66 たった一つの選択肢
グランは、俺のそんなドロドロした心情を知らず、悩んでいたみたいだが……複雑そうな顔しながらもコクリと頷いてくれた。
俺の全てを受け入れてくれること、それを了承してくれたことに喜びとグランに対する愛おしさが溢れ出る。
俺はグランの『中』に入っても嫌ではない存在だったらしい。
それが何より嬉しかった。
大好きな人に自分の全てを受け止めてもらって……それってこんなにも暖かくて、幸せで、気持ちよくなれる事なんだなと、またグランが教えてくれたのだ。
「ごめんね。」
俺の腕の中で心地よさを感じてくれたのか、眠ってしまったグランを見下ろし、すこしばかりの罪悪感が湧いて謝る。
二度と会えないと思っていた唯一の人。
そんな大事な大事な人に、俺の腕の中以外の場所を選ばせてあげられないことに対してだ。
俺は、眠っているグランの顔にゆっくりと自分の顔を近づけ額に軽くキスをした。
ごめんね、ごめんね。でも何でも願いは叶えるし、欲しいものはなんだって与えるから許してね。
「……フフッ。もう復讐したい気持ちは消えちゃった。愛って本当に凄いモノだね。
だってあんなにも心に溢れていた怒りや憎しみがこんなにあっさり消えるんだから。」
グランにニコッと笑いかけ、俺は全てを許すために一度外へと出た。
◇◇◇◇
「神王様どうかお許しください!!」
「どうか……どうか!!」
「いや、いや!!終わりなんて迎えたくない!!」
「うわぁぁぁーん!!もっともっと美味しいモノ食べたいよぉぉー!!」
人も神も終わりの時は同じ。
『終わり』は嫌だと泣き叫ぶ。
「せっかく許してあげるって言っているのに……。ほら、もう苦しむ必要はないよ。復讐は終わったから。」
優しくそう言ってやると、誰も彼もが絶望の表情を浮かべたまま、あるべき姿に戻っていった。
神の中で最後に残ったのは、『1000年程時間を貰えないだろうか?』と言っていた【時の神】。
そいつだけは絶望的な顔をしてないから、気まぐれに話かけてみる事にした。
「アンタだけは『終わり』が怖くないんだ?それともそれが欲しかったの?」
「……いや?ぶっちゃけ初めて俺の与えたギフトを使えた奴が現れたから、いけるかなって思ってた。
でも、『そうきたか!』って感じかな?」
【時の神】は、大きく肩を落としながら、頭をポリポリ掻く。
「元々アンタが生まれた時点で、一度世界はリセットされる運命にある。
色んな欲望がみんな神様になって……『終わり』が、いつかは来なければ、ひでぇ世界になるだけだろうしな。
だから、『終わり』を拒否するつもりはないが……もうちょっと終わりたくなかったかな。」
雀の顔をしている【時の神】は、大きなため息をついて、そのままペタペタと顔の毛を手で撫でつけた。
その手が大事な者を触る様な手つきだったため、さっきの自分のグランを触る手とイメージが重なり気まぐれに尋ねる。
「その『顔』が大事なの?」
「────ん?…………あぁ。俺の『始まり』と『思い出』が詰まっているモノだから。
……俺は元々一匹の弱っちい雀でな。
一番小さくて死んじまう所を、一人の人間に助けられたんだ。
でも、人同士の戦争でその人間も殺されて……その時、神様の力が覚醒したんだよ。
酷い光景を見ながら『時よ、止まれ!』って願った。」
頭から飛び出た太めの毛をちょいちょいと弄りながら、時の神は懐かしいモノを見るかの様に目を細めた。
「そしたらいつのまにか、『時の神』になってて……その力を使って全てに復讐したよ。
お前と一緒。
だから俺の力は、復讐を望むヤツには使えない様に作ってみた。
今までそれを使えたヤツは……まぁいなかったよ。
時は自分で戻らなきゃ、必ず『死』に掴まっちまうから、俺が戻しても駄目なんだ。
だからそれができちまうヤツは、すげぇヤツだと思うよ。
俺はまだ復讐に囚われていて、復讐を続けたいと思っているっつーのにさ。」
穏やかな顔をしていた『時の神』から、突然怒りと憎しみの感情が飛び出し、そこら中を真っ黒に染めた。
こいつは少し前の俺と同じ。
復讐のために存在する事を望んだ、歪んだ神だった。
「その復讐にも『終わり』が来たって事。
もう誰にもグランは取られない様に、全部許して消すことにしたから。────じゃあね。」
そう言って手を時の神に向けると、突然そいつは笑い出し、そして────……消える直前に大声で叫んだ。
「────またなっ!!」
その言い回しに少々違和感を感じたが、そのままあっさり【時の神】を消すと、世界はどんどん消えていく。
ドロドロと溶けた命の原始体はやがて周りの物質をどんどん分解して、最後は宇宙と呼ばれる空間そのものになった。
これで残っているのは、グランを奪った最も憎い世界の住人達だけ。
「さぁ、全部消して、今度こそ幸せに────……。」
そう思っていたのに……。
「一緒に消えよう。今度は一緒に逝こうな、サン。」
グランに酷い事をしてきた世界を消してやったのに……グランは消えたいと願った。
その選択を不思議に思い尋ねてみると、グランは笑顔でそれに答える。
『悪いヤツは嫌いだし死んだって別に何とも思わねぇけど、良いやつが死んじまうのは嫌だ。』
『だから俺は同じ様に消えたいと思っちまった。』
つまり、グランの幸せは、俺の幸せと同じ形をしてなかったらしい。
意味なく人を消すと、グラン様は幸せになれないとの事だった。
じゃあ、全てが消えてしまった今、俺たちが幸せになるには……消えて一つになるしかない。




