44 綺麗なモノ
(神王)
グランは俺のために、毎日稼いだお金でクスリを買ってくれる。
そして毎晩そのクスリを塗ってくれる。
俺を見て、俺に触れて、俺に……俺に……。
この頃には、俺は自分がどんな欲を持ってグランを見ているか分かってしまった。
俺は毎晩自分を擦ってくれる手にうっとりしながら、グランが眠るのを待つ。
そして寝てしまった後は、匂いを嗅いだり触ったり……自分の持て余した気持ちを外に吐き出した。
グラン。
グラン。
貴方が好きで好きでたまらない。
俺は生きたい。
貴方と……。
『最後まで……一緒にいてくれるの……?』
そう質問した俺に、グランはYESと返してくれた。
それが死ぬほど嬉しくて嬉しくて、俺はもう一人じゃないんだと、救われた気持ちになったが…………もうその願いは形を変えて、俺はこの人と共に生きたいと思っている。
俺は強欲だ。
いっそグランを連れてどこか遠くへ逃げようか……。
そう思ったが……俺は自分の腐り掛けている手を見つめ、目を閉じた。
『力』がないと何処にも行けないのか……。
《────今のままでは。》
小さな小さな囁き声が頭の中に聞こえた様な気がしたが、グランの事を考えていた俺は聞き逃してしまった。
その後も、グランと一緒の夢のような生活は続いていく。
グランの側はとても居心地が良くて、暖かくて……今まで感じた事がないくらい、毎日が幸せな日々だった。
こんな日々がずっと続きます様に……。
そう願う中、俺は突然夜に変な夢を見るようになる。
ソレは最初は朧気だったというのに、徐々に濃く鮮明になっていって……魘されているらしい俺は、何度かグランに起こされる程だった。
夢の内容は至ってシンプルで、真っ暗な闇の中で沢山の『人』の声が聞こえるモノで……。
『……神……席……空っぽに……。』
『このままでは……増え……消え……。』
ボソボソと小さく呟く声はよく聞こえなくて、言っている内容は分からない。
でも、その言葉を繋ぎ合わせていくと、ある程度の言っている事は理解できた。
『何かの神?の席が空っぽだから、何かが増える?事。』
『そして何かが消えてしまう事。』
よくわからないが、それがとても怖い事だという事だけは何故か理解できて、ただただ恐ろしいと思った。
だから一度あまりに鮮明にその夢を見た時は、近くにいたグランに飛びついてしまったのだ。
『神様が……だから……?
……俺……怖いよ……。グラン様……助けて。』
すると……グランは抱きしめてくれて、それから悪夢は徐々に薄れていった。
『何が消えたって構わないじゃないか。ここにグランさえいれば……。』
そう思う様になると、怖いモノはなくなっていった。
もう他には何もいらない。
これが俺の幸せだ。
どんどんと近くなっていく距離感に俺は生まれて初めて夢中になっていき、沢山の事をグランに聞いては、グランという人間を知っていく。
そして知れば知るほど、俺は幸せで幸せで……だから、グランが話してくれた願いというものは絶対に叶えたくないなと思った。
「グラン様は……もし、何でも願いが叶うとしたら……何を望みますか?」
グランは何を望むのか。
それを知りたくて尋ねると、グランはキラキラした目で夢を語る。
「そうだなぁ〜。とりあえずこの空がどこまで続くのか自由に見に行きたいかも。
きっとどこまでもどこまでも続いていて、一生かけても終わりにたどり着けないんじゃないかって思うんだよ。」
「空を…………?グラン様は、空の果てを見たいって事ですか?」
思わず空を見上げた俺に、グランは手を振ってそれを否定した。
「終わりになんて興味ねぇよ。どっちかっていうと、俺は自由に色々な世界を見て回ってみたいなって思ってるんだ。
でもなぁ〜……弱いヤツは、結局どんなに望んだってどこにもいけねぇんだよなぁ……。」
「…………そうですね。」
良かった。
────グラン様が弱くて。
薄暗い心が声を立てて笑う。
しかし僅かに残っていたきれいな心がそれに罪悪感を感じて、視線を下へ下げた。
俺は今が一番幸せだから……だからグランの夢が叶わないで欲しいと願い、こんな内面まで化け物な俺を側に置いているグランの不運を嘆いた。
グランは、本当は幸せになるべき人間なのだと思う。
『貧しさ』にも『無才』にも負けずに、グランは必死に生き、決して人の道から外れようとしなかった。
きっと『普通』は、自分が生まれ落ちた環境や周りの人間、そして自分をこんな辛い目に合わせる全てのモノへ怒りが湧くはずだ。
だからそんな優しくないこの世や人へ復讐する様に、大抵は他の人を傷つける事を選ぶというのに……。
それを選ばず、ペコペコと媚びて生きようとするグランの姿は、とても綺麗だと思った。
「グラン様は……辛くないですか?」
グランの所属しているメンバー達から投げつけられた防具を、ヘラヘラしながら磨いている姿を見て、尋ねてみたことがある。
すると、その時のグランは、へっ!と心底馬鹿にした様に鼻で笑った。
「ば〜か!ちょっと頭を下げるだけで飯が食えるなら、何度だって下げてやればいい。
それで何か得をすれば俺の勝ち!だから内面ではめちゃくちゃ馬鹿にしてやんだよ。
そんな嫌なヤツは、俺の『中』には入れねぇ。外で勝手に騒がしとけばいいんだよ。」
グランはどんなに辛くても、そうやって自分の心を守り続ける。
それもとっても気高くて美しいモノだと、俺は思った。
このクソみたいな世界の中で、貴方だけが綺麗なモノ。




