36 変わらない風景
おいおい、ふざけんなよ、クソ野郎共!!
こいつら周りの奴らを煽って、利用するつもりだったのか!
周囲へ、怒り、憎しみの念がものすごい速さで伝染していく事に、焦りと怒りが湧く。
これは悪人がよく使う手。
善人の弱っている心の隙をつき、こうして自分のために使える駒に作り変える。
煽るだけ煽って自分達は高みの見物をし、美味しいところは全部頂くってわけだ。
「皆が特攻するのを後ろの安全な所で見守るつもりだな……。
くそっ!どうすれば……!!」
クズな冒険者二人組は、熱くなっていく周囲を見回し満足そうな顔を見せている。
周りの人たちの顔が歪んでいくのを焦りながら、見回したその時……。
「────あ、あれ???」
冒険者の一人が素っ頓狂な声を上げた。
「────??何だ??」
突然の間が抜けたような声に違和感を感じ、その冒険者の男たちの方へ視線を戻すと────思わず息が止まった。
冒険者の男はキョトンとした顔をして、自分のドロドロと溶けている手を見つめているからだ。
「…………はっ?」
俺も負けず劣らず、素っ頓狂な声を上げたが、次に男の口から上がったのは、痛みを訴える大絶叫だった。
「い……いぎゃぁぁぁぁぁぁぁ────────っ!!!!い、いてぇっ!!いてぇよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
何でっ?!!何で俺の手がぁぁぁぁぁっ!!!!」
ドロドロと溶けている手からは、スライムみたいな赤い液体が流れており、やがて地面に落ちてしまったその手は、原型を失い地面に溶け込んでいく。
────ゾッ!
恐ろしくて震える俺や他の街の人たちの前で、やがて残りの手も足も、グズグズに熟れたトマトの様にドロドロと溶けては地面に消えていった。
そして立っている事もできなくなった男は、そのまま地面に崩れ落ちると……悲鳴を上げながらボロボロと涙を流す。
「俺が……俺が消えて……いく……。こ……こわい………。
────?……俺の存在が…………消え………。
……えっ…………?」
……………ジワッ……。
それだけ言い残して、男は跡形もなく消えてしまった。
まるで最初から誰もそこにいなかったかの様に……。
「ぎ……ぎゃあああああああああああっ!!!!!」
隣でその壮絶な『死』を目にしてしまった、もう一人の男は、悲鳴を上げて尻もちをつく。
そのままガタガタと震えながら、無表情で自分を見下ろす神王に向かって土下座をした。
「もっ、申し訳ありませんでしたっ!!!!どうか……どうかお許しをぉぉぉぉぉぉぉ!!!
ま、まさかっ……神王様のお力が本物だとは……!!どうか、どうか……命だけは……命だけは……っ!!」
ヒィヒィと泣きながら命乞いをする男を見ても……神王の表情は全く変わらない。
何を考えているのか分からないが動きがないため、もしかして許すのか?と思ったが……すぐに土下座をしている男の様子がどうもおかしい事に気付いた。
「……あ、……うぅぅ……??き、キモチワル……?? 」
土下座をしていた男が、突然腹を押さえて苦しみだす。
それにザワザワと周りは控えめに騒ぎ出したが、突然その男の口から大量のバッタが飛び出してきた時には、大きな悲鳴に変わった。
「バッ、バッタ??!!えっ!!何でそんなモノがっ???」
その数がまた尋常ではなく、まるで黒い竜巻くらいの量のバッタが男の口から出てくると、そのままそいつの身体に纏わりつき姿を隠してしまう。
まるで真っ黒な影の様になってしまった男は悲鳴を上げながら暴れていたが、次第に動きは弱まりとうとう倒れ込むと、そのままみるみる小さくなっていった。
「ま、まさか、体を食われているのか……?」
思わず吐き気を催し口元を慌てて押さえる。
街の人たちも俺と同様に口元を手で覆ったり、泣き叫んだり尻餅をついたりとパニックを起こす人たちで溢れたが────とうとう黒い塊は消えてしまい、バッタ達はあっという間に街の外へと飛び去ってしまった。
「……え……あ……。」
いっ……一瞬で二人の人間が死…………?
衝撃的な出来事に、悲鳴も上げられず恐怖で立ち尽くしていると────突然ステージの上にいる騎士たちからは歓声が上がり、最前線に並んでいた聖天人達と神官達からの惜しみない拍手が起きる。
パチパチ……。
パチパチパチパチパチ────!!!!
その場に鳴り響く拍手と神王を称える言葉達を聞きながら、俺は先ほどとは違う恐怖を抱いた。
なんなんだ……?この世界は……。
人が……二人も死んだんだぞ?
思わず一歩後ろに足を引いたが、それとは逆に俺と同じく動揺していたはずの周りの人たちの足は前へと出される。
『仕方ない。』
『これは神様が決めた事……。だから正しいんだ。』
全員の目には諦めが色濃く写っていて、これが彼らの日常なのかと理解すると────俺も後ろに引いた足をもう一度前に出した。
結局一緒か……1000年前と。
何事もなかったかの様に並び始めた人々を見て、大きく深呼吸をして感情にしっかり蓋をする。
力があるヤツが絶対的に正しくて、それがない奴らはそれに従うしかないクソみたいな世界。
文明だけじゃなくて、それも変わってないんだ……1000年経っても。
全てを悟った俺も落ち着きを取り戻し、皆と同様に前に進み出て大人しく順番を待った。
聖天人達の献上が終わると、次に続いたのは富裕層の平民達で、その次が平均的な平民達、そして最後は俺の様に日雇いの……いわゆる平均以下の平民たちの番。
一人一人、神王様に直に献上金を渡すのは富裕層の平民達までで、その次の平均的な平民達からはズラリと20人くらいが一纏めにステージ上に上がり、献上金を差し出す。
それを見下した様な目をした騎士たちが、端から回収していく形式になっている様だ。
まぁ、そりゃ〜これだけの人数から一人一人受け取るとなると、一日じゃ終わらないもんな〜。
だいぶ前の方には来たが、まだまだ続く列を見てゲンナリしてしまった。
しかし、流石に20人程が一斉に前に進めばかなり早く列が進んでいき、更に平均以下の平民達の列まで進むと、数は20から30人まで増えたためもっと早くなる。
終わった後はステージを降りて元の場所へと戻っていくのだが、これで一ヶ月は安泰であるからか皆の足取りは軽い。




