50 懐かしい人との思い出
ラルフが書いた本がシリーズ化しているのは、多分土地を移るたびに残していったからじゃないかと、俺は予想した。
────というのも、その当時暮らしているらしい街の名産物やエロい店のおすすめなどが書いてあったから。
そういえばギルドでたまに会うと、よく美味しいご飯の話をしてたっけな……。
つい懐かしくてププっと笑いながらその本を優しく撫でると、突然直ぐ後ろから話しかけられて思い出はあっという間に吹っ飛ぶ。
「面白い本、あった?」
「────っ!!?……は、はひっ!!た、たいしたものではありませんが……。」
ビクッ!と体を震わせながら、手にもっていた本を神王に見せたが、神王は俺が持っている本に興味がなかったのか、直ぐに視線を逸らした。
そのため俺は無言で読み終わったその本を戻し、また本を探し始めたのだか……神王は気まぐれを起こした様で、俺に向かって喋りかけてくる。
「ねぇ、クーラは今までどこで暮らしていたの?」
「────えっ!……え、え〜と……。」
1000年前です!……とは言えないので、しどろもどろにならない様に必死に冷静を装って言った。
「お、俺は、見た目も才能も皆無だったもんで……。だから生まれて直ぐに捨てられて、各地を転々としてたんですよ。」
「────ふ〜ん?でも、俺、クーラの事見たの、初めてだったけど?」
心の中でギクッ!としたが、これは想定済み。
そのためあらかじめ考えていた設定をペラペラと話す。
「じ、じつはですね〜……俺、ついこの間まで奴隷でして……。
なので金は全て主人が払ってくれてました。
多分幼くして売られた俺を不憫だと思ってくれたのでしょう。
買い取ってもらった後は、その主人の仕事を手伝いながら色んな事を教えてもらったんです。
────で、つい先月、主人が事故でなくなってしまったため、こうして一人立ちしなければならなくなったということです。」
奴隷という身分は、この1000年後でもあって、奴隷は主人の所有物として扱われるため、勿論毎月の献上金は主人持ち。
ただし、奴隷の維持コストは1000年前より高いため、扱いは1000年前より酷いかもしれない。
いらなければ直ぐに破棄されてしまうらしいから。
神王は俺の話を「ふ〜ん。」と興味なさそうに聞いていたが、突然また俺に話しかけてきた。
「……その人、大事な人だった?」
急な話題にドキッ!とし、どう応えようか迷ってしまう。
だってその設定上の御主人様は妄想の人だし……。
まぁ、生まれて直ぐに捨てられちゃったのは本当だけど……。
う〜んう〜ん……と迷ったが、その時浮かんできたのは、サンの事だった。
唯一俺と一緒にいて生きてくれたヤツ。
主人じゃなくて奴隷だったけど。
「……はい、すごく大事なヤツでした。
もう……二度と会えませんが……。」
気持ちがグッと入り、しんみりした気持ちになって下を向くと、一瞬の沈黙後、神王がボソッと呟いた。
「……俺も……二度と会えない……。
…………もう一度……会いたい……。」
ボソボソと小さな声は、ほとんど聞こえない。
しかし、何だか漂う雰囲気がすごく悲しげなモノに感じて……俺はその後、無音になってしまったその場で、黙ってまた本を読み始めた。
◇◇◇◇
夕食を終え、初日に案内された広い部屋の中へ入った俺はそのまま広いベッドへダイブ!
ポヨヨ〜ン!とバウンドするベッドに横たわりながら、手に持っている一冊の本に目を向けた。
「ラルフの本。図書資料室を出る直前に、また見つけちゃったぜ〜。」
沈黙が支配する図書資料室の中、黙々と本を読んでいたのだが────俺のお腹の音がなったのを合図に、夕飯の準備へ向かおうとした。
しかし、その時読んでいた本を戻すタイミングでこの本を偶然発見してしまう。
どうしよう、どうしよう……。
その場でオロオロしていると、神王がめんどくさそうに「持ってけば?」と言ってくれたのだ。
まさに渡りに船!とばかりにその本をちゃっかり持って、夕食を作って食べた後は、いつも通りあっさり解放される。
神王は欠かさず自室へとまっすぐ帰っていくから。
どうやら神王は自分のお部屋が相当大好きらしく、誰にも部屋に入れさせないのだと、俺への嫌味混じりに執事や侍女の人が言っていた。
何か見られたくないモノでもあるのか?
それとも単にプライベートを見られたくない性格なだけなのか?
少々考えてみたが、調べようがない事は考えても分からないだろうと、それは頭の隅へ放り込んでおいた。
とりあえずそのお陰で、神王が部屋に帰った後は完全な俺のプライベート時間になる。
その事を単純に喜ぼうと思った。
「あんなにイケメンでも引きこもりたくなるもん?どう思う?雀の人。」
《……答えかねます。》
ベッドの上に浮かんでいるスクリーンの中には、毎度お馴染みの雀の人がいる。
実は雀の人曰く、神王が部屋に入っているタイミングでないと出れないらしく、今出れたと言う事は、神王様が完全に部屋に引きこもっている証拠でもあった。
俺は本を見つめながら、大きなため息をつく。
「何だか調べれば調べるほど謎が増えていくだけだ。
それに何だかラルフの本だけしか手がかりになりそうなモノがないんだよな……。
これって……もしかして意図的に歴史、消されてない??」
《……恐怖から誰も書かなかったのでしょうね。
そのラルフさんだけはちょっと特殊な人間だったのだと……。》
「そっか〜……。」
確かに思い出しても、俺の様な損しかなさそうなただの下僕男に気さくに話しかけたり、サンの不気味な姿に最初こそ驚いていたものの、普通に接してくれたのはラルフだけだった。
ラルフのことを思い出し、ニヤッと笑った後、俺は雀の人に本を見せる。




