34 ヤバいヤツ来た
「こんな状況なのに、なんで生きようとするんだろうな、俺は。
でも……やっぱり俺は自分が生きてきた思い出が消えてほしくないって思っちゃったんだよな〜。」
新しい幸せを見つける事を考えてみたけど、俺は多分それができない。
環境とか性格とか色々な理由があるけど……どん底にいる時に出会って側にいてくれた事が、俺は嬉しかったのだ。
なんの才能も金も地位もない、ゴミみたいな俺の側にいてくれたサン。
キラキラした目で俺を見てくれて、どうでもいいと馬鹿にされる話だって嬉しそうに聞いてくれた。
それは自由にどこへでもいける様になった今の俺には、二度と手に入れる事のない幸せだ。
「……ありがとう。サン。」
何となくその言葉を口に出すと、その言葉はあっという間に空気の中に溶けて消えてしまった。
俺はこの幸せの思い出を失くしたくない。
だから『死』は選びたくないと思った。
「……なんてな!」
シン……とした部屋の中で、しんみりしてしまった気持ちを切り替えるため、大きく伸びをする。
そして俺は、教会へ向かう準備を整えるためベッドの上から降りた。
神王様とやらを待つ教会にある広場は、それ専用に作ったためかめちゃくちゃデカいらしい。
何てったって街の人全員が集まるのだから仕方ないが、これでは一番後ろの方では神王様はごま粒程度しか見えないだろうと思われる。
そしてそんな予想は大正解で、教会前の広場に着いてその広さに驚いた。
「あの教会前のデカいステージに神王様が来る感じか?ひ、ひろ〜……。」
教会をバックに巨大なステージが建っていて、ステージの前には黄金色のご立派な祭壇?の様なモノが立っている。
その上には次々と金貨が積まれていく事から、どうやらあれが一旦集めた献上金の様だ。
見たこともないくらいの大金に目が釘付けになりそうになったが、慌てて首を振って観察を続ける。
その祭壇の直ぐ後ろ、ステージからかなり近い位置にズラリと並んでいるのが、多分お金をいっぱい納めているっていう【聖天人】。
明らかに他の人たちとは違い、派手な格好をしているから間違いない。
そしてそれよりかなりの間隔を開けて、平民達が順々に並んでいるのだが、コレも納めたお金順なのか、平民にしてはかなり良い身なりをしている。
ちなみに俺は最後尾。
かろうじてステージが見えるよ!という位置だ。
その場でキョロキョロ辺りを見回すと、【聖天人】や他の女性達が精一杯のオシャレをしている姿が見えた。
それを見て、そういえば……と再び前へと視線を向ける。
「はは〜ん?最前列に並んでいる綺麗な女性陣は、もしかして神王様狙いって事か。」
最前列にズラリと並ぶのは、豪勢なドレスを身につけた、若くて美しい女性達。
【王族】や【聖天人】の女性達を一番神王様の近くに置き、あわゆくば見初めてもらおうという魂胆らしい。
俺は揶揄う様な笑みを浮かべ、それを隠すため口元を押さえた。
確かに、この世界を支配しているといっても過言ではない絶対王者に見そめられれば、想像できないくらいの『幸せ』を手にする事ができる。
最高の人生逆転のチャンス!
「贅沢な生活……ん〜三食昼寝付き……とか?まぁ、そりゃ最高か。」
モワモワ〜とその幸せな情景を妄想したが、今はそこまで魅力的なモノに思えず苦笑いをしてしまった、その時────……。
リンゴ〜ン!
ゴロンゴロ〜ン!
朝の6時の鐘が鳴り、全員が一斉に祈り始めたため、俺も慌てて真似をして両手を組んで祈る。
頼むから一時間くらいで来てくれぇ〜。
12時間は嫌だ〜。
神王様という一応この世界の神様らしい存在に向かって『どうか神王様が早くきますように〜!』 と願った。
するとその願いが届いたのか?なんとそれから30分程した所で、突然ステージの上の空間が、まるで飴が溶ける様に歪み始めたのだ!
「な、な、なんだ……?アレ……。」
動揺する俺とは対照的に、周りの人達は歓声を上げ始め、それは次第に大きくなっていく。
「神王様!!!」
「神王さまぁぁ────!!」
「あぁァァ〜!!神王様ぁ〜!!」
中には泣き出す人達もいて、ちょっと普通じゃないテンションだ。
なんとか平静を保ちながら、とりあえず「神王様ァァ〜♬」と便乗しておいた。
そしてわー!わー!と叫んでいる間にも、その歪みはどんどんと酷くなっていって、突然……。
────ビシっ!!!
ヒビが入った様な音と共に、空間が割れた。
ちょっと何言ってるか分からないと言われてしまうかもしれないが、ホントに割れてる。
まるで蜘蛛の巣の様に、何にもない空間が割れたのだ。
そして、それがパリィ────ン……と大きな音を立てて割れてしまうと、真っ暗な空間からまず飛び出してきたのは沢山の騎士の格好をした人達だった。
「も、もしかしてアレが【聖華騎士団】……?」
そいつらは、直ぐにステージの両端にズラッと並ぶと、そのまま一斉に跪く。
「神王様のご降臨である!!!皆のもの、頭を下げよ!!」
────ザッ!!
突然今まで叫んでいた周りの人達全員が、また一斉に跪いたため、俺も慌てて跪いて頭を下げた。
すると────ゾッ……とするほど静かで、穏やか、でも首を一瞬で飛ばされる様な死のイメージが頭の中に浮かんでくる。
「────っ!?」
突然与えられる恐怖によって嘔吐感が湧き、両手で口元を押さえた。
《警告!警告!!!恐ろしい力を持った存在がもう間もなく姿を現します。危険予測不可能!最大限の警戒態勢をとってください。》
頭の中には警告が鳴り響き、ガンガンと頭が痛む。
こ、これは……マズい!
触れたらヤバいヤツだっ!!
頭を押さえながら、自分の認識の甘さに呆れ果てた。
神王の話はこの一週間、嫌と言うほど聞いたが、どれもこれも信じられない様な事ばかりでなんとなく現実味のない夢の中の様な……とにかく危機感が少々薄れていたのだ。
しかし、伊達に下僕生活をして生きてきたわけじゃない。
触れたらヤバいヤツ、それを察知するのは自信あり。
そして────……神王は確実に触れたら駄目なヤツだ!!




