼介の肩を揺らす。
「起きろ涼介。もう昼だぞ」
やっと起きた涼介は、背伸びをしてすごい早業で弁当を広げていた。
「さっさと食べようぜ、隆也」
「ごめん、涼介。先食べといてくれ」
俺が言う前に涼介は弁当を食べていた。しかも、口の中に食べ物を含みながらしゃべりかけてくる。
「あれ、珍しいなぁ。隆也が学食なんてな」
「かあさんが朝、たまたま寝坊して弁当ができなかっただけだって」
「ふ~ん、隆也のかあさんも寝坊するんだな」
と、涼介にしては興味があるみたいな感じだった。まさか嘘がばれたか?
「ま、まぁな。じゃあ買ってくる」
焦る気持ちを抑えながら、俺はそそくさと1年A組の教室を後にした。
ふぅ・・・なんとかやり過ごせたか、さすがに遅刻しそうだったから弁当忘れたとか言えないよな。とりあえず、食堂に行くか。
食堂は体育館の1階にある。しかも体育館に行くには必ず1階か2階の渡り廊下をわたらなくちゃいけない。・・・まぁ、普通か。
俺が4階の廊下を歩いていると、女子がこっちを見ながらひそひそ話をしているところを見かける。う~ん、気になる・・・ひょっとして汗臭いか?と制服の臭いを嗅いでみるが別に汗臭いわけじゃないみたい。歩き進んで渡り廊下に近い階段を1階まで降りる。そして、階段の裏へ歩き出すと渡り廊下がある。渡り廊下の右側には綺麗な噴水に花壇や三人がけベンチがあって弁当を食べるのに最適な場所だ。でもあまりにも人気すぎて1年生が食べれるところなんてないけどな。渡り廊下を抜け、右へ行くと食堂がある。
うぁ~さすがに込んでるなぁ、結構人気があるとは聞いていたけれど、まさか列が入り口までのびてるほどとはな。とほほ、しょうがない並ぶかと、俺は列の最後尾に並んだ。
しばらく並んでいると、体育館裏から男の声が聞こえてきた。
「なぁ、いいだろ?ちょっとぐらいさぁ~な?」
こういう時って普通なら知らんぷりするけど、俺はこういう時は知らんぷりできないんだよな。俺はせっかく並んでいた列を抜けて体育館裏を覗いた。そこには不良って言葉が似合いそうな凸凹二人組と、茶髪にポーニテールで少しつり目の少女がもめていた。
こういうのはほっとけないタチでね。俺はすぐに助けに入った。
「やめとけよ、お前ら!」
俺が不良に怒鳴りを上げると、不良もこちらへ注意が向き言い返してきた。
「なんだテメェ!」
「兄貴こいつは・・・」
どうやら凹の方は俺のことを知ってるみたいだ。
「誰だって関係ェねぇ!」
だけど、凸のほうは知らないらしい。
そして、しびれを切らしたのか、凸の不良が俺に向かって殴りかかってきた。
しかし、俺は不良の攻撃に意識を集中させ目を閉じた。
「くそ!なめたマネしやがって!」
そして、声を上げる凸不良の攻撃を当たる寸前で目を開けた。俺は、まるで映画のワンシーンみたいにヒラりとかわす。そうすると不良はバランスを崩した。俺はその隙を見逃さず、首元に手刀を入れた。
「・・・・うっ」
そのまま、凸不良は地面にドサっと倒れ、ノびていた。
「チッ、覚えてろよ!」
そして、もう片方の不良は、奇声を上げながら何処かへ走り去った。
たく、いつまでも不良ってのはいるんだな。まぁ、あんなに弱かったら不良にもならないがな。
俺はさっきのポニーテールの少女に話しかけるため、傍へ近寄った。
とりあえず、少女の安否が心配なので顔を見て声をかけてみた。
「大丈夫か?」
「うん・・・」
ポニーテールの少女は、顔赤らめながらそわそわしていた。ん?熱でもあるのかそれとも何かされたか?と思い顔を近づける。
「なんだ?熱でもなるのか?」
ここからじゃ顔がよく見えないからと、少女に覗こもうすると・・・
イヤッ!
そんな声が聞こえた瞬間・・・
俺は、何が起こったかわからなかったが、お腹に激痛と共にポニーテールの少女にボディーブローを腹に叩き込まれていた。俺は少しめまいがした後、地面へ膝をついた。まるで海に飛び込んだ時、お腹から落ちたよりすごい痛みだった。
「ご、ごめんなさい!」
慌ててポニーテールの少女は、校舎の方へ走り去ってしまった。
痛みを耐えながら、俺はひとりの名前を思い出した。名前は確か・・・真田 響子だったけか、うわさできたことがあったがまさかあの子だったとは・・・
真田とは、中学の時から学校が一緒だったのだけど、しゃべる機会がなくて、ほとんど面識はない。が、たまにとんでもないうわさを耳にする。
例えば、『岩を素手で割る』とか『暴力団相手にノックアウトさせた』とか『校舎の一部を壊して弁償した』などある。最後のは嘘ぽいが、そんな感じで付いたキャッチコピーは
―響くところに真田あり。
って訳で、この島では結構有名人である。
まぁ、こんなうわさはあまり信じられないんだけど、あの威力のボディブローだ信じるしかあるまい。
しかも、使える武術は、柔術、空手、合気道など某漫画に出てくるケ○イチぐらい実力あるらしい。が、大会などにはでていないみたいだ。風のうわさではあの武術はすべて護身用に習てるらしい。
ありえないだろ?普通はな、なんせ彼女の両親は空手の達人だし、しまいには祖父は柔術の達人なのだ。まさに、天性の格闘家だな、しまいには手にはナックルダスターみたいな革手袋をしている始末・・・。
数分後、やっと痛みが引いてきたところで、俺は昼飯を買いに食堂へ向かったのだが・・・
「マジかぁよ・・・」
俺は、絶望に肩を落とした。
食堂には、もう飲み物しか残ってなかった。食堂がこんなに人気な理由は、味良しでしかも安いと評判で特に竜田揚げのから揚げ弁当。しかも限定50個しか売らないのだが味は天下一品だそうだ。くっそ~俺も一度でいいから食べたかったのにな~
俺は、仕方がなく食堂入り口前にある紙パックしかない自動販売機へ立ち寄った。そして、俺の愛飲、森○のココアを買いトボトボと教室へ戻った。
そこには、うまそうに自前弁当を食べている涼介が居た。涼介は俺を見つけると、弁当の箸を止めて不思議そうに話しかけてきた。
「あれ?隆也、弁当買いに行ったんじゃなかったのか?」
「あははは・・・なんか面倒ごとを片付けていたら売れ切れてしまってなぁ」
「面倒ごと?」
俺は、真田が不良に絡まれていて助けたことその後ボディブローをされたことを簡単に説明した。
「ふ~ん、それは災難だったなぁ~てかお前もそういうのは見てみぬふりすればいいのにな」
涼介がそういうと、俺は飽きれたように言い返した。
「しょうがないだろ、そんなことできないんだから」
涼介は俺がそう答えると知ってたかのように答えてきた。
「まぁ、お前がそういう人間じゃないってのはわかってるけどさぁ・・・」
そんな笑談を俺はココアを飲みながら、涼介としていると・・・
「こ、これよかったら・・・」
真田が頬を赤らめながら弁当を差してきた。どうやらくれるようだが俺にそんなものもらえることはしていなし、とりあえず理由を聞いてみた。
「俺に?なんで?」
「あ、あの時殴っちゃったし、そのお詫びに・・・」
なるほど、確かにお詫びとしては悪い気はしない。ちょうど弁当がなかったしな。
「気にしなくてよかったのに」
「そ、そう?もしかしていらなかった?」
あわわ、そんな悲しい顔しないでくれよ。
「そんなことはない。ありがたくもらうよ」
真田からの弁当を俺が受け取ると、真田はすごい速さで顔を隠しながら教室から出て行ってしまった。同じクラスなのにな。
それより弁当だ。弁当はかあさんに作ってもらっているものと少し違った。おそるおそる弁当を開けてみると、卵焼きにウィンナー、から揚げなどのおがずにうまそうなご飯、いたって普通の弁当だ。はたしてお味の方は・・・
―ぐあああぁぁぁぁッッ!
いままで食べたことのない味がした。例えるなら腐ったウーロン茶を知らずに飲んだ並みのまずさだ。っていうかほのかに洗剤の味が・・・・
「うぉい!隆也!しっかりしろ!」
いきなり涼介が俺の胸倉を掴みながら怒鳴りかけてきた。
「なんだいきなり」
「いきなりなんかじゃねーよ!5分も全然反応しないから・・・」
涼介は、急に心配そうな顔になった。無理もないあいつの親父は不幸な事故で6年前に亡くしていて、そのせいか人が倒れたり、血を見るだけで超が付くほどの心配性になってしまう。
「そうだったのか、心配かけてすまない」
「あははは!俺も心配性は、治んないなぁ」
そういうと涼介は胸倉から手を離して、ニッコリ笑顔を浮かべた。
結局、あの弁当は何処かに行ってしまった・・・
はぁ、流石に飯抜きはキツイなぁ~とか空腹という悪魔との死闘は3時間も及び放課後となった。
俺が廊下を出て帰ろうとしている時、涼介が教室の前で肩を叩きながら話しかけてきた。
「なぁ、隆也帰ろうよ」
「ああ、わかった。でも真っ直ぐ帰るけどいいか?」
でないとお腹が減りすぎて耐え切れない、買い食いしようにも雑誌やら漫画で今月はピンチ。だからなにも買えないし、もう残る手は家に帰って何かたべるしかない。
涼介は少し考え込むと、突然俺の顔を見ながらこっちを見て。
「いいよ。でもその代わり帰り道は俺が決めるけどいい?」
「わかった。だけど早く帰ろうか、でないと腹が減って死にそうだ」
涼介が何か企んでいるのは察知したが、そんなことよりあまりの空腹で腹が痛くてそれどころじゃない、今は帰るが先決だ。
俺たちは教室を後にして4階から1階に降り、靴箱へ急いだ。
が、気になることが一点・・・涼介が教室でてからなにかニヤニヤ?いや違う。なにかにウキウキしている様子だった。
いやな予感がする・・・
そう考えながら二人とも上靴から下靴へ履き替えた。そして学校出た瞬間、涼介が軽く準備運動をして小言で俺へ話しかけてきた。
「走るよ、隆也・・・」
聞き返す間もないまま涼介が走り出した。俺もすぐに涼介を訳がわからないまま追いかける。
すると、すぐ後ろからいろんな声が聞こえてきて、後ろを振り向くと、運動部がリレーのアンカーみたいな勢いで追いかけてきてるじゃないか!部活の勧誘にもほどがある。
ざっと見ただけで陸上、柔道、バスケットボール、野球・・・・他にもいたが俺の知っている知識ではこのぐらいしかわからない。
しかもみんな速い、特に陸上部。あと数センチで手が届きそうな距離まで詰め寄られていたが、すぐそこには校門があった。
校門を出れば流石に追ってこないだろう・・・
そして、涼介が校門を通過し、俺も1秒遅れで校門を出るが・・・涼介は足を止めないどころか加速し始める。
「おい涼介一体どこまで走るんだ?」
「いつまでって、後ろを振り切るまでだよ」
涼介はそう言いながら親指で後ろを指す。
誰も来ていないと思いながら振り向くと・・・陸上部らしき女子二人組みがまだ追いかけて来ていた。
(どんなに入部して欲しいんだよ・・・)
俺は少し飽きれながらも、後ろの陸上部とのランデブーは日が傾くまで続く。
いつの間にか俺たちは、町の中へ来ていた。そして、後ろにいる陸上部の一人が涼介に指を指しながら。
「待て!柳 涼介」
「待てと言われて待つやつがいるかよ!」
俺たちは商店街の路地裏へ逃げ込み、やっとの思いで陸上部の二人組みから逃れた。
さ、さすがに振り切っただろう。呼吸を整えながらも俺たちは人一人通れそうな路地裏を歩き、目的地は涼介の家。
狭い路地裏を抜けて、俺の家の前へ出ると。
「見つけたわよ。あなた達!」
「もう逃げ場はないよ!」
そこには、さっき撒いたはずの陸上部二人組みが仁王立ちをしていた。
「うげっ。に、逃げるぞ隆也」
「お、おう!」
俺たちは、陸上部の包囲網を掻い潜って、目的地へ全力で走った。
「こらー待ちなさい!」
陸上部も追いかけようとするが、向こうは走りっぱなしだったようでこれ以上は追ってこなかった。それに気づかずに俺達は、涼介の家を通りすぎいつの間にか辰見神社前まで来ていた。
な、何キロ走ったんだよ・・・軽く十キロぐらいは走ったぞ・・・
正直、疲れた。制服の中に着てるシャツが絞れると、思うほどに汗は滝のように流れて喉も砂漠みたいにカラカラだ。少し前屈みになりながら手を膝に置き、肩で息をする俺に対して涼介は余裕を見せるかのように体を動かして。
「ふぅ~いい汗掻いた。隆也、俺ちょっと飲み物買ってくる!」
マジか・・・あれだけ走ったのにまだ走れるのか、さすが陸上部があんなに必死で勧誘だけはあるということか・・・家の手伝いで弁当の配達をやってるみたいだがそんなにスタミナが付くとは到底思えない。
「ほら、ボカリ買ってきたぞ」
まだまだ元気いっぱいの涼介がボカリを買ってきてくれた。た、助かった・・・後もう少しで倒れるところだった。
「サ、サンキュー涼介」
ボカリを涼介から受け取ろうとしたその時・・・
あ、あれ。めまいが・・・段々意識が遠のき、ついには
―ドサッ
俺は、前のめりに倒れてしまった。