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クオス・メネケス -銃騎士物語-  作者: 水姫 七瀬
第1章 記憶喪失の少女
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第1章 第4話 不備の代償

みなさんこんばんは。

寒い日が続いていますね。

ご注意ください。

私は思いっきり風邪をひいて寝込みましたorz

厳しい寒波が今週中襲ってくるみたいなのでみんな気を付けて下さい。

(2013/03/09 旧第7話と旧8話の統合をしました)



 アンガースが屋敷に戻ると騒然としていた。

 給仕1人が伸され、警備に当たっていた者に負傷者5名。

 少女一人に屋敷を引っ掻き回されたにしては人的被害が大き過ぎた。


「だからあんな野蛮な少女など……」


「今はそんなことを言っている場合では……」


 ロビーを駆け回る侍女達の愚痴を聞き流してアンガースは近場の侍女にカルティナとパリッシュを呼ぶようにと命じる。

 程無くして、カルティナとパリッシュが駆け付けた。


「アンガース様、主はどの様な容体ですか!?」


 パリッシュに加えては血相を変えて縋り付かんばかりの勢いであった。


「すまない、もう少し様子を深く探るべきだった」


 アンガースは顔を曇らせて謝罪を口にした。

 少女は土で汚れた上に、右手は暴走した魔力でただれていた。

 包帯で巻かれた右足は、いつの間にか解けて失って居たらしく、今は太腿部が紫色に変色しかけている様子が少し覗く。

 顔は土気色をして浅く呼吸を繰り返すだけで意識が無い状態だった。


「あなた、とりあえずベッドへ!」


 カルティナを先頭にパリッシュ、少女を抱えたアンガースが急いで寝室へと走る。

症状を詳しく診ていないので状態を把握していないが、顔色が土気色の上に小さく浅い呼吸を繰り返す状態は非常に危険だと判る。


「早くベッドに寝かせてあげて、それとあなたは侍女に命じて清潔な布を幾つかとお湯を沸かして持って来て貰って」


 アンガースは頷いて少女をベッドに卸すと慌ただしく部屋を飛び出していく。


「パリッシュは回復の精霊術は使える?」


「初歩的なものでしたら……。この見た目ですが属性は主と同じ『金』の属性ですから」


 金の属性は特化した性質は持たないが、火、水、風、土の4属性と強い親和性を持って居て、4属性の中級精霊魔法や魔術を使用することができる特殊な性質を持っている。


 カルティナは素早く脈拍から体温、状態を診て魔力枯渇による重度の衰弱と、怪我を無理しておした為に患部が壊死仕掛けていることを確認する。


「このままだと非常にまずい……」


 カルティナは一人ごちて天井を仰ぎ見る。


「そんなに悪いのですか?」


「正直に言いますと、私では手に負えかねるかと……。ただアルフに魔力回復用の薬剤を以前頂いていました。それを使いましょう」



      *      *      *



 カルティナはパリッシュに後を任せると、薬剤を取りに自室へと足を速めた。

 カルティナの自室と言えど、そこは調剤用の工房だ。大きな机に数多くの調合材料の瓶が納まった戸棚、薬品保存用の大型金庫とむしろ研究室に近い佇まいをしている。

 カルティナは薬品保存用の大型金庫に近付いて開けると中身を物色し始めた。

 元来研究者とは知識面は優れているが、整理などに対してはずぼらな人間が多い。カルティナもその例に漏れず整理が苦手だ。金庫の中も当然未整理のまま色々なものが適当に詰め込まれているために目あれのものが見つからない。


「ああ、見つからない。こんなことなら普段から整理しておけばよかった……」


 一人で愚痴を呟きながらひっくり返す。

 やがて一つの紙の貼られた小瓶が見つかる。


「あった!」


 瓶に貼られた紙には『アルリオン』と記されている。

 このアルリオンという薬は一般には出回っていない高級薬である。

 材料も、竜の鱗、サルネア草、その他諸々の希少材料を使用した上に調剤の難易度もかなり高い。高レベルの調剤士でないと作成できないのだ。

 ゆえに、この薬は貴族間での高額取引でしか出回っていないものである。

 因みに、この薬の作成者はアルファレドである為に効果は折り紙つきの代物だ。


 カルティナは意外と時間を喰った為に、慌てて戻る。

 部屋にはすでに幾人かの侍女とアンガースが居て、パリッシュは思い詰めた顔で少女に回復魔術を使っていた。


「ごめん、お待たせ。探すのに時間が掛かってしまったわ」


「見つかりましたか?」


「ええ、魔力と体力を両方回復させるような薬だから効果はあると思います。ただ怪我等の肉体的な損傷に関しては効き難い薬だからできるだけ回復魔術を継続してあげて」


 カルティナはそう言うと、侍女の一人に白湯と水差しを用意させる。


「結構濃度の濃い薬だから白湯で割りながら飲ませましょう」


 手際良く白湯に薬を注ぎながら濃度を調整すると、少女に飲ませていく。すると徐々にだが顔色も良くなってきた。何とか峠は越えそうだった。



      *      *      *



 暫くするとフォレスタ家専属の医術師も到着した。名をグウェイズ=ハルマーという腕の立つ男性。

 濃い青の瞳に薄い青色に白髪交じりの頭髪を油脂で撫で付けた痩せた厳しい顔をしていた。

 医術師と言うのは回復系の精霊魔法が使える医者の事で、人命救助のエキスパートの総称として知られる。

 玄関先で出迎えた際にはかなりの慌てた姿で現れた。


「フォレスタ様、今日は奥方様がどの様な容態で?」


 普段、錬金術師の称号を持つカルティナがそのまま邸宅内の医療業務を引き受けている。そのフォレスタ邸に医術師が呼ばれるのはカルティナが病に伏せったケース以外には今まで無かったのだ。

 その為の慌て振りだったのだろう。


「いや、妻は健やかで今は病の一つもしていない。実は別の急患なのだが」


「奥方様でも手におえないと?」


「ああ、申し訳ないが助力を頼む」


 その後二人は二言三言交わして急いで客間へと向かうと、既に『アルリオン』を少女に飲ませ終わったカルティナも治療用の精霊術を使っていた。


「ああ、グウェイズ先生。来て頂けましたか」


 カルティナが今部屋に入ってきた医術師を見て安堵する。

 グウェイズは水属性、回復用の精霊魔法に秀でた属性の人だ。より大きな回復用の精霊魔法を必要とするこの場では真に有り難い存在だった。


「夫人、これはどうしたことで?」


 屋敷中の医療に識有る者が一堂に会しているこの場はグウェイズにも困惑させるほどだった。


「この子を助けて下さい」


 必死の形相で懇願するカルティナの脇には浅く呼吸をする年端も行かない少女が一人。余程カルティナには大切な人物なのかと思ってグウェイズは頷いた。


「判りました。夫人は何か使えそうな霊薬に心当たり有れば調剤をお願いします」


「どうかお願いします」


 深々と頭を垂れて立ち上がると自分の工房へとカルティナは駆け出した。


「さて、わしも少しは頑張らないといけないようだ」


「お願いします。師父」


 アンガースに言われるでもなく、グウェイズは回復の精霊魔法を行使し始める。


「Ei Juss Farlling-Cremmence, Ann-RagissettFarnum-La-Mush」


 呪言を呟くと一際少女を包み込む青色の光が強くなる。

 それに続いてパリッシュも体内残っている魔力で精いっぱいの回復魔術を行使する。



      *      *      *



 一方、カルティナは自室兼工房に戻って調合に入る。


 草花棚から『グラシス草』と『テクチャ草』を取り出す。

 『グラシス草』は傷をいやす効果がある草として有名であり、『テクチャ草』は炎症を抑える効果がある。


 カルティナは器具棚からすり鉢を引き出して二種類の草を入れてすりこ木で磨り潰す。

 出来るだけ丁寧に、細かく刻んで潰す。この行為には重要性がある。粒が揃わなければ効果が乱れる。磨り潰すという単純な行為でさえ調剤では重要な工程だ。

 均等な粒になった所で『スフィア』を加える。傷薬や体力を回復させる薬、所謂ポーションの類の基礎薬だ。これは効能を高め、薬品の持続力を高める物だ。

 カルティナは粒状になった草の入ったすり鉢にゆっくりと『スフィア』を流し込みながら掻き混ぜる。粒状の草が『スフィア』に混ざり切ったら、戸棚から一つの鉱石を取り出す。

 鉱石は『レイヨン』という名で、液状の物に溶け込んで粘土状に変化する性質を持っている。それをすり鉢の真ん中に置き、すりこ木で潰して薬液に溶かして粘土状に変えて行く。


「よし…そろそろこれも完成」


 カルティナがすりこ木を置いて杓ですくって瓶に移す。

 瓶のラベルに『ラロタファーナム』と記して席を立った。


 『ラロタファーナム』は塗布薬であり、精霊魔法と呼応して効果を高める事が出来る一種の霊薬。『レイヨン』がその効能を持ち合わせている。


「これできっと……助けてみせる!」


 瓶を抱えてカルティナは急いで客間へと引き返した。



      *      *      *



 客間では相変わらず治療が続けられていた。

 パリッシュは余力が無くなったのか治療用の精霊魔法の行使から外れて椅子に座っていた。

 そこにけたたましく扉を押し開いてカルティナが飛び込んできた。


「夫人! 何か手はありましたか!?」


 駆け寄ってきたカルティナにグウェイズが訊ねると、カルティナは大きく頷いた。


「ええ、『ラロタファーナム』を作ってきたわ。これが効けば少しはマシになるかも」


「判りました。早速使いましょう」


「ええ、パリッシュ、お疲れの所悪いけれど手伝って貰えないかしら?」


「判りました」


 グウェイズが治療を続ける中、カルティナとパリッシュは右手の包帯をはぎ取って行く。大分火傷の炎症は収まってきているが、皮膚の再生が間に合っていない。

 カルティナは一息吐くと、患部に『ラロタファーナム』を塗布する。


「ぐぅ……」


 少女の口から苦しげな声を聴いて塗布を躊躇してしまうが、彼女の為と思いできるだけ丁寧に塗って行く。

 次は足の壊死しかけている部分へ塗布する。

 一通りの治療が必要な患部に塗布すると、カルティナも治療に加わる。

 錬金術師は医学、薬学、魔術を統べるエキスパートである為、カルティナもある程度は自分で治療行為を行う事が出来る。

 治療に掛かる人員が増えればそれだけ効率も上がるし、『ラロタファーナム』の効果もあって目に見えるレベルで治療の速度が上がる。これなら3間(1時間半)程度で治療が完了しそうだった。



      *      *      *



 治療が終わるとグウェイズに後を任せてアンガース、カルティナ、パリッシュの3人はアンガースの書斎に来ていた。


「こんな事になって疲れているかも知れないが、事態が事態なだけに早く情報を得ておきたい。一体何があったんだ? アルファレドは子供に戻っただけでなく、女になって更には記憶を無くしているようだった。とてもじゃ無いが事情を知っておかなければ対処はできん」


 沈痛な面持ちでアンガースが問うと、パリッシュは顔を上げて語り始めた。


「あれは5日前の事でした。アルファレド様が定時の研究成果報告会が終わった後に第三皇子の配下がやってきたのです」






                    ――> To Be Continued.

結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。

誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。


スローペースな物語ですが今後もよろしくお願いいたします。

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