62 復讐
(サン)
「────ひ、ひぃ!!!!!!」
自分がどんな顔をしているかは分からなかったが……少なくとも普通じゃなかったとは思う。
レイケルの顔は恐怖で大きく歪んでいたから。
「か、金ならいくらでも払ってやるから、このまま消えろっ!
ほ、ほ〜らっ!こんな金見た事ないだろう!!?貧民なら誰もが欲しがるモノだ!」
レイケルは、腰に巻いてある金貨が入った袋を投げてくる。
地面に落ちた衝撃で、コロコロと周囲に転がる金貨をみて俺は────プッ!と吹き出してしまった。
そしてあまりにも面白くて面白くてゲラゲラ笑うと、そのまま一瞬で移動しレイケルの膝を蹴る。
────ボキッ!!!
足が折れる音と共にレイケルは崩れ落ちてしまい、無様に前に倒れてしまった。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ〜────!!!!!!」
その顔は、地面に激しく打ち付けられ血と泥だらけに。
そして直ぐに顔を上げようとしたのだが、俺はその頭を踏みつけ地面に戻してやると……ガタガタ震えるレイケルを見てニヤッと笑ってやった。
「頭を下げるんだったら自害するんだろう?────ほら、さっさとやれば?」
「あ……う……うぅ……っ!!す、すみませんでしたぁぁぁ〜……。
そこに転がっている兵達は、ぜ、全部殺していいから、俺だけは助けて下さいぃぃぃ〜!!」
レイケルは命乞いをしながら、足を失い惨めにも這って逃げようとしている兵達を指差す。
すると兵達は兵達で、「金のためにいう事を聞いてただけ!」「そのクソ貴族と自分は関係ない!!」と言い出した。
そして言い争いをし始めた両者を見て思う。
あぁ、なんて醜いんだろう────って。
こんな醜い奴らに、グランは殺された。
この世界で唯一綺麗だったグランを無くすという事は、どういう事なのか……。
「お前達には分からないか……。」
ボソッと呟くと、俺は血の匂いを嗅ぎつけたモンスター達に気づき、ククッと笑った。
さぁ、美味しい美味しい食事の始まりだ。
「う、うぁぁぁぁぁ────!!!ひ、ひぃ!!血の匂いでモンスターが集まって来やがった!!」
「た、助けてくれぇぇぇ!!!モンスターに食われて死ぬなんて嫌だぁぁぁぁぁ!!!!」
阿鼻叫喚の悲鳴が上がる中、兵達は次々と喰われていく。
それを見てレイケルはずっと悲鳴を上げ続けていたが……俺の心は一ミリも動かなかった。
怒り、憎しみ、悲しみ……何一つ晴れる事はない。
「モンスターの餌は嫌だァァァァ!!頼む!金ならもっとやる!
だから助けてくれよぉぉぉぉぉ!!」
『とにかくこの場をなんとか逃げて……次はもっと戦力を整えてこいつを殺してやる!!』
レイケルの悲鳴混じりの懇願と共に、その心の『声』も同時に聞こえて、俺はもう一番プッ!と吹き出した。
俺を殺すなんてできるわけないだろう?
────なぁ?神様?
俺は一度空を見上げニコッと笑うと、レイケルの頭を鷲掴み、そいつの記憶を覗き見る。
そこには沢山の楽しいお遊びの思い出があって、今目の前で食われている兵達と共に貧民を攫ってきては新しい武器の試し斬りをしたり、スキルを使ってみたり……あぁ、こうして森でモンスターに食わせて楽しんだりもしていた様だ。
そんな記憶の中には、こいつの妻や娘もいて、家族全員が『人』を使ったお遊びが大好きらしい。
醜く歪んだ真っ赤な思い出ばかり。
そしてその全てに愉快と快楽の感情が、ベッタリとくっついていた。
「『力無きゴミ共は可哀想だな。』『でも我々のような力ある人間の役に立つには、これしかないのだから仕方ないよな?』───か。」
クスクスと笑いながら、記憶の中でそう何度も言い放つレイケルの真似をしてそう言ってやると、レイケルは面白い程大きく震えた。
「じゃあ、『力』がある人間は何でも好きにしていいのか。
────フフッ、なるほど。じゃあ……俺は、何をしてもいいんだ?」
俺は、そのまま言葉無く震えているレイケルの髪を鷲掴み、そのままコイツの屋敷に向かって引きずっていった。
その屋敷は街の大通りを通り、金持ち共が住むエリアにある。
道中、悲鳴を上げているレイケルを堂々と引きずっていたが、誰も助けに入る者はいなかった。
誰も彼もが恐怖の顔で、こちらを見るだけ。
他の貴族に至っては、心の中で笑っている者達までいた。
グランや俺がどんなに辛そうにしていたって、誰も手を差し伸べる人なんていなかったんだから……これが『普通』でしょ?
グランだけが特別だっただけ。
ここで改めて、グランの強さと心の美しさを思い知った。
「…………。」
唇を噛み締め、見せつける様にそのまま歩き続けて、やっとこいつの屋敷へと到着する。
するとそこで待ち構えていたのは────────レイケルの家の全私兵達と王宮から派遣された騎士たちであった。
そいつらは俺に向かって武器を構え、一斉に叫ぶ。
「レイケル様を離せ!!この無礼者っ!!」
「化け物が!!」
「あぁ、あなたっ……!!なんてこと!!」
「この汚らしい貧民風情がっ!!お父様を離せっ!!!」
俺を罵る兵たちの声と、レイケルの家族たちの怒鳴り声を聞き、レイケルは自分の優位を感じたのか、俺に向かって怒鳴り出す。
「ハハハッ────!!!この化け物が!!よくもこの俺にこんなことぉぉぉぉ!!!グチャグチャに刻んで、最後は焼いてやるからな!!」
レイケルがすごく楽しそうに笑っているものだから……俺はとても嬉しかった。
これで絶望の底に落としてやれるから。
その後は、随分と単純な作業をしてやったよ。
まずは私兵と騎士団を全員刻んでグチャグチャにしてやった後は────レイケルの大事な家族とやらを、一人一人グランが死んだ時と同じようにしてやった。
ゆっくりゆっくり見せつける様に……殴って殴って殴って殴って……。
最後は汚い汁を垂れ流すだけの汚物みたいで、俺はその様子を見てひたすら笑っていたと思う。
どういうわけか、今までずっとそれを楽しんできたはずのレイケルもレイケルの家族達も、自分達が『使われる側』では全く楽しむ事ができなかった様で、狂った様にずっと泣き叫んでいた。
「人の心を持たぬ化け物!!」
「こんなっ……こんな人の命を弄ぶなど、お前は『人』ではないぃぃぃ!!!!! 」
そうだよ。
人の命で遊び続け、更にグランを殺したお前は化け物。
『人』じゃない。
そしてグランを失った俺も────『人』ではなくなってしまったんだよ。
俺はたった一人残されたレイケルを、それから随分と長く長く長〜く苦しめて苦しめて……最後は辛うじて生きている家族と一緒に燃やしてやった。




