第二話
「おい晃、なんで先行ったんだよ!お前が起こしてくれねーから遅刻しちゃったじゃんかよ~」
そう言って私の隣の席の源晃に絡んでいるのは男臭い感じのイケメンだ。
「あ、あんた噂の女優さんじゃ~ん。よろしく」
「えぇ、よろしく」
差し出された手を握り返して、柔らかに微笑む。
「俺は晃と同じグループのミンジュン」
「ミンジュン?日本人らしくない名前ね」
「そりゃ、俺韓国人だもん。俺らは多国籍グループアイドルっていうの?他にもイギリス人とか中国人とかいるし」
彼は見た目は日本人だが韓国人らしい。ほどよく筋肉がついた体に派手な茶色の髪の毛がよく似合っている。
「野分さん、次の授業は移動なの。ダンスレッスンだから着替えなきゃ。更衣室の場所もわからないだろうから一緒に行きましょ」
話しかけてくれたのは委員長の女の子だ。
委員長とはいえ、声をかけてくれるのはとてもありがたい。
「ありがと。じぁ、私先に行くから」
「お、じゃまたあとで~」
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持ってきているレッスン着に着替えてレッスン室に向かう。
「ダンスレッスンって、女子は皆楽しみにしてるの。だいたいペアダンスの授業になるから。うちのクラスって晃君とかミンジュン君とか他にももうデビューしてるアイドルや俳優が多いじゃない?だから」
「そうなんだ。確かにあんなにかっこいい人とペアになれたら嬉しいかもね。でもドキドキしちゃって踊れないかも」
「野分さんでもドキドキしたりするの!?」
本当に驚いているような様子で尋ねてくるのが可愛らしい。
「当たり前じゃない。私だって人間だもん」
「野分さんってすごすぎる・・。完璧じゃない!美人で演技が上手くて人気もあって・・・。同い年なのに違いすぎる」
「みんなが思ってるほど私は完璧じゃないのよ。あ、ここがレッスン室?」
『lessonroom』と書かれたプレートのかかった部屋を指差す。
「そうだよ。授業が始まる前までに準備運動して体つくっておかないといけないの」
事務所の中にある練習生用のレッスン室と同じ感じだ。
壁一面の鏡とバー。さすがスター候補生学校。
軽く柔軟をして言われた通りに体を作っておく。
「さ、授業を始めるわよ。今日はペアダンスにするから近くの人と組んで~」
ダンス授業の担当は背の高いスラッとしたいかにもダンサーのタイプの女性だ。
「晃君!私といっしょに組も!!」「やだ、私とやろ!!」「私と組もうよ~!」
こんな感じに人気のある男子の周りには女子が集まってくるらしい。
同性で組んでる人たちもいるし、私は委員長と組ませてもらおうかな~。
「ね、俺と組も」
そう誘ってきたのはさっきまで女子に囲まれていた源晃だ。
「いいの?あんなに熱心に誘ってくれる子達がいるじゃない」
「別にいいよ。俺は野分ちゃんと組みたいんだから」
「そっ。じゃいっしょにやろっか」
「この曲で踊ってもらうわよ。好きにペアと動いてみて」
流れてきたのはメロディーだけの曲。
ほかのペアはそれぞれ曲に合わせて体を動かしている。
彼が軽くステップを踏んだりするのでそれに合わせて動いてみる。
やっぱりアイドルなだけあってダンスが上手い。
「へぇ、上手いじゃん」
「まぁね。ジャズとヒップホップとバレエは3歳からやってるし。事務所のレッスンにもあるもの」
「だからか。ミュージカルの中のダンスも上手かったもんね」
「いつの話?私最近ミュージカルは出てないんだけど」
少女めいた可愛らしい顔を愉快に笑わせた。
「野分ちゃんの初めてのミュージカル。俺はそんときからの年季の入ったファンなわけ」
「うそ!?初めてのミュージカルって私が7歳の時よ、」
「だから、ず~っと野分ちゃんを追いかけ続けてきたわけ。この世界入ったのも野分ちゃんが理由だし。野分ちゃんとこの事務所のオーディションに落ちちゃって、今の事務所にお世話になってるの」
いきなり彼の胸元に引き付けられた。
近い、とてつもなく顔と体が密接している。
「ゆかりって呼んでもいい?」
彼のまとったコロンが強く香ってくる。
「いいわよ。でもカメラの前では絶対にダメ。わかった、晃?」
わざとらしく人差し指を彼の唇に当てる。やられっぱなしは嫌。
「わかってる、ゆかり」