42 神王の人生
(神王)
……なんなんだ?アイツは。
久しく感じていなかった『戸惑い』の感情に支配されながら、俺は自室へと向かう。
そして先ほどまで一緒にいた奇妙な男が頭に現れては、波の一つも立たない筈の感情は更に乱れていった。
今月もいつもの様に管理している『人』共から、決められた命の代価を払ってもらう日がやってきた。
本当は全部消してやろうと思っていたのだ。
憎しみしか湧かない『人』と、それが住む世界全てを。
長く長く苦しめて苦しめて……。
それでも憎い気持ちは無くならない。
そしてあと一握りの人と土地を残し、全滅まで秒読みだった頃────残った人族は、全員が裸になり、地に頭をつけた。
『どうかお許しください、神様。我々は貴方様の罪深き所有物になります。ですので、どうかご慈悲を!』
どんなに強い兵器でも魔法でも、俺には何一つ効きはしない。
俺は神様と呼ばれる力を持つ『モノ』だったから。
フッ……と足を止めて当時のことを思い出すと、込み上げる笑いが抑えきれずに、そのまま大笑いをしてしまう。
最初は随分と余裕そうだった各国の王だったが……最後は全員が泣き叫びながら消えていった。
更に街を一つずつ一つずつ消していってやれば────誰もが恐怖で顔を歪めて、まだ残っている土地へと逃げていく。
どこに逃げると言うのだろう?
一瞬で消せるのに消さない意味……分からない?
脳みそ足らずのゴミ共は、やがて醜いいがみ合いの果てに勝手に減っていった。
それを見ていると、多少は気が晴れたかな。
どうせ無駄なのに、馬鹿みたいにもがく姿は傑作だったから。
そのまま恐怖でとうとうおかしくなってしまった人々の姿を見て、好きなだけ笑ってやった後、恐怖の原因である俺に祈り続ける『人』共を消して終わりにしよう。
そう考えたが────フッと思ったのだ。
憎しみはまだ全く消えていない。
コイツらを消せば……この憎しみは消えるの?って。
メラメラとまだまだ燃え続ける怒り、憎しみ、悲しみは────それで消えるとは思えなかった。
だから俺は残った『人』を消す事をやめることにして、上げかけた手を下ろす。
そして震えながら頭を下げる『人』共に言った。
『では、その命を永遠に俺のためだけに使え。
毎月決められた献上品を差し出せば、一ヶ月分の命の猶予をやろう。
お前達は穢れた存在で、本来は消えるべきモノ。
それを生かして貰う事を忘れるな。』
すると人々は泣きながら感謝し、また『人』は、少しづつ繁栄していった。
慈愛の心で人を助けた?────そんなわけない!
復讐を続けるためだった。
唯一の幸せをくれた大事な大事な人……グランを奪った人共へ。
◇◇◇
小さな町で生まれた俺は、最初はアレンという『光』を意味する名前を与えられた。
『どうか光り輝く様な子供になって欲しい。』
そんな意味を込めて名付けたと言っていたが……俺には生まれてすぐからしっかりとした『自我』が存在していて、両親の心の声も聞こえていた。
『光り輝くような子供になって、自分たちをこの場所から連れてって。』
要は優秀な子供の力で、自分たちの生活を夢の様なモノにして欲しいという欲望を、俺の名前に込めたと言う事。
そしてそれは、俺が大きくなるにつれて大きく膨れていった。
一度見ればなんでも覚え、大人でもできない事でもアッサリできてしまう俺は、明らかに周りとは違う子供だったからだ。
それを自慢して回る両親と、あわよくばおこぼれを頂戴したいとあからさまな態度で媚を売ってくる周りの人々……。
その行動と、心の声にうんざりしていたが……これが普通なのだと思っていた。
決して裕福とは言えない状況下で、他人に優しくなんてできるわけがない。
自分に余裕がない時、他人は自分を助けるために使う『道具』になる。
それは……誰でもそうなんだ。
だから、うまく折り合いをつけて生きていくしかないと、そう思っていた────が……ある日突然、俺の身にある病が襲った。
【腐色病】
《神罰の証明痕》とも言われているその奇病は、体の一部から腐っていき、長い苦痛の果てに死に絶える不治の病だ。
それを見た両親は顔を大きく歪め、俺の病を必死に隠そうとしたが……狭い街で噂はすぐに立つ。
結局バレた後は、今までチヤホヤと褒め称えていた周りの奴らは俺を笑いものにし、罵っては笑い合って楽しそうにしていた。
人の不幸は最高の暇つぶし。
心の声など聞かずとも、全員の顔にその言葉が大きく書かれているように見えた。
俺と同じく笑いものになった両親は、そんな日々に耐えきれなくなったのか、ある日俺を森へ連れていき……。
────ドンっ!!
崖から落として捨てた。
将来役に立たない。
更に迷惑までかけられる。
なら……いらない。
それも当たり前の事。
それから彷徨って彷徨って────。
夜は自分の腐っていく体に恐怖して悲鳴をあげて、それでも状況は何も変わらない。
孤独と死の恐怖、それに耐え難い痛みに毎日体を蝕まれ……もういっそひと思いに……!と自死を決意しても死ぬ事はできなかった。
激流に飛び込んでも、高い崖から落ちても、ただ痛いだけで死ぬことはできなかったのだ。
きっと俺は神様を怒らせる様な大罪を犯したんだ。
そう悟った頃には、全てを諦め、身体が腐っていく痛みに耐える日々を送り続けた。
だから商人に買われ、道中ゴブリンに襲われた時も何も思う事はなくて、もしかしたら死ねるだろうか?と期待したくらいだ。
「……やっと……やっと『終わり』が……。」
目の前で絶望の目をしたまま喰われていく他の奴隷達を尻目に、期待に胸を震わせたが……やはり俺は死ねなかった。
最終的に、殺そうとしても殺せない俺に見切りをつけたのか、ゴブリン達は俺を袋に詰めて持ち帰ることにしたらしい。
それからどこかに放置されたのだが────外が騒がしくなって意識が徐々に覚醒し、そして自分の体が浮かんだのを感じた後、突然閉じ込められていた袋から出される。
最初に目に映ったのは、まるで化け物を見るかの様な目と、嫌悪の目。
いつも通りの目に囲まれ、また日常が始まったと思った。




