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貴方のおかげです ~ 私の婚約者は、幼馴染と不貞をはたらいている ~ 

作者: とと
掲載日:2026/06/25

読んでいただきありがとうございます。


「アリッサ様、そろそろ、お戻りになりませんと」


「あら、ラルフ。もうそんな時間?ん~あと少し、もう少しで読み終わるから」


「あと、少しだけですよ」


私は今日も、自由な時間をいただき、大好きな読書に没頭することが出来た。


「あー。面白かったわ、今日の本はね、魔法が使える世界のお話しなの、主人公の女の子がね♪」


「アリッサお嬢様!」


「もうわかってるわよ、ちゃんと領地経営を、学ばせていただきます、今すぐ戻ります」


侯爵令嬢である、私の一日は分刻みだ。


眠る時間と、学院に行っている以外は、マナーや教養など、他の令嬢が学ぶことに加え、ブラン侯爵家の一人娘で跡取りの私は、領地経営や商業、経営などなど様々な、当主として必要な知識も、学ばなければならない。


「はあ~。本当は、本だけ読んで優雅に暮らしたい…………。」


「お気持ちが、口から零れだしていますよ」


さっきから私の癒しの時間を早々に切り上げようとしているのは、女侯爵となる私を補佐するためにお父さまが連れて来た、ラルフ。


ラルフは、家門のホーキンス伯爵家の三男で、貴族院を首席で卒業した優秀な人だ。今はお父様の手伝いをしながら、私と公爵を継ぐのに必要な教育を、一緒に受けている。


「もう。ラルフの意地悪!」


「意地悪!じゃないですよ、アリッサ様。そろそろあの屑を、何とかした方がいいと思いますけどね」


「もうラルフ、屑じゃなくてグレン様よ。私の婚約者」


「屑以外の何者でもないですよ!婚約者とのお茶会を、やれ、幼馴染が熱を出しただの、怪我をしただの、買い物に行かなければだの。どれもあの屑が、対応してやる必要がない理由ばかりで、遅れてきたり、すっぽかしたりしてるんですよ」


ラルフは、顔を真っ赤にしてプリプリと怒っている。


「もうラルフ、落ち着いて。そのおかげで私は、自由時間を獲得しているのよ、感謝しか無いわ」


「アリッサ…………様。」


ラルフが、シュンといて、目を伏せた。


「ほらほら、来たわよ」


ガルシア侯爵家の使用人が、カフェに駆け込んでくる。


「ブラン侯爵令嬢様。坊ちゃんより、こちらを預かってまいりました」


使用人は、全力で走ってきたため、肩で息をしながら、白い封筒を私に差し出す。


「いつも悪いわね、ありがとう。これはみんなで分けて食べてちょうだい」


私は封筒を受け取り、代わりに、カフェ特製の焼き菓子を一袋、使用人に渡す。


「いつもありがとうございます…………。どうして坊ちゃんは、いえ。し 失礼いたします」


なんだか、悲しそうな顔をして、使用人は帰って行った。


「さて今日は、なんて書いてあるかしらね~」


私は封筒から、便箋を取り出して開く。



= 親愛なるアリッサへ =


アリッサとの茶会に向かう予定でいたが、ベスが急に熱を出してしまい、行けなくなった。


会えなくて寂しいよ、愛しのアリッサ。


グレン・ガルシア


「おえっ」


ラルフが、後ろから手紙を盗み見て、顔をしかめる。


「まあ、今日もお熱が出たのね。ベス様も大変ね」


手紙の謝罪文も簡素になって来たし……卒業前には、ラルフの言う通り、グレン様とのことをはっきりさせなければいけないかしらね。


私の読書時間が削られてしまうのは、悲しいけれど。


「さあ。ラルフ、帰りましょうか」


私は、読み終えた本に封筒を挟み込み、カフェを後にした。




✿ ✿ ✿



カランカラン。


「いらっしゃい。まあ、アリッサ様」


書店の女将さんが、ニコニコしながら奥から出て来る。


「こんにちは、今日も一時間くらいで、読み終わる本があるかしら?」


「もちろん準備していますよ、ロマンス小説と、冒険ファンタジーどっちにします?」


「うーん」


私は女将さんが出してくれた、赤い表紙の本と、緑の表紙の本を交互に見つめて悩む。


「今日は、ロマンス小説にするわ」


私は赤い本を、手に取る。


題名は、=本好き令嬢は、転がった先で幸せになる=


私も本好きだけど、幸せになれるかしらね~。


「こちらは、お代です」


ラルフが、女将さんに銀貨を差し出す。


「領収書は、いつもと同じでいいね、直ぐに書くから待っていてね」


女将さんは、サラサラと領収書に、日時と本の金額を記入して、最後に女将さんのサインを入れる。


「いつもありがとうございます」


「こちらこそ、いつもありがとね、また来ておくれよ」


「はーい」


私は、購入した本を小脇に抱え、同じ建物の中にあるカフェに足を運ぶ。


「いらっしゃいませ、個室の準備ができております、どうぞ」


私は、店員さんについていき、外が眺められる、いつもの席に座る。


「ラルフも、隣に座ったら?」


「いえ、テラスに面した席とは言え、個室ですので、私はこちらに」


ラルフは、当たり前のように用意された、個室の入り口に置かれた椅子へ腰を下ろす。


私は、定員さんが持ってきてくれた紅茶を一口飲んで、本の世界に入り込む。


ロマンス小説の主人公は、私のひとつ年下、17歳の伯爵令嬢。本を夢中で読んでいて坂道で転び、運命の人が乗る馬車に激突する…………。


その事故をきっかけに、侯爵様とハッピーエンド。


んー。


私は、主人公みたいに、前向きでいい子じゃないから、婚約者に恵まれないのかしら。


私とグレン様の婚約は、お父様同士の仲が良く、家格も釣り合っているため、一年半ほど前に結ばれた。


婚約当初は、グレン様もちゃんとブラン侯爵家での茶会に来ていたが……。


3度目くらいから、遅刻してきたり、急にキャンセルされたりすることが続き。


待ち時間を有効に利用するため、待ち合わせの場所を、書店と同じ建物にあるこのカフェにした。


グレン様を待つ口実で、私は空いた時間に本を読む。


待ち合わせのたびに新しい本を購入し、本の領収証には、日時と書店の店主や女将さんのサインを入れてもらい、カフェの領収書とグレン様からのお詫びの手紙を、その日購入した本に挟んで保管している。


侯爵家の私室には、今まで貯めた本が、70冊ほど…………。


私は、ちらりとラルフに眼を向ける。


ん?


ラルフは、大きく目を見開き、通りの方を凝視している。


私は、ラルフの視線を追う。


「グレン。今日は暑いから~、わたし氷菓子が食べたいわ」


「いいね、この通りの少し先に、氷菓子と焼き菓子が有名なお店があるんだ」


ラルフが見つめる先には、腕を組みながら歩く、グレン様とベス様。


グレン様は、私との待ち合わせがこの店であることも、忘れているのね…………。


「はあ。グレン様に、ひとかけらの興味もなかったけど…………さすがに腹が立つわね、あの屑」


私の言葉を聞き、我に返ったラルフは、二人に向かって、鬼の形相で突進しようとしている。


私はラルフの前に、手を伸ばす。


「ラルフ。私もさすがに、決心がついたわ、読書の時間は惜しいけれど、ブラン侯爵家をこんなに馬鹿にされて、黙ってはいられないわ」



私は、婚約破棄の決心を固め、その足でお父様の執務室を訪ねた。




✿ ✿ ✿



「お父様、見ていただきたいものがあるのです」


デスクを挟んでお父様に向かい合う私の後ろに、侍女たちの手で次々と本が運び込まれる。


「どうした、アリッサ。この本は何だい?」


「これは、私とグレン様の逢瀬の記録です」


「グレン君とは、週に一度カフェでデートするほど、仲がいいのではないのかい?」


私は、山と積まれた本の中から、一冊を選んで父に差し出す。


「ん? アリッサが本を読むのが好きなのは、知っているが…………。」


お父様は、本に挟まれた領収書を確認し、慌てて封筒から便箋を取り出す。


お父様の、便箋を持つ手が震える。


「ラルフ!どうして今まで黙っていた!」


お父様の怒りと大きな声が、部屋の空気を揺らす。


「旦那様、報告しなかったことへの罰は後で受けます。まずはこちらを」


ラルフは、お父様に、数冊の手帳と、分厚い大きな封筒を渡す。


お父様に渡した手帳には、今までのカフェでの様子がこと細かく記されており、封筒の中身は、グレン様とベス様の不貞の証拠が一年半分、詳細に記されていた。


「お前達、なぜ今まで黙っていた!アリッサ……私が信じられなかったのか?」


お父様は、強く握った拳をデスクに叩きつけ、怒りと悲しみが滲む表情で、私を見据える。


「お父様なら、きっと怒ってくれると思っていましたわ………ただちょっと、自分の時間が欲しかったのと、貴族の結婚などこんなものかと、あきらめていた部分もありました」


私は、にっこり微笑んだ。


「でも先ほど、私に嘘をつき放置して、ベス様と楽しそうに歩くグレン様を見て、私だけでなく、ブラン侯爵家を馬鹿にしていると感じました」


自分の声が、怒りに震える。


「婿に入る、我がブラン侯爵家を、小手先の嘘と方便で何とかできると、あの屑は考えているのですわ!少しでもグレン様に誠意があるのなら、私と待ち合わせをしているカフェの前を、堂々と二人で腕を組んで歩くなど、できるはずがありません」


ダン!!


お父様が、両手でデスクを叩きつける。


「あの小僧め、アリッサを愚弄したな!ラルフ、直ぐにガルシア侯爵家に先触れを出せ!きっちり落とし前をつけてやる」


「お父様!落ち着いてください、私も、グレン様の顔をちゃんと見て決着をつけたいと思います」


「アリッサ様、どの様な仕返しを?」


ラルフが身を乗り出す。


「あの屑を、どうやって叩きのめすか相談するぞ」


お父様も急にテンションが上がり、それから男子二人は、ありとあらゆる処罰、制裁、拷問の様な方法まで考え、グレン様を懲らしめる案を出し尽くした。


「すべて行っても、この怒りは収められないな」


お父様が腕組みをしながら頷く。


「ふふ。二人が怒ってくれたから、私はだいぶ落ち着いたわ」


二人の、グレン様への怒りに、思わず笑ってしまう。


「私は、グレン様ベス様と、ちゃんと話あって、婚約を破棄します。お父様とラルフには、是非一緒に居て欲しいのだけど」


「「もちろんだ」」


私は二人の気合に、耳を塞ぐ。


ちょっと。声が大きすぎよ…………。


私は、直ぐに婚姻について話をしたいので、ベス様と共にカフェに来て欲しいと、グエン様に手紙を書いた。


決戦は3日後に決まった。



✿ ✿ ✿



私はいつも通り、本を読みながらグレン様を待つ。


いつもと違うのは、隣の部屋に、お父様とガルシア侯爵((グレン父))ゲルト伯爵((ベス父))が待機していること。


約束の時間から数分遅れて、グレン様とベス様は、お揃いの服とドレスで現れた。


「やあアリッサ、久しぶりだね。今日は、ベスも招いてくれて嬉しいよ」


「アリッサ様~ついに私が第二侯爵夫人になることを、認めて下さるのですか?」


ガタガタ! ダン!


グレン様とベス様の声に、隣の部屋から大きな物音が響く。


「まあ、お二人ともお掛けになって。このカフェのチョコレートケーキは、絶品なのよ」


私は、にっこりとほほ笑みながら二人に座るよう勧める。


二人は、嬉しそうに同じテーブルに着いた。


私の後ろには、ラルフが控えている。


二人が座ると同時に、紅茶とチョコレートケーキが運ばれてくる。


「さあ、召し上がって」


「そうだな、食べながら今後の話をしよう」


「わあ。美味しそうね、グレン♪一口どうぞ」


ベス様が、ケーキをひとすくいして、グレン様の口元に差し出す。


「あー。ありがとう、ベス」


グレン様は、ぱくりと一口、ケーキを頬張る。


後ろから、ラルフの怒りに満ちた、熱を感じるわ。(熱い……。)


「グレン様、私の方からお話ししても、よろしいでしょうか?」


「もちろんだ、アリッサ。僕たちの婚姻についてかい?」


「はい。私達の婚約は、グレン様の有責で、破棄させていただくことに決まりました。最後くらいは、ちゃんとお顔を見て、けじめをつけたいと思いまして、今日はお二人にご足労頂きましたの。サインも直接いただきたいですし」


私の宣言と共に、お父様達が隣室から出てきてグレン様とベス様の後ろに並ぶ。


「アリッサ!何を言っているんだい?」


グレン様が慌てた様子で、立ち上がる。


「お前の方こそ、何を言っている!」


ガルシア侯爵の大声が、カフェに響く。


…………貸し切りにしておいてよかったわ。


「ち 父上!」


「お前は今まで、アリッサ嬢に会いに行くと出かけて、何をしていた!お前の貴族籍は、既に抜いてある。今日からガルシア侯爵家と、お前はなんの関係もない、好きにするといい」


「ベス、お前も同じだ、好きにしろ」


ガルシア侯爵とゲルト伯爵が、私の両サイドに移動して立ち、顔を赤くして、二人への処分を言い渡す。


「グレン、婚約破棄への慰謝料は、きっちり働いて返してもらうからな。働き先が見つけられないのなら、鉱山を紹介してやる」


「父上、私はアリッサとの婚約を、辞めるつもりはありません。アリッサと結婚し、嫡男が出来たところで、ベスを第二夫人に迎えるつもりでした」


ガルシア侯爵の鉄拳が、グレン様にお見舞いされ、ガツンと、大きな音と共に、グレン様は壁に吹き飛んだ。


「まあ、叔父様。酷いです~。グレン、大丈夫?」


ベス様が、グレン様に駆け寄り、体を寄せる。


「ベス!お前も同じだ。人の婚約者に手を出し、侯爵家との婚約を破棄させるなど、ふしだらな娘は、我が伯爵家にはいない。慰謝料もお前が自分で稼げ。グレン君と同じ鉱山を紹介してもいいし、娼館でもいいぞ」


「いやですお父様、私はグレン様に嫁いで、侯爵夫人になるんです、働くなどできません」


「お前の頭には、何が詰まっているだ。侯爵夫人がどれほど、大変な仕事かも知らずに、よくそんなことが言えたな…………あきれてものも言えん。まあグレン君との結婚は、好きにするがいい。もうお前達には、貴族の仕来りも、家も関係ないのだからな」


ゲルト伯爵が、大きなため息をつく。


痛みに、蹲っていたグレン様を、ガルシア侯爵が引き起こす。


「グレン、お前の貴族としての、最後の仕事だ、婚約破棄証明書にサインしろ」


ガルシア侯爵は、グレン様に強引にペンを握らせる。


「嫌だ…………父上、僕はアリッサと結婚します」


そう呟いてグレン様は、私に眼を向ける。


「アリッサ。僕のことを愛しているだろ?だから、ベスとのことも今まで、許してくれていたのだろ?」


私は、しっかりとグレン様を、みて答える。


「グレン様のことは、1ミリも愛したことはありませんし、ベス様とのことを許したつもりもありません。私は、お二人のおかげで、この一年あまり、大好きな読書を楽しむ時間をいただきました。そのことは、感謝しています」


私は、思わず笑顔になる。


「嘘だ、アリッサ、僕を捨てないでくれ、ベスは連れて行かないから、僕にもう一度チャンスをくれ」


私に、縋りつこうとする、グレン様の首根っこを、ガルシア侯爵が、がっちりつかんで、壁に放り投げる。


グレン様は、床に転がった。


「ブラン侯爵、警備隊を呼んでもいいだろうか。このままこいつを、市井へ降ろしても、アリッサ嬢に迷惑をかけかねない。鉱山に送るまでの間、拘留してもらおうと思う」


「ああ、頼むよ。娘に何かあってからでは、遅いからな。念のため、近くの詰め所に、複数名の警備隊を待機させているから、呼んでもらおう」


お父様が、カフェのスタッフに声を掛ける。


「ベス。お前も一緒にいけ、家には連れて帰らん」


ベス様が、勢いよく立ち上がる。


「お父様、貴族でなくなるなんて無理です。グレン様も、私のことを見捨てましたね。許せない!」


ベス様は、握った拳をワナワナと振るわせて、急に体の向きを変え、私を睨みつける。


「あんたが、居なくなればいいのよ!もともと、私が侯爵家に入ったら死んでもらうつもりだったんだからー」


ベス様は、ごそごそとドレスのポケットを探り、小型のナイフを取り出す。


「おい!ベス」


ゲルト伯爵が、止めようとするが、間に合わない。


ベス様は、私にナイフを向けたまま、突進してくる。


んー。刺さるかも!


私は、ベス様を避ける様に、体をひねり眼を閉じる。


「ウガ!」


私ではない、誰かの呻き声で、眼を開ける。


ベス様は後ろにひっくり返って、しりもちをついた状態で、ゲルト伯爵に抑えられていて、私の足元にはラルフが、お腹を押さえて蹲っている。


「ラルフ!ラルフ!しっかりして」


ラルフの体を後ろから少し起こすと、両手でナイフを握ったラルフの指の間から血が流れ落ちた。


「ラルフ!死なないで。嫌だ、私を一人にしないで」


私は、ラルフを抱き起し、お腹の傷を塞ぎ抑えようと手を添える。


ん?硬い。


ラルフのお腹には、血が付いていなくて、シャツが破れているだけ。


ラルフの手からカランとナイフが落ちると、私は一瞬でラルフにギュウギュウと抱きしめられた。


「ラルフ。刺されてないの?」


「うん」


「んー。ラルフ、どこも痛くないの?」


「うーん。手が切れて痛い」


「もう」


私は、ラルフの手を解き、両手を確認する。


両手には、数か所に傷があるが、どれも深くはなさそうで、今は血も止まっている。


「不貞の調査中に、あの女がアリッサを害そうとしていると……情報があったから、念のため着て来たんだ。いつでもアリッサを守れるように」


ラルフがペラリとシャツを上げると、鎖帷子が見える。


顔を上げると、にっこり笑うラルフと眼が合う。


「もう、ラルフの馬鹿!…………うわーん。死んじゃうと思って、心配したんだから!」


私は、子供みたいにわんわんと泣いた。


涙が、次々にあふれて止まらない。


泣き続ける私を、ラルフはふわりと優しく抱きしめた。


ラルフの腕が、暖かい。


…………ああ。私、ラルフが好きみたい。




✿ ✿ ✿



私がわんわん泣いているうちに、警備兵が駆け付けて現場を確認し、お父様達から事情を聞きとった。


グレン様とベス様は、私の殺人未遂と、侯爵家の乗っ取りを計画した罪で調べを受けるため、憲兵が身柄を引き取ることが決まり、騒ぎは収束に向かいつつあった。


漸く私が泣き止んだ時には、グレン様とベス様は、後ろで手を縛られて、警備兵に連れて行かれるところだった。


「それでは、ブラン侯爵様、これで失礼します」


警備兵が、お父様に挨拶すると、カフェの大きな扉が開かれる。


扉の向こうには、書店の店主とおかみさん、いつもグレン様の手紙を、届けてくれる、ガルシア侯爵家の使用人の皆さん、カフェの店員さん……。


沢山の人が、心配して待っていた。


「アリッサ様、大丈夫ですか!」

「坊ちゃんが、あの女を連れて行くと言うから、心配で」

「鳴き声と、大きな音がしたけど大丈夫?」


みんなが、口々に心配して、声をかけてくれる。


「旦那様、坊ちゃんを、廃嫡なされたのですか?」


使用人が、ガルシア侯爵に声を掛ける。


「ああ、既に貴族籍を抜いている。今は犯罪者だ」


「それでは、アリッサ嬢との婚約もなしになったのですね。良かった~」


使用人の安堵の声を聞き、グレン様が声を上げる。


「使用人ごときが、良かったとはなんだ!」


グレン様は、みんなに襲い掛かろうとして、前に出たところを、警備兵に綱を引かれてよろめく。


何処からともなく、小さな石が飛んできて、グレン様の頭に当たる。


「痛い!誰だ、石を投げたのは!」


グレン様は、大声を上げてみんなを睨みつける。


みんなもじりじりと、警備兵ごと二人を取り囲む。


私は驚いて、皆を見回すと、石以外にも、ボールやしゃもじ、モップやホウキ、様々なものを、みんな手に握っている。


もしやみなさん、袋叩きにするつもりでは!


私は、慌てて立ちあがる。


「みなさん、無事に屑との婚約破棄が整いましたし、私は怪我もしておりません。屑たちのために、皆さんの手を汚さないでください」


私が叫ぶと、二人の一番近くににじり寄っていた書店の女将さんが、こちらを向いた。


持っていたモップを、ガツンと道に突き立てる。


「アリッサ様が、そう言うなら、仕方ないね~」


女将さんは、にやりとしながら、書店の店主の下へ歩み寄る。


「やー。あんた、押さないでちょうだいよ~」


明らかに、押されていない女将さんは、よろけながらモップを、グレン様に振り下ろし、ひるんだグレン様の上に、ドーンと大きなおしりでアタック。


それを見た、ガタイのいい使用人たちも、同じようによろけて、二人をおしりの下敷きにする。


警備兵が、クスクスと肩を揺らしながら、みんなをたしなめる。


「みなさん、足元に注意してください、集まっていると危ないですから、そろそろ戻ってくださいね」


「やー。ぶつかって悪かったね~」

「おれもちょっと、よろけちゃってさ~」

「アリッサ様、お幸せに~」

「時々は、顔見せに来てね~」

「おい、兄ちゃん。アリッサ様を、幸せにするんだぞー」


みんな、パンパンと埃を払い、口々にいろんなことを話しながら、私達に手を振って去っていく。


ラルフが、私の肩を抱く。


「俺達、みんなに見守られてたんだな」


ラルフを見上げると…………。


「誰がアリッサの肩を、抱いていいと言った」


「あーお父様、アリッサを僕に下さい」


「ラルフ、その話は邸に戻って、ゆっくりと話そうじゃないか」


「はい、お願いします。とりあえず耳を掴んでいる、その手を離してください、お父様!」


耳をグイグイ引かれて、ラルフがお父様に連れて行かれる。


「ふふふ。二人とも待って!」


私は小走りに二人を追った。


グレン様。貴方のおかげで、大切な人の存在に気がつくことが出来ました。


新しい人生。頑張ってくださいね。



~ 終わり ~



いつも誤字脱字、リアクションなどありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
読み返してしまった。 グレンは婿になるんだよね。なのに嫡男が出来たら第二婦人にとかベスも侯爵夫人になるとか訳の解らない事言っているので思わず読み返して見て解りました。 二人は馬鹿だったんですね。
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