65 もう無理なんだ
「俺達は何もしていません!ましてや神王様に逆らうなど、しようと思った事も……!」
「神王様に誓って嘘はついてません!今まで真面目に生きてきました!どうかお慈悲をお与え下さい!!」
腹を抱えて笑う俺を見て、ヒュード達は土下座をして必死に命乞いをする。
これっぽっちも俺の正体に気付かない様子だったので、俺はクスクスと笑いながらヒュード達に質問してみた。
「誰かを売って逃げた事ある?」って。
そしたら、全員が口を揃えて言う。
「そんな非人道的な事はしたことありません!人を売るなんてそんな事……っ!」
必死に涙ながらに訴えるヒュード達を見て、俺は笑いを抑えながらボソッと呟いた。
「『ドブネズミ』と『腐色病』。」
そう一言口にすると────全員の顔は面白いくらいに青ざめていく。
そのまま口を閉ざしてしまったヒュード達を見て鼻で笑うと、必死に自分たちだけは助けてほしくて、俺に媚びへつらう周りの奴らに向かって言った。
「腐色病は、別名《神落としの病》。神の力を宿した者が患う病だった。
よってこの者達は神を売ろうとした大罪人だ。さぁ、そんな者達を────どうする?」
そう一言口にすれば、その場の全員が我先にとヒュード達に殴り掛かっていく。
俺に見せつける様に、それはもう必死で。
沢山の人間から殴られ、蹴られ……まるで踊っている様なその終わり方は────それなりに楽しかったと思う。
それから特に何も言っていないというのに、腐色病は『神の病』だのと、かつて腐色病の者に関わりがあった者達を神を害そうとした大罪人として一斉に狩り始め、誰一人として腐色病の者を見たもの達はこの世からいなくなった。
その中には、俺の元両親や街の奴らもいたけど……特に何も感じなかったかな?
淡々と終わってしまった復讐は、俺の心から感情を奪っていく。
喜びも悲しみも怒りも何もかもが、もう過去から持っていたモノだけになり、新たな感情を手に入れる事は永久にない。
目を閉じれば浮かぶ、何も変わらないグランとの思い出を振り返りそう思った。
だから本当に驚いたのだ。
その思い出の中そのままの……グランそっくりな人間が目の前に現れたから。
【クーラ】と名乗るグランにそっくりな男は、見れば見るほど、関われば関わる程グランに似ていた。
最初に会った時は、あの小賢しい神共がグランそっくりの『人形』でも作ってよこしたのかと思ったので、なら好きに扱ってやろうと思ったのに……。
「あんたが何を言ってるのかわからない。でも俺は────自分の中身に触れられるのは嫌だ。
だったら、殴られて殺された方がいい。」
恐怖や不安などのグチャグチャな感情の中でも、自分の信念を突き通そうとする姿に、動かないはずの心が痛んだ気がした。
コイツはグランじゃない。
でも似ているから悲しい顔を見せられると……痛まないはずの胸が痛む。
そんな複雑な気持ちを抱えながら、クーラの『声』を聞こうとしたが、不思議な事にその『声』は全く聞こえなかった。
そんな正体不明なクーラだったが、クーラと一緒にいる時間は、悪くないと感じていて……不思議な気持ちで一緒の時を過ごす。
記憶の中のグランと同じだ。言動も行動も全部……。
内心戸惑いながらも心地よさを感じていたある日、何故かレイケルの事を知っていたため、俺はカッ!としてしまった。
やっぱりクーラは俺を懐柔するために作られた人形か!!
そう思い、今日こそ正体を暴いてやろうと思ったのに……。
「俺は……特殊なスキルで1000年前の世界から来ました!!
だからそいつの事は最初から知っていたんです!!
騙していて申し訳ありませんでした!! 」
「は……?1000年前……?」
なんとクーラはグラン本人だったのだ!!
その時の衝撃ときたら……それこそグラン様が死んでしまった時に匹敵する。
クーラがグラン?そんな……ばかな!
ありえない事実に、必死に否定しようとしたが……それ以上に嬉しくて嬉しくて堪らなくて、俺は逃さない様にその体を抱きしめた。
グラン、グラン、グラン、グラン!
ずっとずっと…………会いたかった!!
感情は爆発し、その全てがグランへ向かうと同時に────────体はどんどん熱くなっていった。
グランにもっと近づきたい。
もっともっと触れたいし、俺を『中 』に入れて欲しい。
懐かしい匂いと暖かい体に触れ……気がつけば自分の気持ちを吐き出していた。
「グラン様、俺には今も昔も貴方だけ。
孤独だった俺に優しく触って、見てくれたのは貴方だけだった……。
1000年経っても、ずっとこの心に刻まれた想いは消えません。
寧ろ唯一絶対だった貴方という存在を失くして、どんどん気持ちは大きくなっていきました。」
「お、俺だけ?」
そう。
貴方だけ。
貴方だけが誰もが目を逸らした醜い俺を抱きしめてくれた。
何も持っていない俺に自分の全てを差し出して、神の創ったプログラムを解除してくれた人。
俺の高ぶりを感じて戸惑っているのは、『声』を聞かなくても分かった。
俺の『好き』は誰も理解できないほど深く大きいモノで、多分この先グランと同じモノになる事はないという事も分かっている。
でも、そんなの関係ないんだよ。
だって────……。
「サン……は、俺のことが好き……。でも、その好きって……。」
初めてぶつけられた好意というモノ。
それに戸惑っている俺に、サンは迷うことなくキッパリと告げた。
「『好き』は全部。俺は初めて会ったその日から貴方が好きで、これからもずっと好きです。
なんでも望むモノは差し出しますから、グラン様と永遠に一緒にいたいんです。……ダメですか?」
あくまでグランに選択する自由があるように聞こえるこの質問は、実はただの一方的な宣言。
断っても無駄。
もう離さないし、嫌だと言ったらこのまま一生閉じ込めて、無理やり俺を受け入れてもらう。
選択する自由はグランにはない。
だから少しでも、『いいよ。』って気持ちが芽生えるといいなと思った。
おかしいな?
1000年前はもう少し綺麗な想いだったのに??
酷く攻撃的な想いが心の中を占めているのに気づいて、一瞬だけ疑問が浮かんだ。
しかし、そんな疑問は歓喜と欲望の前に吹き飛んでしまって、どこで歪んでしまったのかはもう分からないが、どうする事もできない程大きくなってしまった想いは────……。
本人に受け止めてもらうしかないでしょ?




