第1章 第12話 解決し得ぬ悩み
間が物凄く空いてしまって申し訳ありません。
実家から帰ってきました。
今回から平常運転していきたいと思っていたのですがペースが狂って思わぬ微スランプに陥ってました。
早くペースを取り戻さないと……。
※誤字修正しました(2012/03/29)
パリッシュは話し終わると一息吐いた。それを見て何とも言えない複雑な表情でアンガースは口を開いた。
「そうか、相手は第三皇子か……」
パリッシュは小さく頷いた。
現状で確定している事象は3つある。
1つ目は一般的な認識ではアルファレド=クルトラルフ=フォン=ラーディア=イシュトラドが死亡したというもの。
2つ目はキルトニッシュ=クルトラルフ=フォン=ファルディア=イシュトラドがこれからもアルファレドを探し続けるという可能性。
3つ目、今のアルファレドは掲慈の儀も迎えていない様な幼い少女へと姿を変えた上に記憶が無いという事。
「余り、良い状況じゃないな……」
現状で打開できる材料が無い上に肝心のアルファレドが元の姿形で無いどころか記憶さえ無い状態。事実証明さえできない状態ではこちらから責める事すらできない。
「何ともできん……」
頭を捻っても良い案が浮かばない。
元来アンガースは武芸者で、実力一本でムルトラまで上り詰めた。それ故に余りこういう時の機転と云う物が働かない類型の堅物だ。
「あの人を私達の養子にしてしまいましょう」
その堅物の寄る辺の無い思惑に一石どころか大岩を投げ込んだ人物が居た。彼の妻のカルティナだった。
「なに?それは本気で言っているのか?」
アンガースもこれには戸惑いを隠せないでいた。確かに今のアルファレドの容姿なら自分達の子供として引き取っても体面上は違和感を与える事はないだろう。
「ええ、もちろん本気です。頃合を見計らって、ですが」
カルティナは真面目に返答する。何か思惑が有っての事だろうとアンガースは頷いて話の続きを促す。
「現状での大きな問題はアルファレドが残してきた2体のメドクス・ローメでしょう。アルが魔力核を封印して来たので当面は問題無し、封印が解けても魔力核の固定魔法には『封印』が施されている。そうよね?パリッシュ」
「相違ありません。箱と魔力核その物の2重の『封印』です」
「アルの『封印』を破るなんてその辺に居る学者程度には無理でしょうし、多少放置していても構わないわ。次点はアル自身。今は容姿が変わっているから相当勘繰らなければ気付かれない筈。それでも、もしも拉致された場合を想定するなら捜索依頼を出すにしても身元が確かなものでなければいけない。ならば手っ取り早い方法として私達の娘として引き取る方法が一番確実でしょう」
それでもアンガースは釈然としない表情を浮かべる。
「だが、今は記憶を失って居るから良いが、もし取り戻したとしたら奴はどう思うか……」
そんな彼の苦悩も特に気にしないでカルティナは流した。
「喜ぶのではないかしら?立場的には皇族じゃなくなるのだから」
アルファレドは結局城暮らしに不満を抱いて放浪の旅から帰った後も学問府に入府した変わり者だ。今更皇族から中流貴族になった所で不満を覚えたりや動揺をするような類型ではない。
「確かに身体が少女になっていることには不満を感じるでしょうけど……」
「最後の問題はそこか……」
それでも、肉体的な変化には不満を感じるだろう。最大の変化として性別の変化に関してはどんな堅物だろうと動揺するのは確実だ。
「パリッシュは薬に心当たりは無いの?」
「無我夢中でしたので何とも言えません。貼札には何も書かれて居なかったので試験薬だったのかもしれません」
「どんな薬かも判断付かなかったのに使ったのか?」
「はい。あのまま何もしなかったら我が主は絶命して居ました。手段を選んではいられなかったのです」
パリッシュは申し訳無さと不甲斐無さとが綯い交ぜに成った様な苦い表情をしていた。
「止しましょう。過程はどうあれ彼は生きている訳だし、責めるよりも喜ぶ方が合っているわ」
カルティナはパリッシュを抱き寄せると頭を撫でた。
「ありがとう。貴女のおかげであの人は救われた」
「俺も少し強く言い過ぎた。済まなかった。そして有難う」
「いえ…滅相も無い」
パリッシュも思わぬ感謝の言葉に動揺はするものの顔色は余り変える事はしなかった。むしろ感謝より責められる立場だと自分で理解をしていたからだったのだが。
それはさて置き、とカルティナは一息開けて自分の提案の是非を問う。
「それでこの案なのだけど、誰か反対する?」
「私はカルティナ様の案に同意します」
「俺もお前の案に賛同する。もっともこの年齢ででっかい子供が出来るなんて思っても居なかったがな……」
軽い皮肉を言ってアンガースが諸手を上げる。アンガースは27歳、カルティナは25歳とそれなりにまだ期待の持てる年齢だ。そろそろ子供が欲しいと思っていた矢先にこれであるから人生何が有るか分からぬ物だ。
「分かりました。あの人をフォレスタ家の養子に迎える方針で動きましょう」
三人は軽く頷いて決定する。
「それで私の処遇どう致しましょう?」
パリッシュは当初の予定通り、アルファレドに指示された通りに指示を仰ぐ。
「貴女も学問府研究棟に居た時と容姿は違うのよね?」
「はい。この素体は武芸に適した物を容姿に取り込んだ物だそうです」
「名は誰かに聞かれている?」
「我が主以外には。誰からも人形としか呼ばれて居ませんでした」
「なら、そのままアルに付いて居てもらいましょう。貴女家事は出来る?」
「簡単な物でしたら一通りは。主はずぼらな方でしたが手際は良かったので一通り仕込まれました」
「なら丁度良いわね。新しい給仕として働いて下さい。あの人の専属と云う形で」
「構いませんが大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。それに貴女もその方が良いでしょ?」
「そうですね」
「それじゃあ決まりね」
カルティナは一つ頷いて決定事項を述べる。
「アルは私たちの養子という方向で話を勧めます。今は時節が悪すぎるので公式な手続きは2月後の風の月にしましょう。パリッシュはこの邸で給仕として働いてちょうだい」
「分かりました」
「後、アルとパリッシュはアファリア修道院系列のマルージオ修道支部出身という事にしましょう。幸いにアルと私の母はそこの出身なので頼み込めば何とかなるでしょう」
「わかりました」
「手配が済み次第、養子縁組の手続きを行います。それで良いわよね?貴方」
振り返って確認を仰ぐカルティナに頷いてアンガースは同意した。
「それでは決まりね。アルの所に行きましょうか」
カルティナはソファーから長安楽椅子から身体を起こすとパリッシュに頷く。パリッシュも内心は主の事をとても気に掛けているだろうという配慮だった。パリッシュもこれには感謝の意を込めて頷き返す。
しかし、アンガースは極まりの悪い表情をしながら頭を掻いて言った。
「俺は止めておく」
「あらどうして?」
「俺の姿を見たらまた怯えるかもしれん。だから落ち着くまで様子を見る」
アンガースはその大きな身体を長安楽椅子に更に沈めて言った。カルティナはそれを見て微かに笑みを浮かべ、パリッシュを連れて部屋を出て行った。
「女の子の泣き顔は苦手なんだよな……」
存外、アンガースという男は過ぎた堅物だったらしい。
――> To Be Continued.
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
さて、気付いた方は何人いる事か分かりませんが、この物語では一つのポリシーが存在しています。出来る限り外来語を使わないようにする事。外来語なんて異世界に同音の言葉が有るか分かりませんからね。
どうしても日本語で説明できないもの以外は『|和名(外来語)』と表記して行こうかと思います。前に掲載したものに関してもチェックを入れて少し修正したいと思います。
さて、次回でこの章は終了となります。
間章に粗筋を挟む予定なので、共にアップする予定です。