47 また……
「あ、あの〜……何かお申し付けでも……。
────あ、腰に巻いている上着も敷きますか?」
全裸になる覚悟までしたというのに、神王は面倒くさそうにため息をついた後、近くにいる執事っぽい人に命じた。
「コイツを綺麗にして朝食の席に着かせろ。……俺は先に行く。」
「────承知いたしました。」
直ぐにタオルを持った執事と侍女さんがやってきて、ポイッと投げ捨てられた俺に駆け寄る。
そしてそのまま俺はそいつらに連れて行かれる事になってしまった。
結局その直後に案内されたのは、やたらでっかいお風呂だ。
多分百人くらい入れそうなくらい広いヤツ。
「す、すご……っ!」
ホカホカと温かい湯気を体中に受けながら、興奮した様に叫ぶ。
基本お風呂は、貴族や王族などの富裕層のモノ。
俺みたいな貧民は川や井戸水を被って洗うのが普通であるため、こんなお風呂を見たのは初めてであった。
そのままポカーン……と立ちつくしていたら、俺の後ろにいた侍女が突然、イヤそうなため息と共に、腰に巻いた上着を脱がせようとしてきたので慌てて押さえる。
「────ちょっ!!?何するんだよ、お嬢ちゃん!!下半身丸見えになっちゃうだろう?!」
「……そういう命令ですので。」
淡々と答える侍女の声は冷たく、目も凍っているくらいヒヤッとしていた。
直ぐに他にいる執事や事情も同じ様に冷ややかな目で俺を見ていて、更にボソボソと小さな声で不満まで漏らし始める。
「なんで神王様はこんなヤツを……。」
「神王様に仕えるためにやっと勝ち取った地位なのに……なんでこんな……。」
ブツブツ、イライラ!
音で聞こえそうなくらいアウェイ状態に、放心状態になった。
で、ですよね〜……。
多分執事も侍女もその優雅で上品な動きから、1000年前でいうお貴族様みたいな地位の人だと思われる。
つまり今で言うと、聖天人様?
そんなお偉いさんがなんでこんな貧民代表みたいなヤツを?……という所だろう。
それを理解した俺は、これ以上怒りを倍増させないよう、身体の力を抜き全てをお任せし、無事に初のお風呂を終えた。
なんだかんだで、仕事は完璧にしてくれるんだ……。
そう関心する程ピカピカに磨いてもらい、更に裕福な層の奴らのスタンダード服、白いチュニックと、上にはカーディガンの様なモノを羽織わされる。
これなら俺もいいトコのおじさん……には、やっぱりなれずに、なんちゃって感が凄い。
思わず、鏡を前に大きなため息をついてしまった。
「汚いのが嫌って事か。
まぁ、そりゃ〜こんなキレイなお城に。ボロボロのやつがいたら嫌なのは当然だよなぁ〜。」
「……分かってらっしゃると思いますが────。」
身支度を終えた俺の後ろに控えている執事の一人が、頭を軽く下げながら続けて言った。
「間違ってもご自身の立場を勘違いした行動はされないように。
神王様は、この世界で唯一の王にして神様でございます。
今回は気まぐれを起こした様ですが、すぐに目を覚ますと思われますのでそんな見え透いた媚を売っても無駄です。
…………汚らしい貧民風情が。」
最後は分かりやすく悪口をボソッと言ったが、誰一人咎める事をしないことから全員が同意見だと思われる。
分かってます、分かってます。
ちゃんと調子に乗らずに、なんとか出ていきますので。
「勿論です。」
そう言ってペコリと頭を下げた。
すると、下出に出た俺を見て、執事や侍女達はあからさまな失笑を漏らし、更に『中年男』だの『貧相な顔』だのと……出るわ出るわ悪口の数々が!
こ、このヤロォォ〜!
笑顔のまま心の中でバーカバーカ!と悪口を返しながら、その後は神王が待つであろう食堂へと向かった。
道中、チクチクと悪口を言い続ける執事や侍女だったが、流石に神王がいる食堂の扉の前に立つと、ピタリと悪口を止める。
そして素知らぬ顔でドアをノックし、俺を中へ入れた。
中には昨日と同じく信じられない程長いテーブルがあって、それを目で追っていくと端にある昨日と同じ席に神王が座っている姿を発見する。
何だか昨日の横暴さはやや鳴りを潜めている様で、今はボンヤリと俺の姿を見ている様だ。
同じミスを犯すものかと、俺は昨日と同じ神王の斜め前の席へと案内されたが……直ぐにサッ!と床の上に正座をした。
「偉大なる神王様と同じテーブルにつくなど、昨日は大変失礼いたしました。
俺の場所はこの床です。
この様な豪華な椅子は俺には似合いませんので、このまま待機します。
なので、どうぞお気になさらず楽しいお食事をなさって下さいませ!」
神王はヒュードみたいな単純な思考回路はしてないためか、感情が非常に読みにくく昨日も何が勘に触ったのか分からない。
しかし、ハッ!と思い出したのは1000年前の貴族に対してのルールだ。
その1!『貴族は平民と同じを嫌う。』
つまり持ち物や対応は勿論、食事だって一緒にする事を好まない。
だから食事の時は席にはつかず、こうして一段下に座るのが媚び売りの鉄則だ。
ここが1000年後だとして、恐らくこのルールは大前提になっているのでは?と思ったのだ。
ヒュードも貴族ではないものの、俺とサンが一緒に食事など絶対許してくれず、よく床に食べ物をわざと落としては俺達に食わせていたもんだ。
さぁ、床に食べ物を落とすがいい。
完璧に拾って食べるから!
そうして準備満タンで、キラッ!と目を輝かせて神王を見上げたのだが……神王は突然軽く口角を上げた。
笑った……???
本当に微細な変化だったため自信はないが、そう見えて『これはいい傾向だ』とほくそ笑む。
やはり自分の予想が当たったか!と喜んでいたのだが……その次の神王の行動があまりにも予想外であったため身体は固まった。
「椅子が嫌なら仕方ないね。……じゃあここで食べれば?
それならいいだろう?」
「は……はいぃぃ???」
神王は床に正座していた俺の脇に手を入れ、その身体を軽々と持ち上げると、そのまま自身の膝の上へ落とす。
つまり…………俺は後ろから抱きかかえるスタイルで、抱っこというモノをされてしまったのだ。
そしてそのまま手を前に回されホールドされ、ドキドキと胸が激しく鼓動を始めた。
再び訪れた死の恐怖で……!




