第2章 第1話 新しき日々(1)
新章突入なのですっ!
主人公の明文化って気持ち良いですねぇ!
思わず小躍りしてしまいそう……いえ実際にはしませんからね!
と言う訳で新しいお話をお届けします。
(2012/03/10脱字修正)
朝、カーテンの隙間から微かな日の光が漏れ出る頃、一人の女性が部屋に殆ど音を立てずに入って来た。
給仕服に身を包み、特徴的で綺麗で真っ直ぐな銀髪という出で立ちの彼女は、ベッドに可愛い寝息を立てる少女を確認すると、窓辺に移動して一気にカーテンを引き払った。
数瞬の後にドサドサっという音が背後から聞こえる。
「ふぅ……」
遣り切ったと息を吐いて彼女はベッドの上を見ると、そこには布団に包まった丸い塊が鎮座していた。その塊の周囲には本が数冊、ベッドの下にも2冊落ちていた。
(まあ、以前もこうだったのですが、記憶を失っても人の性質は変わらないものなのですね)
銀髪の給仕、パリッシュは溜息を吐いてベッドに歩み寄る。
「朝ですよ?」
「はぅ~……もうちょっと~……」
くぐもった声が目の前の布団の塊から聞こえて来る。
「いい加減にしないと剥ぎ取りますよ?」
パリッシュが声を荒げるが眼前の塊は一行として動く気配が無い。
「忠告はしましたからね!」
パリッシュは腕をたくし上げると一気に布団を剥ぎ取った。その手腕は鮮やかで布団がぶわりと宙に広がる。と同時に中に包まっていたモノが回転しながらベッドに崩れ落ちた。
「ふぐぅ……」
それはとても長い金髪を振り乱した少女だった。
布団の上とはいえ、顔からの墜落でべったりとベッドに突っ伏していた少女は首をギギギッと動かす。
「いった~い……」
漏れ聞こえる声は幼く可愛いものであった。が、パリッシュは表情をピクリとも変えない。
「お早うございます。アリシア」
突っ伏した少女の肩を抱いて起こすとパリッシュは朝の挨拶をした。
「パリッシュさん酷いよ~……ボクが何したっていうの~?」
可愛らしく頬を膨らませて文句を言うが、パリッシュは至極当然と反論する。
「忠告はしましたよ?いつまでも起きないのが悪いのです。好い加減悪あがきは止めて下さい」
彼女たちの会話からしていつも朝はこの調子らしい。
「だって~……眠いんだも~ん……」
「深夜まで本を読んでいるからですよ」
パリッシュが指さした先には本が数冊。ベッドに持ち込まれたものだ。
「知りたいって欲求は不可避なんだよ?」
可愛らしく小首を傾げる様はある意味サマに成ってはいるのだが、パリッシュも付き合いが長い分騙されませんと態度を軟化させることは無かった。
「ものには限度が有ります。今夜からは室内の本を撤去しますよ?」
パリッシュの最後通牒にアリシアの顔色が青くなる。
「それは困りますっ」
彼女にとって今の楽しみは読書だけ。それを取り上げられる事は苦痛以上の何物でもなかった。それ故にこの脅しは抜群の効果を発揮したようだ。
「では、今夜からはしっかりお休みして下さいね」
「は~い……」
不服そうにアリシアは声を上げるのをパリッシュは溜め息混じりに見た。
(あれから3四半月、そろそろこの生活も慣れてしまいましたね)
「お召し物を変えさせて頂きますよ?」
パリッシュは少女を抱き抱えるとベッド脇の補助器具の上に座らせる。
「今日は外出の予定ですから多少見栄えの良いものにしませんと」
少女の寝間着をゆっくりと脱がせると、今度は立たせる。少女の細い四肢では自分の身体を支えきれない為に備えられた補助器具を使って身体を支えたのを確認すると手早くガーターベルト、その上に下着を着つけて行く。下着の次は靴下を交互に足を上げさせながら履かせてガーターベルトのフックに止める。
再び少女を座らせて肌着を着せる。その上からワンピースドレスを着せて、肩にケープを着付けて本日の服装は完成。
「できるだけ簡素では有りますが外出向けの格好にしました。ただ季節の頃合にしては肌寒いかもしれません。その際には遠慮無くお申し付けください」
季節は風の月の半ば。肌寒くなる季節だ。
イシュトラドの気候は年間を通して3つの季節に分けられる。長い暖季、乾季を経て短い寒季に入る。風の月は乾季と寒季の境目。これから少しずつ寒くなって行く。
「ボクはまだ寒季を体験してないから良くわかんないけど、寒いのやだなぁ」
アリシアは文句を言って補助器具を支えに立ち上がる。交互に足を出して靴をパリッシュに履かせてもらう。
「パリッシュさ~ん、お願~い」
アリシアが両手を上げるとパリッシュが抱き抱えて鏡台の椅子に座らせる。その後、彼女の髪を素早く丁寧に幾筋か手に取って編み込み、装飾紐で結い付ける。鏡台に映る少女はどこをどう見ても貴族のお嬢様然として見える。顔色があまり良く無い事を除けば、だが。
「相変わらずパリッシュさんは手際が良いね~」
今日も良い笑顔だという確認をしてパリッシュは頷く。
「お褒めに預かり恐悦至極。とは言って置きますが、アリシア。独り立ちする頃には自分で何もかも出来るように成って居なければいけません。それはお忘れ無き様」
「厳しいなぁ、パリッシュさんは」
細かい御髪直しが終わったのを確認してアリシアは鏡台の脇に立て掛けて有った補助杖(松葉杖みたいな物を指す)を2本、それぞれの腕に持って立ち上がる。
「そろそろ朝食の時間ですね」
「今日の朝ご飯は何かな~?」
アリシアの目が期待に輝く。が、パリッシュが忠告をする。
「私の前では余りとやかく言う積もりは有りませんが、旦那様や奥様の前では言葉遣いにご注意下さい」
「はい、分かりました。淑女らしく丁寧に柔らかく言葉を使う、でしたね」
「そうです」
「大丈夫です。ボクは学習能力だけが取り柄なのですから、同じ失敗はしませんよ」
「違い有りません」
少しパリッシュが微笑むのを確認してアリシアはゆっくりと部屋のドアへ向かう。その横を追い越してパリッシュが部屋のドアを開いて脇に控えた。
アリシアは軽く礼を述べて横を通って部屋を出る。
こうしてアリシアの一日が始まるのだ。
――> To Be Continued.
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
やっと日常編突入なのですよ~。ここまで長かった……。
日常編はある程度柔軟に書ける自由度の高いパートですから大いに頑張れる気がします。
頑張って書いて行きますのでお付き合い下さい。