第1章 第7話 運命の引き金(3)
皆さんこんばんは。
こんな時間帯ですが新しい話をお贈りいたします。
そもそも、精霊魔法とは一般人の家庭でも使われる程の汎用性を持つ分、生活の根幹を支えているものである。
精霊魔法の原理は、『魔力を込めた言葉』や高速魔術言語で守護精霊に語り掛け、自身の魔力を引き渡し、大気に漂う精霊に指示を出してもらい、魔術と同じ効果を引き起こす。その為細かい指定を行わなくとも大体の効果が得られる。それ故に精霊魔法が一般人にも普及している。基本的にはどんな人でさえも精霊との親和性を持っている為に強弱の差はあれど誰でも使えるものだ。
また、一般的に指し示す魔術とは精霊に頼らず、自分自身が魔力の指向性、効果制御、適用範囲を指定しなければならない。使いこなせれば精霊魔法以上に使い勝手は良いが、制御に多大な精神力を必要とする為に、精霊魔法と魔術のどちらが優れているとは言い難い。
それでも、精霊魔法は守護精霊が居れば扱う事が出来る分、普及率は雲泥の差である。
因みに、固定魔法とは装具に呪文を刻み込んで魔術を行使する、もしくは補助する魔術で、魔力が弱くても魔力増幅を元に発動させることができる魔術を指す。
日常ではカマドの火起し機構等の一般家庭の設備、非日常では武具や防具に言葉を刻むことによって加護を行う事が可能と多岐に渡る。
発動には持ち主や使用者の魔力を使用する。少ない力で効果を発動させることに特化している為、発動効果は単純ではあるが術式の構築はかなり複雑であり柔軟性は皆無である。
他にも種類はあるが一般的に使われているものは以上の3種類となっている。
* * *
アルファレドは結局、作り終わった魔力核2つを使わずに暫くの間凍結する事に決めた。
魔力核に刻まれた高速魔法言語の術式に、新たに『封印』の固定魔法を組み込む。
『封印』の固定魔法は特定の人物の命令以外に術式を起動できなくさせる物である。
取り敢えずそれだけを施して保存用の箱に収める。念の為にこちらにも2重、3重の『封印』を施す。
「いささか厳重にし過ぎなのでは?」
パリッシュが疑問を投げかけると、疲れた表情でアルファレドは答える。
「僕は間違っていないと思っているが、いつ誰がこれを狙うか知れない。用心に越したことは無いだろう」
箱の蓋を閉めて研究成果物を収める棚に置く。
不用心だと思われるが、その程度で良いと思ってはいた。
箱は精霊銀で出来ている。強化の固定魔法、知りうる限りの抗魔術式を刻んだそれは現在イシュトラドにて登録されている魔術師や技術師では到底無理矢理に開ける事は出来ないものだ。国外に流出されない限りは問題は無いだろう。
ここまでの作業を行って研究室の開室時刻より少し前。作業時間は意外に短かった。もう暫くすればそれぞれの研究室に人が集まってくる時間になる。
それは、作業明けにアルファレドが気分転換に研究室の外の空気を吸いに行こうと思った矢先に起こった。
ゴンゴンというノッカーを叩く音が研究室の入り口の扉から聞こえる。
「誰かな?こんな時間帯に」
どうせ、どこかの研究室の者が助力でも借りに来たのだろう。そう思ってアルファレドは扉を開けると、そこにはイシュトラド第4騎士団副団長、ジャーナム=ベイレイズ=ガノトラ=フォートグリフとその配下数名であった。
「これはジャーナム殿、お久しぶりですね」
「ラーディア様もご機嫌麗しいようで」
アルファレドは表面上では穏やかな表情を保っていたが内心では毒気吐いて居た。
(白々しい男だ)
研究室一室に護衛とは言えど、配下10人近くを引き連れてとは感心できない。明らかに威圧目的の事だろうと思惑を巡らせる。
人数が人数だけに全員は研究室には入れそうには無い。
「私と他3名が入る。他は外で待機だ」
手早くジャーナムが指示を出して研究室に入る。
研究室は手狭な上に、元来アルファレドしか研究員が居なかったために椅子が少ない。1つの机をアルファレドとジャーナムが挟む様に座る。そして、それぞれの後方にパリッシュと騎士の3人が立つ形になった。
「パリッシュ、お茶を用意して」
「わかりました」
パリッシュは一度深く礼を取ると給湯に向かう。それを見てジャーナムは深く感心したように大きく頷いた。
「成る程、確かに仕草や外見は人と遜色が無い。素晴らしい技術だ」
程無く出てきた紅茶にも満足が行った様で、ジャーナムは表情を和らげては居た。腹の中では何を考えているかは分からないが。
「それで副団長とも有ろう方がどの様な趣旨で我が研究室に?」
アルファレドとしてもこのまま化かし合いを続けて無駄に時間を取る気にもなれない。
『いざという時は頼んだよ?』
『了解致しました』
契約者と被契約者の間で出来る念話を使ってアルファレドはパリッシュに話しかける。
相手は部下を率いている。いざとなったら強硬策に出る事も視野に入れているに違いない。いつでも武器を取れる様に、警戒を怠らない姿勢を取って臨む。
目の前の第4騎士団副団長たる男は殊更飾り立てもせずにあっさりと要件を口にした。
「実はメドクス・ローメの軍属配備を視野に入れて頂きたい」
その言葉はアルファレドがほんの少し前に警戒していた通りの言葉だった。
――> To Be Continued.
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
次回は少し戦闘シーンなんかも挟みます。
拙い表現かもしれないですが頑張りますのでよろしくお願いいたします。