45 何者?
(神王)
「グラン……。」
自室の前に到着すると、扉の前でグランの名前をボソリ……と呟く。
唯一の人を失った俺の人生は、ずっと地獄。
『幸せ』は、あの遠い過去の場所にしかなかった。
扉を開けて自室へと入ると、そこに広がっているのは、グランと過ごしたあの狭い物置部屋だ。
空間ごと切り取って劣化しない様、現実世界と切り離して存在させているこの部屋は、唯一俺がグランを感じられる場所だった。
「グラン……グラン……。」
名前を呼び続けながら、薄くてボロボロのせんべいタオルが敷かれている所へ行き横たわると、身体を小さく丸める。
前は隣にグランがいて、こうすれば直ぐに脇を広げて横に入れてくれた。
暖かくていい匂いがして、世界で一番幸せにしてくれる場所だったのに……。
「グラン……寒いよ……。ねぇ、グラン……グラン……。」
ボソボソと話し続けても、答えてくれる人はいない。
グランはもう、この世のどこにもいないから。
この孤独は、腐色病に掛かって捨てられた時よりもっともっと大きいモノで、そんな苦しみしかない『生』を、俺は1000年も続けている。
もはや復讐だけが、俺を生かす理由となっていて、とっくに自分が壊れているという自覚はあった。
「……全部、全部消してやる。グランを奪ったモノは全部……。
人も国も世界も空も大地も……そして違う次元に存在している全てのモノも。苦しめて苦しめて────……。
────でも……最後は……どうすればいいんだろう?」
ボンヤリと自分の手を見てみると、その手は真っ赤に染まっていて、もうコレは壊すことしかできないのだと改めて理解する。
こんな俺を見てグランはどう思うのかな?
目を閉じて記憶の中に生きるグランを思い浮かべると、俺の心配など全く気にせず俺の手を握ってくれた。
それが嬉しくて嬉しくて抱きしめようとすると────……突然グランは恐怖に顔を歪めて言った。
『あんたが何を言ってるのかわからない。』
『でも俺は、自分の中身に触れられるのは嫌だ。だったら殴られて殺された方がいい。』
震えながらそう言うグランに胸が痛くなって、目を開けた。
すると、突然目の前に現れたグランそっくりな男の声が、グランの姿に混ざり合い感情が酷く乱れてしまう。
「本当になんなんだ……あの男は。
俺から逃れるために、送ってきたモノじゃないのか?
細かな感情と人格を作り出す事はできないはずなのに……。」
グランそっくりな外見と中身を持つ……確か名前はクーラとか言ったか?
最初アイツの姿を見て心臓が止まるかと思った。
あの日最後に見たグランそのものだったから。
一瞬あの日に戻ったのかと思ったほどだ。
「……しかも、あの男、何故か『心の声』が聞こえない。
こんな事、今までなかった。人形じゃないなら、一体……?」
未知の存在に対する不安に、久しぶりに動揺しながら……俺はゆっくり目を閉じた。




