43 出会いと幸せ
(神王)
死にたい。
消えたい。
誰か俺を解放して。
願いは誰にも届かず、死ねないのに喉はカラカラで……身体は生きることを望む。
それが苦しい。
脱水を起こしている体は更なる苦痛を体に与え、まだ少しだけ残っている理性を殺していったが、突然そんな俺の耳に心の声が聞こえてきた。
『運が悪かったな。』
『仕方がない。』
『悔しい、辛い、悲しい。』
『死が救いになったなら良かった。』
『 ────次こそ幸せになれます様に……。』
その声の中に俺を気持ち悪がったり、面白がったり、恐怖する感情は見られなかった。
「…………?」
それが不思議で、力を振り絞り目を開けると────視界一杯に映ったのが、グランだ。
その男はどこにでもいそうなおじさんの外見をしていて、力も魔力も凄く低い男だった。
これでは今までの人生は大変なモノだっただろう。
この国で、身分を抜けば力があるかないかは非常に重要なステータスだから。
だから貧民と呼ばれる中には、生まれてすぐに能力が低いと役に立たないからと捨てる事だって多々ある。
特殊なパターンだが、これは俺も一緒。
役に立たないから捨てられたんだ。
ゴミみたいに。
その男の後ろの方で怒鳴る声を聞けば、俺の予想通りの人生を歩んできた様で、痛々しいくらいヘコヘコビクビクと周りを意識している。
そんな人生もう終わらせたくない?
こんな辛いだけの人生に価値なんてないじゃん。
誰にも望まれない人生なんて……。
そう思った瞬間、フッと浮かんだのは……病気にかかる前、俺を愛してると言って抱きしめてくれた両親と、褒め称えてくる周りの奴らのことだった。
……あぁ、望まれても幸せではなかったか。
絶望しかないこの世を正しく理解し、そのままもう一度目を閉じようとしたのだが……突然ギュッとグランに手を握られて、心臓が飛び出るかと思うくらい驚く。
この病気になって初めて触って貰ってもらえた……。
それがどれほど凄い事なのかは、病に掛かってからの周りの反応を見れば嫌でも分かる。
腐りかけているその身体に触れようとする者などいなかったのに……。
ジン……と込み上げてくる歓喜の気持ちに、涙が出そうになった。
まるで絶望へと向かおうとする俺に、行くなって言ってくれてくれてるみたいだ。
「名前はそうだな……うん、『サン』にしようか。」
『いつかきっと空に輝く太陽に手が届く。』
悪意のかけらもない、優しい名前にまた涙がこみ上げる。
この時から、俺の名前は『サン』になった。
キラキラ光り輝く名前を貰って嬉しくて、何を言えばいいのか分からない。
名前をつけてくれたグランを見上げようとしたが、眩しくて眩しくて、とりあえず熱くなっている手の甲を見つめると、そこにはグランの奴隷になったという証が刻まれていた。
「……あ……お、俺……。」
ブルブルと震えながら、その人に話しかけようとしたが、喉がカラカラでまともに声が出ない。
どうしよう……どうしよう……。
役に立たないと、また俺は捨てられる?
焦りばかりが先に立つ俺を見て、グランは俺を指差しニヤリと笑った。
「いいか〜?お前はたった今、この俺、グラン様の奴隷の<サン>になった。
奴隷は主人に絶対服従!!
どんなに理不尽な事でも言う事をちゃんと聞くんだぞ!!分かったか!!」
『サンは俺の奴隷!俺のモノ!』
『これから沢山意地悪してやる!』
『それで世の中の理不尽な事に復讐してやるんだ!』
ありきたりな人間の心を心の中で叫ぶグランだったが、なんだか随分と純粋な想いを感じ嫌な感じはなかった。
なんだか気が抜ける不思議な人だな……。
そんな事をボンヤリ考えていると、喉が乾きを思い出しゲホゲホと咳き込む。
すると……なんとグランは俺に水袋を渡してきて、また驚かされる。
だってそれ、あんたのでしょ?
俺に飲ませていいの?
手に触れられただけでも驚いたのに、どうして復讐するための道具である俺に……こんな腐りかけの気持ち悪い化け物に私物を触らせるの??
不思議でならなかったが、グランは俺の口にそれを突っ込んで早く飲めと言う。
どうしようかと思ったが、喉の乾きを満たしたい欲求が勝って、気がつけば夢中で飲んでいた。
美味しい……美味しい……。
喉の乾きが癒されると、どんどんと思考は冷静になっていく。
そして俺の主人になったらしいグランに目を向ければ、何だかキラキラと輝いて見えた。
神様……?
人が輝いて見えるなんて不思議な現象に首を傾げたが、次に瞬間俺の手から水袋が取られ ────なんとグランが何の戸惑いもなくそれを飲み始めたのだ。
腐っている俺を飲んだ後に……?
グワッと嬉しさと恥ずかしさが襲ってきて、俺の胸はドキドキと鼓動が強くなった。
この人……変。
心の中の声も、何だか変だし……。
近くにいると居心地がよくて、近くにいたいと思うのは────俺がこの人の奴隷になったからだろうか……?
そう思う事にしたが……後から知った事だが隷属魔法にそんな効果は一切なく、これは俺が俺の心に従って感じた感覚だったらしい。
それからグランと俺、一緒の生活が始まった。
グランの言う事や行動の数々は、その一つ一つが初めてな事ばかりで、その全てが俺の心を癒してくれる。
今までの辛い日々はこうしてグランに会うためだったと、そう思える程俺は幸せだった。
それに不思議な事に、あれだけ俺を蝕んでいた体中の痛みは徐々になくなり、すっかり消えてなくなってしまったのだ。
あり得ない話に首を傾げたが、もしかしてグランが買ってくるクスリのせいかもしれない。
随分と高いクスリをグランはコソコソ買っては、俺に毎日塗ってくれて、ひょっとしたらそれが効いたのかと思った。
しかし……グランに連れて行かれた図書資料室で読んだ本には、『腐色病の患者には、ありとあらゆるクスリは効かなかった。』と書かれていたので、やはりこのクスリが原因ではないと思われる。
じゃあ……原因は……???
考えても分からず、『なら高いクスリを中止してって言おうか。』かと思ったのだが────俺のために一生懸命なグランを見て、嬉しくて嬉しくて、つい口を閉じてしまった。




