第1章 第6話 運命の引き金(2)
皆さんお疲れ様です。
ちょっぴり過去編第2話です。
物語の起承転結の『起』の重要部分です。
今しばらくお付き合い下さい。
アルファレドは自分の研究室に溜め息交じりに戻ってきたのをパリッシュは見ていた。
普段より疲れた様相を見せるその顔は、普段から浮世離れしている雰囲気に更に影を落としているように思える。
「アルファレド様、朝からお疲れの様ですが、本日は休養を取った方がよろしいのではないですか?」
研究室で稼働していたメドクス・ローメ(魔力人形)のパリッシュが主であるアルファレドに労いの言葉をかけた。
以前はその様な言葉も持たず、唯そこに在るだけと云った存在であったが、今では一つの意志を持った存在と肯定できるようにまで成った。
魔力核に憑依契約を行って2月、アルファレドが懇切丁寧に人語から始まり、一般常識や学問を説いて今に至る。パリッシュは今や人語を解し、基礎的ながら薬剤調合を行う事が出来るまでになった。難点を言うならば感情表現が乏しいという所だろうか。
「お茶でも煎れましょう」
パリッシュは備え付けの魔力釜に火を灯して薬缶をくべる。
アルファレドは思う。随分板についたな、と。
パリッシュの造形は少女を参考としている。少し低めの伸長、長い金髪、金の瞳。代表的な金の属性を持つ容姿。給仕服を着た姿は少し背伸びをした少女の印象がある。
少女の容姿をしているのはアルファレドが少女を嗜好としている訳では無く、唯単に実験の一環として、不自然に思えない程度の幼さが残った身体でどこまで出力を出す事ができるのか、を確認する目的があった為。
それでも、彼は心の何処かには『我が子が居たら』という『もしも』を想像していたのかもしれない。この国では一般的に12歳で成人の儀を行い、15歳で婚姻適齢期となる。アルファレドは27歳。10歳程度の子供を我が子として育てていてもおかしくは無い年齢だ。故に12歳程度の身体に仕上げたメドクス・ローメをアルファレドは我が子の様に思い始めていた。
「主、お茶を煎れ終わりました。本日は疲れも有りましょう。南部産の紅茶にミルクと満月草の粉末を使っています」
アルファレドの書類机の上に置かれたカップには茶色い液体に控えめのミルクと緑色の粉末がマーブル模様を描いていた。満月草はそれ自体には苦味が有り、中々飲めたものでは無いが、熱を若干通してミルクに混ぜる事で苦味と強い匂いが緩和されて飲み易くするのだ。
アルファレドは書類机に腰を掛けて一口口に含む。
「うん、手際も味も随分良くなった」
「お褒めに預かり光栄です」
「もう少し柔らかい言葉遣いが出来ればもう給仕としては完璧だね」
苦笑を添えて穏やかな口調を返すアルファレド。それを見てパリッシュは安堵する。いつもの主だ、と。
こうしていつもの朝がやってくる。
アルファレドの研究室は実質、彼とパリッシュのみで、他には研究員は居ない。ある意味、皇族としての特権として研究室1つを私物化に近い形で占有していた。その分、最上階で一番間取りの小さい研究室を使わせて頂いて居るのだが。それでも彼はその点に関しては申し訳無さを感じてはいた。研究内容が内容だけに外部には漏らす事は出来ない。そう云う評価ゆえであったが為に最高機密研究階層に宛がわれたのだった。
紅茶を煽ってアルファレドは一息吐くと、パリッシュに口を開いた。
「パリッシュ。もうすぐ君に姉妹ができる。君はどう思うかね?」
「私がでしょうか?」
「そう、僕はこの研究を『人を護る為の研究』として続けて来た。それは確かに母上の研究を引き継いだ上で新たに志して継続して来た。私情が無い訳では無い。しかし、間違い無くそこには人を傷つける為とか、諍いを起こす為とか、その様な事の為にしてきた訳では無いのだよ」
「解ります。我が主にその様な意思が在るのなら、そもそも私が憑依契約など結べるわけが有りません。『人に害を成す事当たわず』という不文律が有りますゆえ」
「そうだろうね。それこそ守護精霊に戦争の道具にでも成れと言った矢先には――」
「国から守護精霊が消える事でしょう。大気に満ちている通常の精霊と守護精霊は霊挌が違い、ある程度自己の意志を持って居ます。もし、守護精霊に戦争の駒を強要する事が有れば瞬く間に他の守護精霊に伝播し、国中の守護精霊が消える事でしょう」
「そうか、困ったものだ」
そもそも、守護精霊とは人一人々々に加護を与える者で、研究記録では人の成長や得手不得手の影響、また使える精霊魔法に関与している。守護精霊が居ない人の成長は遅くなり、精霊魔法も行使する事は出来ない。
基本は一人に付き一つの守護精霊が憑いているものだが、稀に複数憑いている人も居る。イシュトラド皇国では皇族がそれに当たる。皇族は自己の守護精霊の他に、『皇家の精霊』というものが憑いている。この守護精霊の有無を通して皇族であるかの判別を行うのだ。
因みに、パリッシュは『皇家の精霊』を憑依契約に使っている。元から皇族に執着心を抱いていなかったアルファレドだった故の行動だった。
もし、一般にメドクス・ローメが出回るとしても、自分の守護精霊を憑依契約に使うために、守護精霊との結び付きが弱まり過ぎたなら精霊魔法が使えなくなる弊害も出るだろう。
もっとも、別の存在に変質してしまうので、行使できる精霊魔法の質の低下や発動するまでの時間が延びる等の弊害は避けられないものに成る。メドクス・ローメを使役するなら、できれば魔術を行使する事が出来る程度の知識は必要だろう。
もし、国中の守護精霊が消えた場合、国民は精霊魔法が使えなくなる上に人としての成長も著しく遅くなる。国力の低下所か、最悪国が崩壊してしまうのだ。
そうアルファレドは考えを纏めていた。
――> To Be Continued.
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
風邪で身体が怠いので少し執筆ペースが落ち気味です。
皆さんも風邪には十分ご注意を。






