第3章 第7話 首都ヴィリシュタール
冗談なくお久しぶりです。
もうなんて言うか色々と忙しかったのと、一回原稿がぽしゃった為にモチベーションが駄々下がりで……。
お待たせして本当に申し訳ありません。
本年度最後の更新となりますが新しいお話をおおくりいたします。
首都ヴィリシュタールに到着したのは4日目の日が落ちかけた頃。
ハイルロッドは首都から向かって東側。
今は雪原にしか見えない首都外縁の東農村部を抜けて、首都東門にある馬車駅へと入る。
首都ヴィリシュタールは小高い丘の上に建つ山城の様な形で発展している。
街の外周は城壁でぐるりと囲い、北から南西に掛けて山脈が走っている。乾季は山脈の為に他の国土よりは雨があり、寒季は山おろしによって少し寒い。
必然と寒季は訪れる旅人も少なく、乗合馬車も数を少なくする。
もっとも、乗合馬車が多ければ馬車駅も恐ろしい仕事量になるだろう。
寒季の馬車は鉄鋲の付いた車輪で移動となるが、首都の城壁内は石畳を敷き詰められ、整地されている。鉄鋲が生きるのは整地されていない道であって、整地された道では活かせない。それ故に馬車駅での交換が義務付けられている。
そんな馬車駅に、フォレスタ家の大型馬車が到着する。
「雪中ご苦労さまです、証明符をお願いします」
「お願いします」
事前に公式申請した証である証明符をローグリフが渡し、それを衛兵が確認を行う。
「確認できました。8番停車場へ馬車を停めて、街用馬車に乗り換えて下さい」
「了解しました。お手数おかけします」
フォレスタ家の馬車は指定された停車場で馬車を繋ぎ、全員降り始める。
日が落ちつつあるこの時間からの車輪の換装は時間的に不可能で、翌日換装作業を終えた頃を見計らってローグリフとコトルニクスが引き取りに行くことになった。
乗換作業は手早く行われ、必要な日常品と手土産程度の品物を馬車から男衆が積み下ろし、乗換先の場所へと移していく。
そんな中、長旅と雪中の戦いで疲弊しきって熱を出したアリシアをパリッシュが横抱きにして馬車を乗り移った。
街用馬車は少し小柄で、2台に乗り分けることになる。
1台目はローグリフ、コトルニクス、ベルティ、シーリアの4人が、2台目にはアンガース、カルティナ、パリッシュ、そしてアリシアの4人が乗ることになった。
「はあ……とうとう着いてしまったわね……」
「そうだな。正直な話、来たくは無かったというのが正直な感想だな」
「そうですね」
馬車の車窓から見える街並みを見ながら、3人が言葉を交わす。
「あれ? お母様、お父様?」
声に気付いてカルティナが横を見ると、アリシアが熱のせいで赤くなった顔を上げているのを確認する。
「シア、起きちゃった?」
「なんだか……ガタゴト音がして……揺れるし、気持ち悪いかも……」
カルティナにしな垂れかかる様な無理な体勢だったからだろうか、吐息の少し荒い声が細く響く。
「もう少しだから辛抱して」
「……うん」
「Soutra Trta-KallayrattoFajell Toy-Wanjuss.」
カルティナがアリシアの額に冷気を纏った手を当てる。
「気持ち良い……ありがと……お母様……」
再び静かになった車内に3人の溜息が漏れる。
* * *
積雪した石畳を移動すること半刻程度、首都東門から入って東部商業区を抜けて市街区へ。ヴィリシュタールの国土は広く、大きく東西南北4つの大区画に分けられ、さらにその中を小区画で割る。
一行が向かうのは東第5区画中流貴族階級住宅街の一角にあるガノトラ=フォレスタ家の邸宅である。
地方貴族のロアトラ=フォレスタの邸宅よりは小振りで、庭も少ない小さくまとまった外観ではあるが、都心部の中流貴族の中では比較的大きい部類だろう。
そんな邸宅の前で、街用馬車が止まる。
一足早くローグリフが邸宅の叩き金で扉を叩き、一行はその間に次々と馬車を降りていく。
暫くすると中から使用人の女性が1人顔を出した。
「アンガース様ご夫妻とその同行者皆さま方、ようこそ御出でに為られました。長くお待ち致しておりました」
深くクロカット(謙譲の礼)を踏んでそう告げる女使用人が顔を上げる。
「皆様、長旅お疲れ様で御座います。我が主が大広間でお待ちしております。後の事は私どもに任せてどうぞこちらへ」
使用人が右手を真横に引き上げて前を歩く。
アンガースとカルティナが前を、その後にアリシアを抱え上げたパリッシュとベルティ、その後ろが使用人の面々と行った順で、廊下を歩く。
「どうぞ」
短く答えた使用人が大広間に繋がった扉を開ける。アンガースが一歩足を踏み入れた所で、声がかかる。
「おお、ガス。久しぶりだな」
安楽椅子に深く腰掛けていた強面の初老の男性が立ち上がる。
「まあまあ、また一段と貫禄を身に着けたことで」
初老の女性も男性の隣で立ち上がっては笑みを深く浮かべる。
「グライド伯父様、ラティーヌ伯母様、ご無沙汰しておりました」
親愛の情を浮かべてアンガースは順に握手を交わす。
「カルティナ君も久しぶりだな」
「義伯父様、義伯母様もご健在で何よりです」
「皆も長い移動、ご苦労だった。そちらの使用人方も疲れているだろう? 部屋に案内してさし上げなさい」
「かしこまりました。旦那様」
女使用人は一礼すると、ベルティやローグリフ達を引き連れて部屋を出て行った。
「それじゃあ、長旅に疲れている所で悪いが話を聞こうか」
上座の安楽椅子にガノトラ=フォレスタ夫妻が座り、前面の長机を挟んで構えられた長安楽椅子に右にアンガースとカルティナ、左にパリッシュと疲れて眠りこけてるアリシアがそれぞれ腰を着ける。
「ふむ、そちらが件の姪孫かね? カルティナ君に良く似て美人だな。将来は引く手数多なのだろうなあ。顔も見れた事だし、すぐに客間に案内させよう。相当疲れているようだしな」
「ありがとうございます」
冗長な言葉から始まった会話は、最近の情勢や変わった事など大まかな情報交流と、専らアリシアに関しての話題ばかりだった。
もっとも、その内容は表向きばかりで波風立たず、といった所ではあるが……。
直に先程の使用人が現れて、アリシアを引き取ると、寝室へ連れて行った。
アリシアが部屋から出ていくと同時に部屋の空気ががらりと変わる。
「それで、本当の所はどんな問題が起こっているのだね?」
眼光鋭く変わったグライドが、アンガースに問う。
「そうですね、簡潔に話すなら国家の存亡といった所ですかね」
軽い口調で話し始めたアンガースの言葉に眉を上げる。
「それは大袈裟な話では無く……という事かね?」
「そうですね。まず事が起こってしまえば国は瓦解するでしょう」
アンガースの言葉にカルティナとパリッシュが頷く。
「そこまで言うならその根拠を語れ」
そこからは、メドクス・ローメの話からアルファレドの研究室の襲撃、第三騎士団の目的と弊害を語る。
話が進み、次第に顔が曇るグライドとラティーヌに気を配りながら進む話は、じっくりと時間をかけて、全てが終わる頃には夫妻は押し黙っていた。
「……想像以上に規模が大きすぎる話だ」
ぽつり、と漏らしたグライドの言葉にアンガースも辞め息交じりに同意する。
「義伯父様、お願いします。どうかお力添えをお願いします」
カルティナが懸命に頭を下げる。
「にわかに信じられないな……。とうとう姪孫が出来たかと喜んだら、それがあのお方だったとは……」
「それでも……!」
必死に食い下がるカルティナへ手のひらを見せて遮る。
「いや、言い方が悪かった。すまないな。いささか私も頭の中では整理しきれておらんのだよ」
申し訳無さそうに話すグライドの様子を見て、カルティナも溜飲を下げる。
「よしましょう?」
意外にも声を上げたのはラティーヌだった。
「あの方だとか、彼の方だとか呼ぶのは良くありません。今のあの方から見れば私と貴方は大伯母と大伯父です。改まった態度は返って何も知らないあの方の負担となりましょう」
そう言ってアンガースとカルティナに向き直る。
「あの子は2人の娘、アリシアちゃん。それで良いのでしょう?」
「……はい」
小さくカルティナも頷く。
「……ふぅ……判った。アンガース、お前の娘の為に協力はしよう」
「伯父貴殿……!」
「だが期日が問題だ。後4日しかないのだ。どれ程の協力者が得られるのか判ったものじゃない。あまり大きな期待はするなよ?」
「ああ、それだけでも助かる。ありがとう」
アンガースとカルティナは深々と頭を下げた。
「まあ、私も引退前だ。最後の一花を咲かせてみるかな?」
肩を竦めてからグライドがにやりと笑って見せた。
――> To Be Continued.
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
という訳で、ヴィリシュタールに到着しました。
次回から掲剣の儀に向けての準備を2話程はさんで、物語のひとつの山場へと向かって行きます。
なんだか色々とお待たせして申し訳ありませんが、新年明けたら少しは時間は取れると思うので、もう少し本腰入れて描いて行ければ良いなぁと思っております。
本年度は色々とありました。
皆さんにはご迷惑をおかけしたり、色々とお世話になったりと本当に色々とありました。
来年も色々と有ると思いますのでよろしくお願いいたします。
それでは良いお年を!