38 何事?
「し、神王様……その者が何か致しましたか?そうでしたら我々聖華騎士団が対処いたしますが……。」
戸惑いながらも、俺を強い殺気混じりに睨む騎士の男に冷や汗が出たが、神王は突然クックックっと笑い出した。
「今日は気分がいい。このまま帰る。」
「えっ……な、ななな──??」
突然パッ!と手を離されたと思ったら、一瞬で肩に担がれてしまい変な叫び声が口から飛び出る。
え、何?何??
神王は驚く俺を気にも止めず、ポカンとしているその場の全員を置いて、また割れた空間の中へと帰って行った。
呆然と担がれている俺を連れて。
◇◇◇◇
右へ左へ……。
グラグラと体を揺らされる感覚に襲われ、気分が悪くなってしまって目を閉じた。
そしてその感覚が消えると瞼越しに光が見えて、ゆっくりと目を開ける。
「…………えっ?」
パッと目に入るのは、手が届きそうな距離にある空と浮かんでいる雲。
ここは、まさか……。
「て、『天庭』……?」
「────へぇ?よく知っているね。王都に暮らしていたことでもあるのか?」
俺を担いでいる神王が不思議そうに聞いてきたので、俺は慌ててそれを誤魔化す。
「と、とんでもない〜私ごときが王都に住むなんてとてもとても〜!
王都からやってきた流れ者に聞きましてー!
何でも王都は広くて素晴らしく発展した街なのだそうですね!
いや〜羨ましい限りです〜。しかもその上空に住むなど、神王様が一番すごい!」
ペラペラと口から発射するごますりは、ほとんど条件反射のレベル。
一瞬で人を溶かしたり、虫に食わせたりできる奴だ。
とにかくいつも通り、ごまを擦りまくって擦りまくって、なんとか命を助けて貰うしかない!
俺はニヤニヤと媚びる笑みを貼り付け、両手を揉み込む。
ほらほら、俺はただの弱い毛虫野郎ですよー?
貴方程の方を地獄に落としたヤバい男じゃありませんので!
ブルブル震えながらの必死なアピールが効いたのか?
神王は俺をゆっくりと下へ下ろしてくれた。
そのため、直ぐに地面に這いつくばって土下座しようとしたのだが、今度は両手で肩を掴まれ、引っ張られる。
「……っひ、ひぃ!!」
目の前に神王の顔が迫り、情けなく悲鳴をあげたが、神王はただ静かに俺を見下ろすばかり。
俺にそっくりらしい誰かさん。
そいつのせいで、俺はまた殺される!
理不尽な事への怒り、悲しみ……。
その全てが合わさってギリギリと唇を噛んでいると、突然神王が視線を逸らしてきた。
「????」
随分不自然な逸らし方だったので不思議に思ったが……腰を掴まれクルリと体を回されると、目の前に巨大な城がそびえ建っているのが見えて、そんな些細な疑問など吹き飛んだ。
まさに、富!権力!地位!を象徴する様な、白を基調とした大きなお城。
その前に建つ巨大な正門は、黄金を使った金細工が施され、花を型どった白い石像が付いている。
そんなそれだけで作品のような正門の前には、ズラリと騎士たちが並んでいて、まさに圧巻の光景であった。
「…………す、すごっ。」
レベルが違う……。
冒険者の端くれとして、裕福な依頼主のお家を見る機会が多々あったが、これはそんなレベルじゃない。
一体どんな暮らししてんだろ?
そんな純粋な疑問を持った直後、神王は歩き出し腰を押さえられている俺もそれに引きずられる様に歩かされた。
すると門の前に並ぶ騎士達の目を見開く顔がよく見える様になってきて、とうとう門の前までたどり着く。
「お、お帰りなさいませ!神王さま!!」
「「「 お帰りなさいませ──! 」」」
一斉に跪く騎士達は、一体こいつは何者か?と言いたげな視線を俺によこしたが……神王はその全てを無視して開かれた正門を潜った。
「あ、あの……し、神王様〜……。」
おずおずと話しかけても、返事はなし。
ブツブツと何かを呟いていて、多分こちらの話は聞こえてない様だ。
仕方なく城がある前方へ目を向けると、そこには大きな庭園があって、目の前には女神の様な美しい女性の石像が建つ噴水に、その周りには見た事ないくらいの種類の花が咲き乱れている。
あっと驚く光景の連続に、目を白黒させながら、とりあえず神王に引きずられるままに歩いて行った。
一体どういうつもりで俺をココに?
まさか拷問でもするつもりか……?
最悪な可能性が頭を過ぎり、どうにか逃げなければと考えたが、どうやって?と途方に暮れる。
一か八か、離して貰ったら透明になるスキルを使ってみるとか?
そしたら広い城を歩き回って地上に帰る方法を探そう。
ぐるぐるぐるぐる……。
必死に考えている内に、とうとう城の中へと連れ込まれた俺は、そのまま沢山のポカンとした顔をしている執事や侍女たちの前を通り過ぎて、巨大な扉の前へ。
その扉にはキンキラキンの見たことのない宝石が沢山付いていた。
な、何の部屋だろう??
予想もつかないまま黙っていると、扉の両脇に立っている騎士っぽい格好をしている人たちが、俺の存在に戸惑いながらも扉を開けてくれる。
すると中はどうやら食事をとる場所の様で、大きくて長いテーブルと、沢山の椅子が置かれていた。
その広さと長すぎるテーブルに、百人くらいは余裕で席に着けそうだと、驚きに目を見開く。




