57 全てを帰す
サンは俺が震えている事にやっと気付いたのか、俺の手を握ったままギュッと身体を覆う様にまた抱きしめた後、自分の肩に掛けているマントを俺の肩に掛けた。
「気が利かずに申し訳ありません。
グラン様に嫌な思いばかりさせたモノは、直ぐに『帰し』ますからね。
本当は1000年前のあの日に、全て『帰して』やろうと思っていたのですが……簡単に『帰して』はつまらないでしょう?」
嫌な予感がビンビンとして、そしてその予感は恐らく合っている事が分かる。
寒くて震えているのではないことにサンは全く気づかず、ベラベラと幸せそうに喋り続けた。
「もう少し復讐を楽しもうと思っていたのですが……もういいんです。
だってこうしてグラン様がこの手の中にいるのだから!
だからいらないモノは、もう全て『帰し』ましょう。
ゴミはゴミ箱へ。
全てを元の物質へ戻してしまえば、当分『世界』は生まれないので、穏やかに過ごせますね!」
ニコニコと眩しい程の笑顔で話される内容を、俺は一つも理解できない。
呆然と立ち尽くす俺を見下ろし、不思議そうな顔を浮かべたサンは『う〜ん?』と考えて、何故か俺を抱っこした。
そして瞬きすると、そこは外の庭園で……手が届きそうなくらい直ぐそこに、月と星達があり、周りに咲く美しい花達と共に幻想的な景色を作ってくれている。
サンはそこにゆっくりと優しい手つきで、俺を下ろしてくれた。
「もしかして怒ってるのですか?俺がすぐに『帰して』おかなかったから……?
申し訳ありません。今ちょっと邪魔な奴らを先に『帰して』きまして……最後はココを『帰そう』と思ってとっておいたんです。
さぁ、グラン様、見ていて下さいね?
すごく綺麗にしますから!」
言葉を失くしている俺にそう言って、サンは空に向かって手を向けた。すると────……。
────────ゴゴゴゴゴゴ………!!!
ありえない程の光と轟音を立てながら、まるで雨の様に沢山の星達が地上へと落ちていく。
「────っ!!!???なっ……なっ!!!!!」
俺は反射的に駆け出し、庭園を飛び出して門の外へ出た。
そして城の最外周まで走ると、そこから地上を見下ろしたのだが……下は燃え盛る炎で真っ赤に染まっていて、それでも次から次へと落ちていく星たちによってまた新たに赤くなっていった。
「〜〜〜〜っ!!!!」
言葉もなく膝をつく俺の後ろに、いつの間にかサンがいて、俺の横でヒョイッと下を見下ろす。
そして────大声で笑いだしたのだ!
「アハハハハハっ────────!!!!見て下さい、グラン様!
あいつら必死に、まだ無事な土地に逃げようと藻掻いてますよ!
馬鹿だなぁ〜?そんな場所あるわけないのに!
フ……フフフフッ……アッハハハハハ!!なんとか自分だけは助かろうとしている姿!
本当に醜いですよねぇ?
もう少し楽しんでもいいのですが……これ以上グラン様をおまたせしては申し訳ないので、さっさと終わりにしましょうか。
永久にさようなら。
バイバイ、グラン様に酷い事をしてきた汚らしい『人』達。」
「あ……や、やめ……っ。」
俺がすがりつく様にサンに手を伸ばすその前に……上から巨大な月が凄まじいスピードで落ちてきて、地上は沢山の光に包まれた。
────ドドドドド────ンっ!!!!!
聞いたことのないくらいの大爆発音に……地上が消えてなくなった事を知る。
多分国どころか全てが……。
「…………。」
サンに伸ばしかけた手をゆっくりと降ろし、俺はガクッとその場に崩れ落ちた。
サンは完全に壊れている。
その原因は……俺……なのか?
あまりの事に、涙もでないくらいショックを受けた。
俺の頭の中には、出会った頃のサンがぐるぐると周り、どうすれば良かったのかとひたすら後悔の念に嘆く。
俺は俺で精一杯生きてきて……サンだって精一杯生きてきた。
でも現実はとても無情で……足掻いても足掻いてもどうする事もできなくて、結局俺かサンのどちらかが死ぬしかなかったのだ。
こんな俺にどうしろっていうんだよ、畜生!!!
地面をドンッ!と力の限り叩くと、サンがオロオロしながら屈んで俺の赤くなった手を優しく握る。
「どうしたのですか?俺は何か間違えてしまったのでしょうか……。
もしかして、もっと違うやり方がご所望でした……?
何でも言って下さい。
そしてこれからずっと一緒に、幸せに生きていきましょうね。ずっとずっと……。」
幸せそうに微笑む顔は、とても無邪気なモノで……たった今、全人類を滅ぼした男には到底思えなかった。
ずっと幸せに……?
俺は言われた言葉を何度も頭の中で反芻すると、突然プッ!と吹き出してしまう。
「アハッ……ッハハッ……ハハハハッ!」
そしてそのまま大声で笑うと、サンはホッ……と息を吐き安心した様子だった。
「良かった……。俺は何か間違えてしまったのかと思いました。
さぁ、まずは何がしたいですか?
何が欲しいですか?
何でも叶えて見せるのでどうか言って下さい。」
「あぁ。分かった。本当に何でもいいのか?」
俺がヒーヒーと笑いながら尋ねると、サンは穏やかな笑みを浮かべて大きく頷く。
俺はゆっくりと立ち上がり、それに伴って立ち上がったサンとしっかり向き合うと、そのままペタペタとサンの顔を触ってその感触を確かめた。
サンは擽ったそうにしていたが、それ以上に俺に触られた事が嬉しくて嬉しくて溜まらない様子で、笑いながら俺の手に顔を擦り付ける。
そんな嬉しそうに笑うサンを見つめながら、俺は静かに口を開いた。




