54 幸せの場所で
「偽物かと思ったんです……。グラン様そっくりな別人を作り上げて、俺に近づけようとしたのかと……。
でも、偽物でも似すぎて……初日に悲しげな顔を見て苦しくなってしまいました。だから、それからは……。」
「そうだったのか……。まぁ、王様とかって何かと敵が多くなるモンだからな……。
本当に俺、気にしてねぇからさ。
それよりこうして会えるなんて……死ぬほど嬉しいぞ、俺は!」
二度と会えないと思っていた大事な存在であるサン。
それを驚きの形ではあるが、こうしてもう一度会えた事が嬉しくて嬉しくて……何もかも忘れて喜ぶ。
事情が全く分からずポカーン……としている執事や侍女たちの事だって、すっかり頭からスッポ抜けて、ヘヘッと笑った。
ぶっちゃけサンに服脱がされて全裸にされた事には本気で驚いたが、大事なサン相手だと思うと、その時に感じた嫌な気分は全て吹き飛んでしまう。
サンは喜んでいる俺を見て本当に幸せそうに笑って、そのまま俺の手を引っ張ってきた。
「グラン様、来て。」
固まったまま動かない執事や侍女達達を置いて、サンはズンズンとどこかへ俺を連れて行く。
一体どこに?と思っていると、一つの大きな扉の前で止まった。
「ここは??」
「俺の部屋です。────さ、入って下さい、グラン様。」
ガチャッ……と扉が開いて中に入ると、そこには────……。
「も、物置小屋……?俺達の部屋じゃねぇか……。」
豪勢なキンキラキンの扉を開けると、そこには見覚えがありすぎる狭くて汚い物置小屋があって、更に置いてある家具……いや、掃除用具入れとかせんべいタオルとかもそのまま置いてあった。
驚きながら部屋の中を見渡す俺に、神王……いや、サンはニコッと笑う。
「グラン様と過ごした部屋を空間ごと切り取りました。ここが俺の部屋……幸せの場所ですから。」
「へ、へぇ〜……そ、そっか!」
なんだか照れくさくて下を向くと、突然サンが俺の後ろから覆いかぶさる様に抱きついてきたため、ドキッ!と心臓が跳ね上がった。
「グラン様……グラン様……。」
「ん……んん〜??えっと……???」
逃さないとばかりに随分と逞しい腕に囲まれて、身動きが取れないし、それに何だか指で脇腹辺りを擽ってくるのも少々違和感があるというか……?
必死に身をよじって気まずさを伝えようとしたが、サンは全く気にしていない様子で強く抱きしめてきた。
「サ……サン……あ、あのさ……。」
怖いくらい真剣な雰囲気にビビりながら名前を呼ぶと、サンは一度俺から手を外した。
それにホッとしたのも束の間、体をグルッと180度回転させられて、今度は正面から抱きしめられてしまう。
その意図が読み切れなくて、真っ赤になったり血の気が引いて白くなったりを繰り返すことに……。
「え……あ〜……その……。」
「グラン様、俺には今も昔も貴方だけ。孤独だった俺に優しく触って、見てくれたのは貴方だけだった……。
1000年経っても、ずっとこの心に刻まれた想いは消えません。
寧ろ唯一絶対だった貴方という存在を失くして、どんどん気持ちは大きくなっていきました。」
「お、俺だけ?」
サンのどこか酔っている様にも見えるウットリとした顔を見ながら、呆然としてしまった。
サンは奴隷で腐色病を患っていたから、俺しかいないと思い込んでいる。
でも今は……?
俺はサンの今まで見たこともないくらいの美しい顔と、男なら誰もが羨む様な体を持ったサンを見つめた。
こんな男が俺がいいと言う。それって────……。
俺があんな死に方したから……?
ゾッとする可能性が頭を過り、背筋が震えた。
唯一接触があった人間が、突然酷い死に方をしていなくなる。
それがサンの心を大きく歪めて縛りつけてしまったのではないか?
バクバクと大きく鳴る心臓の音は、罪悪感とサンを変えてしまったかも知れないという恐怖から。
でもサンから聞こえる大きな心臓の音は、きっと別の感情から来ている様だ。
そんな好きも嫌いも選べない中で、全ての『好き』がごっちゃになってもおかしくはない。
「サン……は、俺のことが好き……。でも、その好きって……。」
初めてぶつけられた好意というモノ。
それに戸惑っている俺に、サンは迷うことなくキッパリと告げた。
「『好き』は全部。俺は初めて会ったその日から貴方が好きで、これからもずっと好きです。
なんでも望むモノは差し出しますから、グラン様と永遠に一緒にいたいんです。……ダメですか?」
優しく聞いてくる割に、俺の体を掴んでいる手は逃さないとばかりに強いモノだ。
サンは俺の命より大事な存在で、勿論俺だってサンが大好き。
でも……サンと同じ様な『好き』なのかと言われたら、正直違う気がする。
今までの自分の周りに存在していた愛情を思い出すと、きっと自分の好きは家族に対する愛情に近い。
つまり、サンが持っている『好き』と同じモノは自分にはない。
ないけど……。
────チラッ……。
ジッと俺を見つめるサンの目と目が合うと、何だか『まぁ、いっか。』という気持ちになった。
自分の気持ちより、サンが喜んでくれることの方が嬉しい。
だからサンが望むなら、なんでもあげたいと思っている。
縋り付く様にくっついているサンの背中におずおずと手を回せば、サンが泣きそうなくらい歓喜しているのが、心臓の音と跳ねる体で何となく感じた。
正直全然気持ちがついていってない。
だってあのおっかない神王が、あんなに優しいサンと同一人物なんて今でも信じられないし……。
ボンヤリした思考でそんなことを考えていると、サンは俺の顔を優しい手つきで触り、まるで指で『好き』『大好き』を言われている気分になる。
こ、これは恥ずかしい……!!
恥ずかしさがマックスに達しその手から逃れようとすると、今度は髪を肩を背中を……沢山沢山触られて、なんだか凄く幸せだなと思った。
狭い狭い部屋のゴツくてめちゃくちゃ硬い体に抱きしめられて、せんべいタオルしかないからちょっと寒いのに、まるで世で言う母親の愛情って奴に包まれた様な……?
そんな心地よさと暖かさにゆらゆらと揺らされて、限界がきた俺は────そのままその幸せの中で意識を失ってしまった。




