49 懐かしい人の日記
ハハッと乾いた笑いを漏らしながら料理を食べ始めると、馴染みのありすぎる味にホッと一息つく。
赤身なのに、噛んだ瞬間中身から飛び出す熱々の肉汁の虜になりそうだ!
「う……うま〜っ!」
そのままガツガツと欲望のまま食べていると、今度は非常に居心地の悪い正体不明の熱視線が至近距離から刺さる。
その正体は、この世の支配者と言っても過言ではない神王様からのモノで……。
「…………。」
今は、この非常に居心地がよろしくない毎日が日常。
いやいや、何なんだよ〜。
ほんとによぉ〜!
ニコニコと笑いながら、神王に対して悪態をつく。
もし自分を殺した男とやらに俺が似ているとしたら、ぶっちゃけそんな目で見ることある??と思うんだが……。
口の中で主張してくる極上の肉を堪能しながら、数々の疑問が過る。
何故、自分を殺した男そっくりの俺を殺そうとしないのか?
今まで人生の中で沢山見てきた『力を持った奴ら』の事を考えれば、そっくりである俺をなぶり殺してスッキリしそうなモノだというのに……。
それに────……。
ムチャムチャと口を動かし続ける俺の顔に、突然神王の手が触れ、そしてまるで形を確認する様に、頬や額、口や鼻などを優しく触ってきた。
それが擽ったいのと、なにやら向けられた事のない様な感情をその瞳の奥に見つけて、正直戸惑うのだ。
とにかく色々とおかしくて、本当は雀の人に聞きたいのだが……なんと、雀の人はアレから呼び出しても直ぐに消えてしまい、まともに話もしてくれない。
それを思い出すとムッ!として眉間にシワが寄るが、そんなシワを神王は丁寧に丁寧に伸ばしてくる。
慌ててニッコリしてそれを消すと、直ぐに神王は他の部分を触り始めたのでホッ……と胸を撫で下ろした。
多分、雀の人は神王が怖いんじゃないかと思うんだよな〜。
でも────何で???
う〜ん……と考え込んだが分からず、自分の知識の中に答えを求めるのはやめた。
そのため俺は食事を終えた後、直ぐに立ち上がり神王に頭を下げる。
「申し訳ありません、俺はまだまだ知らぬ事が多いため、本日も図書資料室へと行きたいと思います!」
実はこの城には沢山の本が存在していて、それを保管してある図書資料室があったのだ。
学べる暇があるなら学べ。
それが下僕マイルールの鉄則であった俺は、毎日毎日庭の散歩に付き合わされる時にさり気なく頼んでみた。
『本があるなら読んでみたいです。』って。
そしたら神王は、眉をピクリと動かし、『何で?』と聞いてきたので、正直に答えた。
「無料のモノは全て頂きたいからです。」
すると神王は一瞬黙り、その後は無言で図書資料室へ連れてってくれて……それからこの図書資料室へは毎日許可をとって行っているというわけだ。
「……別にいいけど?」
神王はそっけなくそう言うと、そのまま食堂を出ていつもの道を歩き出す。
小走りじゃないと追いつけない神王の背中を必死に追いながら、俺はホッ……と胸を撫で下ろした。
これで今日もこの世界について調べる事ができる。
まだまだ分からない事だらけだから。
神王は基本図書資料室では、中央に置いてあるフカフカソファーに座ったまま目をつぶっていて、俺が勝手に動き回っては色々な本を探したり読んだりしている。
そのため、何でも調べたい放題というわけだ。
雀の人に聞くと神王に感づかれるという言葉ばかりでイマイチ分からない事が多いが、ここで色々な本を読んでいく事で、様々な事が分かってきた。
まず一つ目、神王が最初に断罪した場所、それは────……俺が住んでいた街だった事。
あの大きな湖はその跡地で、その場所の事を罪深き場所である事から<神罰の跡地>と呼んでいるらしい。
何故俺の住んでいた場所が罪深い場所になったんだ??
それに……。
現在俺が読んでいるのは、様々な病気と薬草などに関する医術関連の内容が書かれている書物なのだが、あるページに差し掛かった時、ピタリと手を止めた。
「やっぱりこれにもか……。」
開いているページに書かれている内容は<腐色病>について。
その記載が何だかおかしいのだ。
<腐色病>は、その酷い病状から《神罰の証明痕》と言われていて、時代の節目にたまにポッと現れる原因不明、かつ発症する人たちに目ぼしい共通点はなかった不治の病。
1000年前には、それ以上の記述はなかったのだが……現在は少々奇っ怪な事が書かれている。
それが────……。
「《神落とし》の病……。」
この本や他にもそれ関連の本に書かれている本には、以前は聞いた事がないあだ名が書かれていて、俺は目を細めて首を傾げた。
1000年前に無くなった病、腐色病。
その名前がなぜ改名されたのか……その理由は、この本にも書かれていない。
「ふぅ……。」
ため息をついて本棚に本を戻し、そのまま目線を他の本に滑らしていると────今、最も探しているシリーズの本を発見し、慌てて手に取った。
ボロボロで、乱暴に扱ったらすぐに塵となって消えるほど汚い本。
その表紙に書いてある作者の名前を改めて見て……俺は悲しげに眉を下げる。
『……だからお前、気をつけろよ。
そいつは医術界隈では有名な貴族で、噂では奴隷や浮浪者を攫って人体実験してんだとか。
ヤバそうだったら逃げろよな。』
「……<ラルフ>。」
ギルドにいた職員で、唯一俺みたいな底辺野郎にも普通に接してくれた気のいいやつ。
ギルド内で顔を合わせば、たわいない話をしていた。
「…………。」
ラルフの事を思い出しながら、俺はその本をパラパラ開いていく。
なんとこれはそいつが書いた本で、最初はそれに気づかずたまたまその汚さが目を引いたために手に取っただけだった。
「あいつ、ああ見えて結構マメだったんだな〜。日記を書くなんて信じられねぇや。」
フッと思い出すのは、豪快に笑ってかなり大雑把な対応をしていたラルフの姿で、正直日記を書いている姿は思いつかない。
懐かしくて、笑いながら俺はその本を読み始めた。
その本は、一言で言えばラルフが体験した事、そして死ぬまでに見てきたものを思いつく限り書いた日記帳みたいなモノだ。
しかし、時間軸はバラバラで、本当に思いついたことを書いているだけ?といいたくなる内容しか書いてない。
しかもシリーズ化している様に何冊もあるため、内容を理解するのに時間が掛かってしまう事も……。
でも、どうも何かを伝えようと書いているのが分かっていた。
「ラルフは俺が死んだ日、前の夜から出張で街にいなかったのか……。それから街を転々としている。
ラルフの能力は……<鑑定>だったのか。」
読んでいるページにちょうど、ラルフのギフトの事が書かれていて、今まで読んだ内容と合致していく。
<鑑定>は素材などは勿論、人に対しても使えるため、ギルドに属していた時は、全国様々な場所への派遣が必要だったのだと思われる。
だから街に何かがあった時、ラルフは偶然にもその場所を離れていたのだ。
そのお陰で、ラルフはこの神王の断罪から逃れることができ、こうして本を書き続ける事ができたのだと思われる。
俺は読み終えたその本を丁寧に閉じると、そのまま本棚へ。
そしてまた違うエリアへ行って一冊一冊目で追っていく。




