63 エラーと終わり
グランを殺したレイケルに復讐した。
なのに憎しみは晴れない。
だから次はグランを虐げてきたこの街を消してやろうと思い、空から隕石を降らせて家も土地も人も全て消してやった。
その様子を空から眺めていると、そんな俺に向かって────最後は全員祈って謝罪の言葉を繰り返していたけど、それでも気持ちは晴れなくて……。
なら、グランが辛い思いをしなきゃならない理由を作った国に復讐しよう。
そう考えて、一つ一つ街を潰していった。
そして最後は、泣いて土下座をする王も消してやったのに……やっぱり気は晴れない。
俺の力は『終わりの力』。
だから消す事はこんなに簡単なのに……失ったモノは二度と戻ってこない。
俺の心を戻してくれるモノは、二度と……。
それに気づいた時は絶望して、全てを消してグランの後を追おうと思ったが……フッと気づく。
俺まで死んでしまったら、グランの存在全てがこの世から消えてしまう事に。
目を閉じれば次々と浮かんでくるグランの姿。
俺が生きている限り、俺の記憶の中のグランは生きている。
俺はもうこれ以上……グランを失いたくなかった。
だから────……。
グランを苦しめたこの世界に、永遠に復讐してやろう。
そう考えた俺は空を見上げて……ゆっくりと『空』を切り裂いていった。
切り裂いた空の先、その空間の中が『空の果て』。
むき出しになってしまった空は徐々に黒く染まっていき、それ以上壊させないと必死に切り裂かれた空間を縫おうとしたんだろうが、俺はそれより早く空の先へ飛び込んだ。
ここが『神様』とやらが住む場所だ。
「────な……ば、ばか……な……。」
そこには異常に長い髪の毛を持つ、まだ二十にも満たないくらいの年齢の青年がいて、その黒色の長い髪は、まるで蜘蛛の巣の様に空間一杯に広がっている。
「こんにちは。お前は……ふ〜ん?『欲望の神様』かな?
────いままで楽しかった?」
随分と和やかに話かけてやったというのに、そいつは俺の顔を見るなり悲鳴を上げて逃げようとしたので……俺は、そいつの目の前に移動してやり、そのまま口元を掴んで黙らせてやった。
「今、神様と呼ばれる『力』を持つ奴らって何人いるのかな?
長い間、『終わり』が生まれなかったから、随分沢山いるんじゃない?
欲に塗れたこの世界じゃあ、あんたの力、随分と上位なんだね。」
口元を掴んでいる手に少しづつ力を入れていってやれば、欲望の神は大きく目元を歪ませ恐怖の表情を滲ませる。
そしてその触れている箇所から、そいつの心の『声』が聞こえてきて……ニッコリと笑った。
「『帰り』たくないから、終わりが生まれない様【腐色病】とかいう下らないプログラムを作って、神がこれ以上生まれない様にしてたんだね。
随分と斬新な方法を思いついたもんだ。────流石は欲望を進化させた神様。」
馬鹿にした様に言ってやれば、怒りが恐怖を上回ったのか、俺の手を叩いて外すと大きく後退する。
そして、その『欲望の神様』は、ビキビキと軋むような音を立てながら、空間一杯に広がっている髪の毛を揺らし、俺に向かって怒鳴り散らす。
「ふざけるなよ!!まだ生まれたばかりの『神』のくせにぃぃぃ!!!
俺がもっともっと楽しむためには、これ以上『神』なんて存在、生まれるべきじゃねぇんだよっ!!
もしも『終わり』を導く神が生まれたら……俺はもう……『人』を使って楽しめないだろぉぉがぁぁぁぁぁぁぁ────!!!」
「…………。」
一斉に襲いかかってくる沢山の髪の毛を、ヒョイッと軽く避け、そのままそいつの目の前へ。
「────は……??」
そして、間抜けな声を漏らしたその神の頬をそのまま軽く殴りつけると……あっさりとその首が飛んでいった。
「え……え……え……????」
何が起こっているのか分からないのか、『欲望の神』の首は、目をまん丸に開いたままゴロゴロと転がっていく。
その後はやっと動きが止まった首に向かい、ゆっくりと歩いていき……目の前で止まった。
「────そう。じゃあもう終わりだね。
俺がその『終わりの神様』みたいだから。」
<終焉神の先天スキル>
【終焉を導く神の力】
存在する全てのモノを消し去り、元の単体原始物質に戻す事ができる特殊消滅スキル
それと同時にその単体原始物質を使って万物を作り出す事も可能だが、人の『感情』や『意思』などの様な、複雑に絡み合った人格形成などはできない
そもそもこの世界は何もない『ゼロの世界』が始まりで、規則正しい法則によって成り立っていた世界であった。
それが宇宙と呼ばれている空間なのだが……何故か必ずその規則正しい法則が乱れる『エラー』と呼ばれる現象が起き、不規則な法則を持った新たな物質が生まれてしまう。
そしてそれは集まりだして、くっついては離れ、増殖しては増えていき……星ができて沢山の物質が生まれ……やがて自らの『意思』で動く生物が生まれる。
その中で、特別な力を持った者達が一定の割合で生まれ、『人』の枠からはみ出ると、『神』と呼ばれる存在になるのだが……何事にも必ず『終わり』はやってくるのだ。
『終わり』をもたらす力をもつ者が誕生した時に、この世界はまたゼロの世界へ戻る。
『エラー現象』と『終わりをもたらす力』の誕生は必ずセットで、その2つがゼロの世界を支える概念でもあった。
だから『終わりをもたらす力』を持つ者が生まれると、他の『力』を持つ者はそれ以上誕生しなくなる。
そうしてバランスをとっていた世界の均衡は、長い間『終わりをもたらす力』を持つ者が誕生しなかったせいで、崩れ始めてしまった。
「【腐色病】というプログラムを使って、予め強い『力』を持って生まれた人間を消してきたのに、残念だったね。
解除するプログラムを、もう少し変えれば良かったのに。
あぁ、でも……欲望が支配する世界で、現れるわけないか。
腐りかけた奇病を持った相手に『心からの情を与えてくれて、自分の命を差し出してくれる』人間なんて。
────フフッ、だから【腐色病】というプログラムは、今まで破られた事がない最強のプログラムだったわけだ。
グランがあっさり解除しちゃったけど。」
俺は自分の腐りかけていた体が、変わっていくのを感じた。
黒ずんでいた皮膚は元々持っていた色白の肌に。
そして腐りボロボロになっていた髪は真っ白でサラサラの髪へ。
これが俺の元の姿。
グランが取り戻してくれた、俺の本来の姿だ。




