53 サン?
さっきと比べものにならないくらいの殺気に、俺は当然だが周りの執事や侍女達もへたり込んでガタガタ震えている。
しまった!動揺して余計な事を言っちまった!!
サァ〜……と顔色を悪くしながら、必死に言い訳を考える。
しかし、眉を大きく寄せて大激怒している神王に一体何の言い訳が通じる……?
「何で知ってるのかって聞いている。答えないならこのまま消す。」
《警告!!約30秒後に存在が消滅します。回避不可、回避不可。────この世界にお別れを……。》
スキルが諦めた!!?
もうダメだ!!とパニックを起こした俺は、後ろに大きく後退して、その場で土下座し、無駄だと分かっていても大声で命乞いをする。
「す、す、すみませんでした────!!俺……嘘ついてました!!
そいつの事は本で知ったんじゃなくて、元から知ってて……。」
「……まさか、クーラはそいつの子孫か何かかな?全然似てないけど。
血筋は全部潰してやったと思ったのに……。」
「め、滅相もございません!!生まれは関係なく貧民ですので!!レイケ……じゃなくて、その男とは縁もゆかりもありません!」
神王の怒りは治まらず、一歩、また一歩と俺に近づいてくるので、恐怖でハァハァ……と息を乱しながら更に続けて言った。
「俺は……特殊なスキルで1000年前の世界から来ました!!
だからそいつの事は、最初から知っていたんです!!
騙していて申し訳ありませんでした!!」
「は……?1000年前……?」
ピタリと俺の目と鼻の先で動きを止めた神王に、チャンスと見た俺はヘコヘコと頭を土下座したまま縦に振る。
「はいっ!俺のギフトは<渡り人>っていう役立たずの才能で……死んで初めて発動したんですよ!
その男に殺されて……で、目が覚めたら、この1000年後の未来に飛ばされてました。だから────……。」
「…………。」
────シーン……。
沈黙が非常に怖くて、頭を下げたままガクブルしていると、突然神王がボソッと呟いた。
「……クーラという名前は本名……?」
震えている様にも聞こえる声に、もしかして相当怒っているのかと思いビクッ!!と体が跳ねたが、なんとか助かろうと、俺は自分の名前を叫ぶ。
「違います!本当の名前はグランです!!
地中から一生這い出れないミソッカスって意味でつけられた、クソみたいな名前であります!」
ブルブル……。
ガクガク……!
前にいる神王が怖くて怖くて、そのまま動かないでいると────突然……。
────ポタッ……。
俺の下げている頭に水滴が落ちてきたため、驚いて震えが止まった。
……雨???
こんな城の中で雨など降らないのは知っているため、『なら、一体何?』とゆっくり顔を上げると、そこには───────ボロボロと涙を流す神王がいた。
「……えっ……な……っ……えぇ……???」
ポカンとしながら、泣いている神王の赤い瞳に魅入っていると……突然記憶の中の大事な存在と完全にイメージが重なる。
「────サン……?」
大事な大事な、今は俺の記憶の中にだけ生きているサンの名前を呼ぶと、その瞬間勢いよく神王に抱きしめられてしまった。
「うん……うん……サンだよ。グラン様……。」
自分の体を包み込むくらい大きな体。
面影は赤い瞳だけだというのに、泣いている神王の姿が────サンが俺に縋り付いて泣いていた姿に完全に重なった。
『す……捨てられたのかと思った……。お願いします。捨てないで……。』
『何でもするから……お願いします……一緒にいて……お願い……。』
『貴方がいないと……生きていけない……。』
俺が必要なモノを買い物するため、サンをハウスに置いて外出した時の事。
帰ってきたら、サンがボロボロ泣いて俺にそう言った。
今、目の前で俺を抱きしめて泣いている……サンの面影の一つもない神王の背中にゆっくりと手を回し抱きしめると、いつの間にか自分の目からもボロボロと涙がこぼれている事に気づく。
「サン……サン……本当にお前、サンなのか……?」
「そうだよ、グラン様。俺は貴方の奴隷のサンです。
ずっと……ずっと……貴方が殺されてから1000年……生きてきた……。
本当に……本当にグラン様なのですか?」
神王は俺を抱きしめたまま顔をゆっくり離して、俺をジッと見つめた。
ゆらゆらと涙に赤い目を見ながら、俺は大きく頷いた。
「あぁ、俺は人に媚びる事しか特技がなかったあのグランだよ。
サンは随分変わっちまって……まさかこんなにデカくなるなんてな……。それに怖いヤツになってたし……。」
「……っ!!も、申し訳ありませんでした!!俺……知らずにグランに酷い事を……。
ど……どうしよう……。何でもしますからどうかお許しを……!」
せっかく少し治まってきた涙は、またゆらゆらとキレイな水で揺れ始めたため、慌てて気にしてない!と伝えたのだが……サンはやっぱり泣いてしまう。




