48 ちょっとした日々
「あ、あのっ!!!」
「……何?なにか文句でもあるのか?」
ヒヤッとした声が聞こえてきたため、叫ぶように声を出したのだが直ぐにトーンを押さえて話し始める。
「こ、これはちょっと……椅子よりグレードUPしすぎでは……ないですかね〜?恐れ多くて俺には……。」
「別にいい。俺が良いと言っているんだから良いだろう。 」
『逆らう事は許されない。』
そう語る言い回しに、俺のスキルが警告を鳴らさなくても悟った。
これを断ると死ぬ。
よって俺はこのまま言う事を聞くべし。
内心青ざめながらヘラヘラと笑っていると、全然笑っていない侍女たちが次々と食事を運んでくるが、やはり昨日同様馴染の深い癖のある匂いからもモンスターの肉を使った料理である事が分かった。
もしかして単にこれが好物なんだろうか……??そう思っていると……。
────ベチャッ!!
またもやテーブルの上にぶち撒けられた本日のメニュー、モンスター肉の野菜炒めらしきものを見下ろし固まる。
「…………。」
「早く食べなよ。」
無感情に命令されるのを聞きながら、無言でテーブルの上に置いてあるスプーンを手にして食べようとしたのだが……伸ばしていた手を握られて止められてしまった。
「……違う。いつも通りに食べてみろ。早く。」
「……は、はい……。」
食べ方にダメ出しされてしまい、背中に冷たいモノが伝うのを感じながら、素手で焦げ目のついた場所を探しサクサクと食べる。
すると神王は、俺の顎や頬をまるで確認する様に優しく触ってきた。
その触り方が……まぁ、ちょっと経験したことのないモノでゾワッとしたものが肌に走り、なんとなく避けようと動いたのだが……それはお気に召さなかったらしい。
身体の向きを横に変えられ、お姫様抱っこの様な体勢になってしまった俺の目の前には神王の不機嫌な顔があった。
口の中にあった焦げた肉野菜炒めを大して噛まずにゴクンっと飲み込むと、神王は何か言おうとしたのだが、直ぐに口を閉じ、そのままジッ……と探るような目を向けてくる。
その火傷しそうな熱量に目を晒したくても、何をされるかわからない恐怖で逸らす事ができない。
そのため、ただ見つめ返していると……俺は恐ろしい可能性に行き着いてしまった。
神王って……もしかして俺の事好きなんじゃない??
不敬極まりない妄想に、ヒエッ!と悲鳴を上げそうになったが、そう勘違いするほどに神王の視線は強い。
だが……??
俺は昨日の神王を思い出すと、首を振って妄想を吹き飛ばした。
昨日は逆に怒ったり、暴力的だったりで、好きという綺麗な感情は皆無だった気がする。
ないない。
多分これは俺の知ってる愛ってヤツとは違う。
……ヘタリッ。
何だか突然緊張が解けて体が弛緩してしまい、神王様の上で死んだタコの様に力を抜くと、神王が無言で元の位置へ戻してくれた。
「…………。」
「…………。」
それから俺は、無心で目の前の野菜炒めを食らう。
背後から神王の痛いくらいに熱苦しい視線を受けながら……。
そんなご飯を一緒に食べることから始まった神王と一緒にいる時間は、それから徐々に増えていった。
「クーラ、ついて来い。」
「なんかしてみろ。退屈。」
神王は何かと俺を構いたがり、俺は死にたくないからそれに答え続ける。
神王が言う要求は、正直下僕生活が長い俺にとっては大したものではない。
ついてこいと言われれば足の長さのリーチによって歩くスピードが違う神王を、ひたすら走って追いかけ、退屈と言われれば得意の手品やお手玉などを披露してみせる。
そして────。
『あれ?ここに来てどれくらい時間が経ったっけ??』
そんな時間がわからなくなるくらい一緒にいる頃には……神王の口元には笑みが浮かぶようになっていた。
「クーラ、ねぇ、クーラ。」
「はい、クーラはここにおります。」
神王の自分を呼ぶ声が聞こえて、俺は現在いる調理場から飛び出し直ぐに駆け寄る。
そして跪く────その前に、腰辺りを引き寄せられて頭の匂いを嗅がれた。
「……トビウオ・スパイダーの赤身肉。」
「正解です。今日はそのステーキを作りました。」
「へぇ、そう。」
神王はクンクンと鼻を動かしながら、俺の頭、首、握った手の匂いを嗅ぎ、満足そうに微笑む。
神王は、どうも貧乏飯がただ単に好きなだけの様で、やる事が全くない俺がたまにその料理を作ってやると、頻繁に作れと強請ってくるようになった。
だから、このお城のシェフの邪魔にならない程度に一品だけ作って出している。
今回のトビウオ・スパイダーの赤み肉は神王の好きなものの一つで、なんとお肉の調達は自分でしてきたくらいだ。
森でモンスター討伐してたら神王と出くわした……とか、ちょっと怖い話だよな〜。
自分に置き換えて妄想し小さく吹き出すと、神王はジッと俺の顔を見る。
本当にすごい見る!
何一つ特徴のある顔には見えないが、神王の何かしらの琴線には触れる様だ。
そのお陰で殺されてないなら、俺はこの顔で生まれてスーパーラッキー!
俺を捨てたクソクソ両親にも、髪の毛一本程度は感謝してやる。
へっ!と鼻で笑っている間に、神王は俺を引っ張り食堂へ向かい、いつもの定位置……になってしまった神王様の膝の上へ。
すると自分が作った料理が運ばれてきたため、それを運んでくれた侍女にお礼を────……。
────ギロっ!!!
……言おうとしても殺気100%の目で睨まれてしまったため、結局言えずにニッコリ笑顔のまま口を閉じた。
人生で初めて向けられた激しい嫉妬の感情。
感想は『何も嬉しい事はない。』だ。
これを『最高ダァァァ!!!』とか言ってたヒュードを思い出し、どこまでも俺たちは平行線だなとつくづく思った。




