56 大丈夫
「………………………えっ…………?」
多分結構長い時間、ボンヤリとその映像を見ていたが、次第に意識が戻って来ると恐怖で体がガタガタと震え始める。
「か……顔の……皮……??な、何で……?!えっ?じゃあ、この赤い水は……??
────お、おい!雀の人!!嘘だよな!これってジョークだよな!?」
大声でスクリーンに呼びかけたが、シーン……としたまま答える者はいない。
真っ青になりながらスキルを解除しスクリーンを消すと、震えたまま大きく深呼吸を始めた。
雀の人が殺された……?
最悪な可能性が頭を過ぎり、震えは更に大きくなっていく。
なんで?
どうして??
そもそも雀の人って、俺のスキルで創り出した人?じゃなかったのか??
混乱しながら一つ一つ考えていたが、もしかして……?という今まで特に深く考えていなかった可能性に辿り着く。
「もしかして雀の人って……現実に実在する人……? そんな馬鹿な……!」
そう笑い飛ばそうとしたが────話していると妙に人間くさいなと思い事も多々あって、俺が創り出した人格というよりは、どこかに存在している人物がスクリーンを通じてお話していると考えた方が自然だと思った事がある。
この世界で一番身近だった人?の死の可能性に、気分が悪くなり、思わず口元を押さえた。
もし死んでいるなら、一体誰に殺されたんだ……?
ゾッ……!とした俺は、サンがいない事に恐怖を感じ、直ぐに扉に手を掛ける。
サンにも何かあったらどうしよう……!!
あり得ないと思っていても、姿が見えない事が怖くて仕方がなくて、俺は扉を勢いよく開けて大声で叫んだ。
「サンっ!!!────────────……っ!!??」
大声でサンの名前を呼びながら、扉の外に出た俺が見たモノ────……………それは先程スクリーンの中で見たのと全く同じ真っ赤な水が、床全体を濡らしている光景であった。
「な……なんなんだよ……これ……っ!?」
赤い水はスライムの様に粘り気があり、べったりと床や壁に付いていて……それだけでも気味が悪いというのに、その粘着質のある赤い水には人の髪の毛?の様なモノや、白い骨の欠片の様なモノもくっついている。
「──────ヒッ!!!!」
赤い水の正体がハッキリして、そのまま部屋に後退しようとしたが、怯えている場合ではないと、必死にその場に踏みとどまった。
何が起きているのか分からねぇけど、サンを探さねぇと!
俺はその赤い水に向かって両手を合わせて一度拝むと、そのままサンを探して走り出す。
「サン!サン!!どこだ────!!!」
大声で叫びながら走り回るが、どこを見ても目に入るのは赤い水ばかりで……。
しかし、床に所々落ちているメガネや装飾品にも目が行くようになると、それが記憶の奥にバシバシと引っかかって、血の気はどんどん引いていく。
「……アレ……確か侍女の一人がつけていたネックレスだ……。それにあっちのは執事の一人が自慢していた懐中時計……。じゃあ、赤い水の正体はやっぱり……。」
『貧乏人には一生働いても手に入らない』
そんな事を言いながら見せびらかしてきたからよく覚えている。
ゴロッとしたダイヤがついたネックレスに、全部金でできた懐中時計……。
「……っクソっ!」
俺は突然走り過ぎたため痛む脇腹を押さえながら足を止めると、震える手でそのネックレスと懐中時計を手にする。
そしてやはり間違いないと確信し、必死に吐き気と戦っていたその時────……。
「────グラン様、起きたのですか?」
真後ろからサンの弾むような声が聞こえて、振り向こうとした……が、その前に後ろから強く抱きつかれ、体が固まった。
こんな状況なのに、上機嫌な声と優しく抱きしめてくる優しい仕草に強い違和感を感じ、思わずフルっ……と体が震える。
「サ……サン……。お前……無事なの……か?」
「あぁ、グラン様、グラン様……。俺……今、すごくすごく幸せで……なんだか夢を見ているみたいです。
嬉しいな。俺の想いを全てを受け入れてくれてありがとうございます。
すごく気持ちよくて暖かくて……愛情を受け入れてもらえることがこんなにも幸せな気持ちを与えてくれるモノだったなんて、今まで知りませんでした。」
まるで半分まだ夢の中にいるのかと思うくらい、浮ついた様子でベラベラ喋るサン。
それに俺の中の違和感は大きくなっていったが、とりあえずコクコクと小さくうなづいた。
するとサンは、嬉しそうに俺の耳や首筋にキスをしてきて、更に身体に回された手で俺の身体を優しく撫で回した────が……俺の手に握られているネックレスと懐中時計を見て、あからさまにムッとした雰囲気を出す。
「……グラン様はこういったモノが好きなんですか?
じゃあ、直ぐに俺が新しいモノを作って差し上げますので、そんな汚いモノは直ぐに捨てましょう。
そんな誰のモノか分からないモノがグラン様に触れるなんて……汚らわしい。」
「あっ……。」
サンは心底忌々しそうに言いながら、俺の手に触れ、それと同時にネックレスと懐中時計はドロドロっとゲル状に溶けてしまった。
手から溢れてしまったゲル状の物質が床にボタッと垂れたのを見て、呆然としていると、サンは俺の手を絡め取る様に強く握る。
「もう大丈夫。汚いモノは全部『帰す』ので、二度とあんなモノを目にしなくてもすみますよ。」
「一体何を……言っているんだ?汚いモノって……二度と目にしなくてすむって……?」




