嘘つきは、いてはいけない
「嘘をついたことがあるか?」
この問いに、誰しもが頷くだろう。誰だって嘘をつく。取り繕うのに嘘をつく。自分の気持ちに嘘をつく。誰かを騙すのに嘘をつく。
「俺は嘘をついたことがない。神に誓ってもいい」
ここに一人、そんなことを言う奴がいた。真面目で健全な男だ。私はそれを知っている。
「証拠はあるのか?」
私は問う。その男は答える。
「証拠なんてない。だが、私が嘘をついたことがあるという証拠もないではないか。しかも、そんなことは神に聞けば分かる。さぁ聞いてみてくれ。聞けないなら、お前は証拠もなく人を嘘つきだと決めつける奴ということになる」
私は驚いた。酷く正論だ。返す言葉もない。彼は見事に自分が嘘つきではないと証明したのだ。
「そうか、悪かった。私はてっきり、お前が『嘘つき』だと思っていた。なぜなら、今まさに私を刺そうとしているから」
「違う。違うよ。私は私に嘘をつかない。この手に持つ包丁は、その証拠かもしれない。だからその、あれだ。今までありがとう、憎かったよ」
嘘をつかない奴なんていない。いてはいけない。いてほしくない。だが、そいつは私の目の前にいた。
神の声が聞こえたら、みんなに嘘つきと呼ばれます。