第1章 第13話 1つの物語の始まり
皆様お疲れ様です。
第1章最後のお話をお届けいたします。
このお話を初めて早1ヵ月半、早いものです。
長い前振りの様になっていましたが今日で一区切りです。
気持ち悪くて吐きそうな体調で彼女は目を覚ました。
血の巡りの悪い状態で頭を働かせるのは大変だったが、自分の置かれている状況は確認しなければならないと思い、体を起こす。
左手にジャラリといった感触がする。
どうやら、左腕は手枷をはめられ、ベッドの足に繋がれているようだ。
(結局、ボクは捕まっちゃったんだ……)
右腕もろくに動かない現状では、手枷を外す術がない。観念するというよりも諦念に近い感情によって少女の顔が暗く陰る。
窓を見ると青い月が森の木陰から微かに光を覗かせる。
控えめで優しい光を見た所為なのか、いつの間にか涙がボロボロと零れ落ちていく。
理由の1つ目は諦めによる悲観。
2つ目は自分にはこれからどのような未来が待ち受けているか見通せない不安。
3つ目は先ほど自分がしてしまった事への恐怖。意図的ではないにしても人を傷つけてしまった事に恐怖を胸に刻み込んだ。
ぼやけた視界を左腕で拭うと少女は息を吐いてベッドに倒れ込んだ。
「これからどうなるんだろう?」
口に出した不安は誰も答える者は無く、ずっしりと心に沈み込んだ。
どれ位経っただろうか、不意にドアノブを回す音が聞こえた。半身を起こして警戒する。
「―――という訳で、今はあの人を任せては頂けないかしら?」
「貴女がそう言うのであれば……」
2人の女性が連れ立って部屋に入ったところで少女と片方の女性と目が合う。
女性は部屋の外からの光でそれぞれ金と銀という対照的な色をした髪を持った女性の影が見えた。
「あらあら、起きているみたいよ?」
「本当ですか?」
「Do-Flass Lagiatto-Meyka」
金髪の女性が言葉を紡ぐと壁に取り付けられた魔力灯が一斉に灯る。
「うあ……」
急な明暗に目が眩んで少女は小さく悲鳴を上げた。
「驚かせてしまったかしら?」
金髪の柔和そうな女性が柔らかな微笑みを湛えて少女のベッドの端に座る。その後に続いて銀髪の女性も部屋に入って壁際の椅子をベッドの脇に立てて座る。
「お姉さん達は?誰?」
金髪の女性と銀髪の女性は顔を見合わせると悲しそうに顔を陰らせる。
それを見て少女は悟ってしまった。彼女たちは自分を知っている、と。自分が彼女たちを忘れている事に悲しんでいるのだと。
「私の名前はカルティナよ」
「私はパリッシュです」
金髪の女性は震える声で、銀髪の女性は重々しい口調で名前を語った。
(本当は知っているはずなのに、全然覚えが無い……)
少女は悲しくなりながらも答えようと必死に言葉を探す。
「ボクは……ボクは……」
「良いのです。今は無理に思い出さなくても」
カルティナと名乗った女性が微笑みながら首を振る。
「でも……」
少女はどう反応すれば良いのか判らなかった。無理に思い出さなくても良いとは言われたが、それで気にしない訳にはいかない。少女はそう思って顔を曇らせる。
「そうですね、一つ付け加えると貴女と私の母が双子の姉妹という関係であったとだけ付け加えておきます」
意外な言葉に少女は目を丸くした。確かにカルティナの髪と瞳の色は少女の髪と左目同然だった。顔つきも少し似ていると言えば似ているかも知れない。
「半分ですけれど貴女と同じ血を引いているのです。それではいけませんか?」
にっこりと笑っているが雰囲気は有無を言わさない
「……いえ……」
一拍置くとカルティナは徐に口を開く。
「それで唐突な提案なのですが、貴女、私の養女になりませんか?」
「え……?」
一瞬少女は何を言われたのか理解が出来なかった。が、次第に言葉の意味を理解する。
(この人と家族になる?ボクが……?)
「率直に言いますね。もう少し歯に衣を着せる事をお勧めします」
パリッシュはカルティナの唐突な話の切り出し方に呆れて溜息を吐いた。
じーっと少女はカルティナの顔を見つめる。嘘は吐いていないと判断する。
「何言ってるの~?」
カルティナはのんびりとした声で諌める。
「どうせ切り出すんだもの。遅いも早いも無いじゃない?貴女もそう思うわよね~?」
年甲斐も無く可愛く首を傾げて同意を強要するカルティナに少女は戸惑いながらも小さく首肯する。も、その後、こてんと首を傾げる。
「ほら、カルティナ様。全く理解して居ませんよ?」
「みたいね」
小さく肯定して笑った。少女はそれを見て不思議と心が温かくなるのを感じた。それでも不安は胸に小さなしこりとして存在している。
「でもボク、いっぱい人を傷つけちゃったよ?」
少女は自分の右手を見て思い出す。自分が出した力で人を苦しめた挙句、2人ほど男が倒れた事を。
「大丈夫、気にしなくて良いわ。みんなちょっと気絶しただけで大事にはなってないから」
「本当?」
「ええ、本当よ?」
疑い深さに少し可愛さを感じながらカルティナは首肯する、それでも彼女の顔は少し曇ったままだ。
「でも処分されるって……」
「処分?何それ?」
「廊下のお姉さん達が『可哀そうだけど処分ね』って……」
正確には『どう処分されるのかしら』という言葉だったのだが、当時の彼女は見知らぬ場所に何も分からない状態で居た為による恐怖で聞き取り違えたのだろう。その言葉は本人達の意図していたものとは大分違った意味合いになっていた。
そもそも、給仕達の意味合いで言う『処分』とは通達の事である。上の立場の者からの辞令を『処分』と簡略して居た為の不幸な聞き間違いであった。
そんな事も露知らず、カルティナの眉間はちょっとした怒りでぴくりと顰められる。
「誰よ?そんな事言ったのは!?」
行き成り怒声を上げるカルティナに驚いて少女はビクリと身体を震わせる。
「ああ、ごめんなさいね。ついつい……」
取り繕って笑顔を見せるカルティナに少女は少し躊躇いがちに頷く。
(それにしても……行き成り脱走するからどうしてなのかと思ったらそういう事だったのね……)
カルティナは内心納得するも煮え切らない思いを抱く。
(特定次第注意はしておかないとね)
成り行きで負の方向に変換された言葉は、給仕2人にまだ不幸な結果をもたらす様だ。
「大丈夫、お姉さんがそんな事にはさせないから!」
「本当に……?」
少女は不安気にカルティナを見上げる。その様はとても可憐でいて可愛らしかった。
―― 何これ、凄く可愛らしいんですけどっ!とっても可愛らしいんですけどっ!これがあのアルフ!?
―― これが……我が主ですか……
思わずカルティナとパリッシュが向かい合ってひそひそと感嘆の言葉を交わし合う。
無理も無い。彼女達が見知って居るのは、少しだらしないがやる事はしっかりとやる知識者である。その彼と目の前の少女には計り知れない差異を感じて戸惑う。
そんな2人を更にじーっと見つめる少女。
流石に照れくさくなったのかカルティナが冗談を言って場を取り繕う。
「あ、むしろお母様って呼んでも良いのよ?」
「それは早すぎます!カルティナ様!」
パリッシュは慌てて止めに入る。
「それはそうと貴女の名前、まだ決めて無いわね」
その言葉に少女は首を傾げる。
「貴女の本当の名前、訳有って使う事が出来ないの」
ごめんなさいね、と言うカルティナに少女は首を振る。
そうね、とカルティナは考えて1つ思い至る。
「アリシア、ってどうかしら?」
以前、酒の場にて悪ふざけでアルファレドに聞いた名前。確かその様な名前だった筈。と、カルティナは思い出したのだ。
皇族は生まれる前に名前を託宣で用意される。それは男女どちらが生まれて来ても良い様に男女それぞれの名前が用意されるのだ。
カルティナが悪ふざけで聞き出したのはアルファレドが『もし女性として生まれたらどんな名前であったのか』だった。もっとも、相当酒が入って居た為に記憶は少し曖昧だったのだが。
「ボクの名前は……アリシア……?」
少女は自分の名前を告げられて胸に刻み込むように呟く。
「うん、アリシアよ?」
「良いお名前ですね」
その様を微笑ましく見守るカルティナとパリッシュ。
「これから宜しくね。アリシア」
カルティナが少女の頭を撫でる。
「うん……これから、宜しくお願いします」
ちょこんと控えめに頷いた彼女の顔には、可憐な喜色に彩られていた。
それは先程の提案の肯定、彼女が選択した意志の表れだった。
こうして、少女は名をアシリアとして生活する事になったのだった。
――> End Of Chapter 1.
To Be Next Chapter.
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
これで一段落なのですよ(ふぃー)
と言うか17話流してやっと主人公の名前が出るとかスローペース過ぎて涙出ちゃいそう……。
次話は第1章の粗筋になります。前話で同時に上げると言う話をしていましたが結構文章量が多くなってしまったので同時に上げずに時節を分割して上げる事にします。
少し趣向を交えた粗筋と成りますが別に読まなくても良いし読んでも良いし、みたいな内容かな?と。
あ、後タイトルを2012年3月3日付で粗筋の投稿と同時に変更しようと思います。
今のタイトルでは少し分かり辛いかな?と思いまして。
それでは今回はこれにてっ!