第1章 第10話 落とされた撃鉄(3)
お待たせしました。
戦闘場面後編です。
長い事お待たせして申し訳ありません。
その分微妙に長めとなっております。
いえ、分割できるような場所が無かったのも原因でした(ガクリッ
アルファレドはジャーナムに問う。
「後は君一人だ、ジャーナム。今ならまだ最悪君達だけで終わるぞ?」
それでもジャーナムはそれでもパリッシュと剣戟を繰り返しながら言う。
「今は正しいと認められなくとも国の未来に繋がったなら、後の歴史家が評価を決めるだろう。その時になれば我らが正しいと証明されるのだ」
ジャーナムはまだ己が掲げる思想が正しいと疑いもしない。
「それはあり得ぬ話だ」
アルファレドがジャーナムの剣を握っている右手に向けて発砲するも、その気配を読み取ってかジャーナムは半身を引いて躱す。
「何故だ!?何故そこまで否定する!?」
ジャーナムは身を引いてパリッシュから距離を置いて叫ぶ。その表情は苦汁を舐めるように歪んでいた。
「ファルディア様は国を想っての行動だ!それは貴方も解って頂ける筈!?」
そこでやっとアルファレドは彼が実行に移した計画によってもたらされる結末を教えられていない事に気付く。
「君はこの計画の末にもたらされる結果を教えられていないのか?」
「教えられている!この計画が成功したらば、諸外国にも負けない軍事力が手に入ると!国民が対立国家の侵攻に怯える必要がなくなると!」
アルファレドは呆れて溜息を吐いた。
「ジャーナム、私の今朝の研究成果報告会での報告内容を聞かされていないのかね?」
「どういう事だ!?」
「私の報告内容はね。メドクス・ローメを軍属配備すれば国内の守護精霊が消失するというものですよ」
ジャーナムの表情が驚きの色に染まる。どうやら本当にこの話を聞かされていなかったらしい。
アルファレドはさらに続ける。
「もし守護精霊がこの国から消失した場合、どうなるか貴方にも判るでしょう?」
「それは……」
「まず、消失したら国民全員が精霊魔法を使う事ができなくなるだろう。国民の生活基盤を支えている簡易的なものまで全てが使えなくなる」
それがどういう意味か解るだろう。という意味がアルファレドの鋭い視線に込められる。
「そんな事は出鱈目だ!」
「出鱈目ではありません」
尚も否定するジャーナムに口を閉じていたパリッシュが反論する。
「我が主の話は真実です」
「たとえ今は精霊が反発しようとも、軍部に従わせる事だってできるだろう!そうなればそんな仮定も否定できる!」
「仕方ない、パリッシュ」
アルファレドはパリッシュに首肯して命じる。
パリッシュは口を開いた。
「ΜΑΤΖ ΙΑ ΑΟΑΦΑΦΑΓΙΚ ШΠ ΞΧΤΚ∪ΑΤΚ ΥΙΚΙΑΚ ΥΙΚ∪ΠΧ ΦΠ ΥΙΚΦΖ ΚΞΑΥΧ.ΥΙΚΦΑGΑΦΦΖ ΙΑ ΚΜΖΞΑΥΖΟ.」
人には理解できないような発音でパリッシュが言葉を紡いだ直後、ジャーナムの剣から炎が消沈する。
「なっ!?」
ジャーナムは驚いて自らの剣を凝視する。
「自らの欲を満たす為に全ての国民を切り捨てる。それが第4騎士団のやり方だと言うのなら、君達に正義は無い!そんな歪んだ謀り事は僕が許さない」
アルファレドは酷然とした態度で言い放つ。
「出鱈目だ。確証も無いもので翻弄されるほど私は莫迦ではないわ!」
「ならば精霊魔法を使ってみるがいい!」
「何を……Ann-Centlenum Farisetto-Bligg Toy Gupp!」
再びジャーナムは高速魔術言語を詠唱するが、剣に炎は点らなかった。
「どうしてだ!?どうして精霊魔法が発動しない……」
「実証だよ」
アルファレドは言った。
「貴方が守護精霊に対して悪意を持った。それが貴方の守護精霊に知れたんだ。ただそれだけだよ」
「そんな……馬鹿な……」
ジャーナムは青い顔をして否定の言葉を口から絞り出す。それでも現実は変わることはない。ジャーナムは守護精霊の加護を失ったのだった。
「言っただろう?守護精霊が消失すると」
アルファレドはジャーナムに歩を進める。
「貴方が実例だ。貴方でさえ精霊魔法が使えなくなるんだ。これが一般兵にまで及んだらどうだね?」
自国の国軍に所属する兵士全てが魔法を使用できなくなる。それがどれほどの損失になるのかは計り知れない。それほど精霊魔法による力がもたらす差の大きさが顕著に出る。もし国内から守護精霊が消えた場合、周辺国から攻められる事になったら、確実に国が亡びることになるだろう。
「どうする?この国を滅ぼすかい?歴史に名を連ねられるがね。一国を野心で滅ぼした悪党の一派として」
その言葉に嘘偽りがないことをジャーナムはハッキリと理解した。
それでも彼は自らの主に逆らう事はできない、と態度を変える事は無かった。
「私は……私はそれでも!キルトニッシュ様にお仕えする身!今更引き戻れはせん!」
ジャーナムは大きく一歩を踏み込むと、右手の剣をパリッシュに振り下ろす。
パリッシュが反射的に剣でそれを受け止める。が、ジャーナムは左手で新たに腰に帯剣したままの一本を振り抜いて一閃。パリッシュの剣を握った両腕を切り飛ばした。
「っ!?」
これに驚いたパリッシュが、腕を切り飛ばされた事によってバランスを崩した上に、ジャーナムに蹴り飛ばされて床に転がる。
アルファレドが牽制に発砲する。だが、一発ジャーナムの左肩に当たりはしたが、かすり傷止まりだったのか勢いは止まらず、パリッシュを蹴り飛ばした勢いを素早く切り替えしてアルファレドに肉迫する。
アルファレドは左手の短剣でジャーナムの右手の剣を防ぐも、左手に持った剣を防ぐことはできない。と判断する。
「Do-Joble RarLodo!(20番の起動)」
慌てて高速魔術言語を唱えるも、間に合わなかった。ジャーナムは右手の剣で短剣を弾き、アルファレドが振り上げて発砲する前に左手を捻り上げて右腕を斬り飛ばす。
「うぐっ!?」
斬られた瞬間にアルファレドは顔を歪める。一歩引こうとする足に逆手に反した左手の剣が右大腿部を刺し貫く。
「覚悟ぉおおおおおおおおおおお!!!!」
ジャーナムは右手に握った剣を半身と共に引き、全体重を持ってアルファレドの腹部に突き立てた。生々しくずぶりと音を立てたそれを、アルファレドは呆然と見ることになった。
「ぐっ……」
アルファレドが致命的な怪我を受けた直後に、固定魔法の『20番』の効果が表れた。効果はアルファレドとパリッシュ以外を拘束する事。静止した状態でなければ効果は発揮できないが、多少の足止めになるだろうと使ったのだが、効果が出るころには若干遅すぎた。魔力で編まれた鎖がジャーナムを拘束し、微動だにできない状態まで縛り上げる。
「ぐ…うぅ……」
アルファレドは右腕と右大腿部の激しい痛みと腹部を襲うも焼けるような感触に顔を顰めて一歩、二歩と後退する。
「アルファレド様!」
パリッシュがそれを見て身体を起こして駆け寄る。
「ま……さか……こんな物を……」
アルファレドは右足に刺さる剣を見やる。今ならその剣の意匠がはっきりと分かる。キルトニッシュ、ファルディア(第二皇子)の紋章が入った精霊銀製の剣だった。
パリッシュの身体は固定魔法によって強化されている。それを易々と切り飛ばすなんて有り得ないと思ったのだったが、精霊銀製の剣ならば魔術を断ち切るとさえ言わしめている。成る程、とアルファレドは内心唸る。
「貴方が死んだ後、誰かが研究を引き継げば良いのだ」
そう呟くジャーナム。アルファレドはその妄執に初めて畏怖する。
「そうは……させ…ない……」
アルファレドは小さく呟いて駆け寄るパリッシュの胸部に左手を当てる。そして高速魔術言語を小さく呟くとパリッシュの胸部が小さく開き、赤い宝石の様なものが表れる。
「アルファレド様……」
パリッシュが顔を向けると「済まない」とアルファレドは謝罪して引き抜いた。直後がくんとパリッシュが糸の切れた人形の様に崩れ落ちる。
「ジャ…ジャーナム……君達の思い通りには……させない」
「この状態で何を……」
「Do-Joble FayLodo-Fay, Lada(99番、100番の起動)」
掠れるような声でアルファレドは高速魔術言語を唱える。
「起動した……固定魔法の効果は『研究室の爆破』だ」
「なっ……なんだと!?」
「爆破…てしまえば……解析のしようもあるまいて」
痛みに耐えながら薄ら笑いを浮かべるアルファレドにジャーナムは絶望の表情を浮かべる。
すでに固定魔術の発動が始まったのか室内の温度が上昇して床の一部から炎が立ち上る。
「くそっ!」
ジャーナムは悪態を吐いて身を捩るが、拘束は解くことができない。
アルファレドは室内に取り残された他3名の騎士を見て心の中で謝罪する。
(こんなことに巻き込んで申し訳ない)
徐々に炎の量が増す中、ジャーナムの叫び声が響き、やがて研究棟全体を揺るがす大きな爆発を起こしたのだった。
――> To Be Continued.
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
戦闘描写やり切りました。
こういう描写って本当に難しいですね。
普段の日常じゃあ体験しないので文章に直すのが難しい……。
自分の思い描いたシーンと実際に書き起こしたシーンを比べると書き切れたって気がしません……(汗)
もっと勉強しないとね。
さて近況報告です。
現在実家に帰省中です。パソコンをあまり使わせてもらえない環境なので更新速度が一気に落ちそうです。
来週には執筆速度が戻ると思いますのでそれまでは少々お待ちください。
それでは今後も宜しくお願いいたします。