64 復讐の始まり
俺がすっかり自分の姿を取り戻すと、欲望の神は大きく顔を歪めて狂った様に叫ぶ。
「く……くそっくそっくそっくそっぉぉぉぉ────────!!!!何なんだよ!!何だんだよ、あの最弱人間はぁぁぁぁ〜!!!
俺の……っ最高傑作のプログラムなのにっ!!欲望を持つ人間に、それが解除できるはずないのにぃぃぃ!!!」
首だけになってもなおギャーギャーと騒がしいので、俺はため息をつきながら、その頭に静かに足を乗せた。
「ね、凄い人だった。……もう二度と会えない。俺は『終わり』しか作ることはできないから……。
────でも、簡単に終わらせるなんてつまらないよね。
だからこれから、グランを殺した世界全てに復讐してやる。
まずはあんたから。
そしてそれが終わったら、こんな下らない事に加担していた『神』全員を全て消す。
さぁ、楽しかった世界に、そろそろさよならしようか。」
足に力を入れていけば、ミシミシと音を立てて踏みつけている頭は凹んでいく。
「────なっ!!や、やめっ……っ!!!ひぃ……っ嫌だ……嫌だ……消えたくなぃぃぃぃぃ〜!!
ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!!!
せっかく全てを思い通りにできる『力』がこの手にあるのに……消えたら……それが全部……っ。」
「────うん、ゼロ。でも、それが本来の姿だから。
あんたみたいなヤツ、沢山いすぎてもう相手するの面倒なんだ。
バイバイ。」
「────まっ!!!」
────グチャっ……!!!
そのまま容赦なくその頭を潰してやると、やっと静かになって、ふぅ……と息を吐き出す。
すると、それを見計らった様に沢山の顔が頭上の空有間一杯に浮かび上がり、またその場は騒がしくなった。
《わっ、私達はそんな酷いプログラム使う事に反対したのよ!
でも『欲望の神』の方が強いし!だから無理やり作っちゃってどうしようも……!!》
《そうだ!そうだ!そもそも『終わりの力』を持つものが誕生しないせいで、困っていたからこそ、私達はギフトとしてなんの力もない『人』に力を与えていたのに……。》
《そうなの〜。だから欲望の神様以外は、とりあえず『終わりの神様』を早く誕生させて〜どうにかしてご機嫌とって『終わり』を伸ばしてもらおうって作戦を練ってたの〜。
ちなみにこの私、『色欲の神』からは、厳選の美女達で作ったハーレムを送ろうと……。》
《────ふんっ!下らぬモノを用意するな!
ちなみに俺、『食の神』からは、厳選の美食セットを考えていた。
直ぐに性欲に結びつけるな、破廉恥の神!》
《────はぁぁぁぁ?!女にモテずに食ってばっかのデブ神が調子のんなよ、コラァ!!
この陰キャのクソデブ童貞野郎!!》
そのままギャーギャーと言い争いを始める神と呼ばれる存在が鬱陶しくて、その場で消してやろうとしたが……突然その中でも一番『力』を感じる神が声を上げた。
《申し訳ないが、1000年程時間を貰えないだろうか?
俺は『時の神』。
多分……待って損はないんじゃないかと思う。
これから復讐をすると言っていたな。
だったら、その1000年間、好きなだけ復讐をしてみるといい。
どっちにしろ一番力を持っていた『欲望の神』を消したのだから、世界は今からお前のモノになった。
多分今のお前に何を言ってもその耳には入らないだろうし……俺達が束になってかかってもお前には傷一つつけられないだろう。
だからお前を止められる者はいない。
愚かな『人』が、その唯一を殺してしまったから。》
うるさかった神共がピタリと喋るのを止めて、全員が下を向く。
今直ぐそいつらを全員消してもいいが……消すことはいつでもできるし、まぁこれからゆっくり考えよう。
一番苦しむタイミングを見て全員消してやった方が面白いだろうから。
そう考えて、俺はそいつらに背を向け、のうのうと暮らしている『人』共の姿を目に映し出す。
これから復讐の始まりだ。
さぁ、まずは何をしようかな?
目を閉じればまぶたの裏にはグランの綺麗に笑う顔が見えて……俺はそんなグランにとびきりの笑顔を返した。
それから1000年間────。
俺はありとあらゆる復讐に身を投じてきたが……流石に飽きてくる様になっていた。
憎しみと怒り、悲しみ……。
それらは何をやっても、全く癒される事はなかった。
誰も彼もが従順な奴隷の様になってしまえば、以前は一瞬でも気が晴れていた気分も今は全く晴れない。
「……つまらないな。面白いなと思ったのは……ヒュードを消した日で最後だったか……?」
誰も脅かす存在がいなくなってしまった王座に座り、ハァ……とため息をつくと、その場にいる媚びを売るのに必死な『人』はビクリと肩を揺らす。
グランを殺したレイケルを殺し、その後はグラン様を長年苦しめていたヒュードを直ぐに殺しに行こうかと思ったが……ちょっと趣向を変えようと、大罪人としてヒュードとその仲間たち全員を『神に逆らった大罪人』として指名手配してやる事にした。
当時はどの国もジワジワと戦力を剥いで追い詰めていたから……どこも血眼になってヒュードを探してくれて……見つかった時のヒュードとその仲間たちは、随分と『幸せ』とは程遠い姿をしてたのを覚えている。
長く続く逃げ続ける生活のせいで、食べるモノも服も買えずに、ガリガリにやせ細った惨めな姿。
その目は、かつての人を見下す目ではなく、ギョロギョロと恐怖と不安で大きく見開いたままの目になっていた。
とうとう捕まり俺の前に差し出された時は────吹き出してしまったな。
だってあんなにグラン様や俺をみずぼらしいだの、汚いドブネズミだのと馬鹿にしていたのに、自分が今はドブネズミ……いや、それより汚いゴミクズみたいになっていたから。




