第一話 秋宮尊と梅田琴亜
「秋宮ー、このプリント返しといてー」
「……わかりました」
窓際の一番前の席だった尊は、担任の石川に指名されプリントを配った。誰にも顔を向けず、机の上にプリントを置く。ただそれだけ。
高校生活なんて、どうでもいいと思っていた。
入学式の日も。
クラス発表の日も。
周りが新しい友達を作ろうと騒いでいる中、俺はただ自分の席に座っていた。
秋宮尊。
それがお……いや、僕の名前だ。
中学までは違った。
自分で言うのもなんだが、友達は多かったし、クラスの中心にいることも少なくなかった。
昼休みになれば誰かと話していたし、休日に遊びに行くことだって普通だった。
けれど、それはもう過去の話だ。
高校に入ってからの俺は違う。いや、正確には中学最後の頃からだろうか。
人と関わることを避けるようになったのは。
誰かと仲良くなれば、その分だけ面倒なことが増える。
期待される。
傷つく。
傷つける。
だから最初から関わらない方が楽だった。
実際、一人でいることには慣れていた。
昼休みはスマホを見ながら時間を潰す。移動教室も一人。部活にも入らず、放課後になればすぐ帰る。
それだけの毎日。
特別つらいわけじゃない。でも楽しいわけでもない。
ただ時間が過ぎていく。そんな高校生活だった。
「おはよー」
朝のホームルーム前。教室のあちこちで挨拶が飛び交う。
僕は窓際の席に座ったまま、ぼんやりと校庭を眺めていた。
「ーー秋宮くん」
不意に声がした。横に目をやると、そこにいたのは隣の席で同じ班の梅田琴亜だった。
肩まで伸びたさらさらな黒髪。大きな瞳に長い睫毛。特別目立つわけではない。クラスの中心にいるタイプでもない。それでも、なぜか誰とでも自然に話していて、気づけば周りに人が集まっているような人だった。
「今日の掃除なんだけど、他の班員のみんな部活があるらしくてね。二人で掃除することになるかもしれないらしいよ。」
正直どうでもよかった。掃除なんて面倒だしほったらかして帰るつもりだった。しかしこんなことを言われては参加せざるを得ない。
「……そっか。時間かかるかもね。」
「ほんとだよー。早く帰りたかったのにー」
彼女が話しかけてくるのは別に珍しいことではない。しかし彼女が他の男子に自分から話しかけているところをあまりみかけない。
「(……気のせいだろ。)」
そんな考えを振り払うように、授業開始のチャイムが鳴った。




