29 願いが叶うなら
「おお〜!俺、ベッドで寝るの初めてだ!やっほ〜〜っ!!」
靴を脱いで、そのままベッドにダイブ!!
フカフカ〜という感触と共に、体が跳ねてベッドの上に持ち上がると、それを思う存分楽しんだ。
そして何回かそれを楽しんだ後、仰向けのままボンヤリと宙を見つめ、俺は今日一日で起こった数々の事を思い出す。
「1000年後の未来……か。
夢も希望もない過去から、天国の様な未来なんて来るわけないもんな。
期待なんかはしてないから別にいい。でも────……。」
俺はゴロンっと転がり、天井を見上げた。
落ち着いた所で一気に絶望感が押し寄せ、ダラダラと涙が溢れ出す。
「寂しいよぉぉぉ〜……。
ひ、一人でいた時間の方が長いのに……寒くて寒くて仕方がねぇ……。
サン……サン……もっと一緒にいたかったっ……!!」
いい年したおっさんのマジ泣きに、自分自身で引きながら目元を腕で隠した。
寂しい。
辛い。
サンに会いたい。
その事ばかりが頭の中を占めていて、涙を拭っても拭っても次から次へと流れていってしまう。
目を瞑るとサンと過ごした日々がグルグルと回り、俺が寝落ちしてしまうまで、涙は止まる事はなかった。
『グラン様は……もし、何でも願いが叶うとしたら……何を望みますか?』
依頼が完了した帰り道、荷台車の中でサンが急にしだした『もしも』の話。
夢の中に現れてくれたサンに泣きそうになりながら、俺はあの日と同じ答えを返す。
『どこまで空が続いているか知りたい。』
そう答えたけど……サンは何が願いだったのかな?
不意にそんな疑問が浮かび、知りたいと思った。
……その答えを知ることは永遠にできないけど。
◇◇◇◇
────……チュンチュン……。
開けっ放しだった窓から、鳥の囀りの音と共に明るい光を感じて俺は目を覚ます。
「フカフカ過ぎる……。」
初めてのベッドの感想を呟きながら起き上がると、窓から顔を出した。
そこから少し遠くに建っている時計台が見えて、時間はちょうど七時を指している。
「少し早いが朝食にするか。多分今の時間が一番混んでないだろう。」
俺は大きく伸びをすると、そのまま部屋を出た。
冒険者は、命と隣り合わせの職業が故か、依頼終了後にはアホみたいに酒を飲むヤツが多い。
そのため、朝は当然遅いやつが多く、昼くらいから活動し始めるヤツが一番多かった。
多分昨日の様子だと、今の時代も変わらないはず……。
そう予想を立て、俺は漂ってくるパンのいい香りを追って一階にある食堂へ向かうと、昨日部屋を案内してくれたレイラが直ぐに挨拶をしてくれる。
「あ、おじさん!おはよう!随分早いけど、昨日はよく眠れたの?」
「あぁ、良く寝れたけど……おじ……。いやいや、おじさんは────まぁ、正しいか。でも、俺にだって若い頃はあったんだぞ〜。」
肩を大きく落としながら近くの席に着くと、直ぐにレイラが朝ご飯のランチプレートを持ってきてくれる。
美味しそうなソーセージにベーコン。
その横には目玉焼きとサラダが添えられ、焼き立てパンとコンソメ野菜スープが付いている、豪勢な朝ご飯が出てきた。
こ、こんな完全体なご飯、初めて食べるぞ!
残り物かゴミ。
そして腐ったモノがスタンダードご飯である俺からすれば、一般人にとっての王宮料理に匹敵する贅沢品だ。
「いっ、いっただきま〜す!!」
誰も取るものなどいないというのに慌てて食べ始め、レイラはびっくりした顔を見せたが、俺はそれどころではない。
パリッ!!という音と共に食いちぎったソーセージからは、溢れんばかりの肉汁が飛び出て、口の中一杯に幸せの味が広がる。
「〜〜っ………!!?」
刺激の強い旨味に、目を閉じジ〜ンと感動しながら、次に口の中に放り込んだのは見るからに瑞々しそうなサラダだ。
酸味は効いているが、甘さも感じるトマトやシャキシャキと音がするキャベツは、優しく先程の肉の旨味を落ち着かせてくれる。
「う……うま〜!!」
美味しさに震えながら野菜スープに口をつけると、また別の角度から違う旨味が襲ってきて、思わず唸り声を上げた。
────ほぅ……。
満足百%のため息をつくと、次にフカフカした雲の様な白パンを手に取り、まずはその感触と漂う小麦とバターの匂いを楽しむ。
そして────……。
パクリッ!!
そのまま大きく齧り付くと、全く抵抗なく歯が通り、口の中はふわふわに!
大した抵抗なく噛み続けると、噛む度にパンの良い香りが鼻を抜けて外へ出ていく。
「美味しすぎる〜!」
そのままパクパクと食べ続けていると、レイラが突然腹を抱えて笑いだしたので、首を傾げた。
するとそれすらも笑いながら、レイラは目尻に浮かんだ涙を拭き取る。
「おっ、おじさん、随分美味しそうに食べるんだね!ここまで美味しそうに食べてくれた人は初めて!何だかおかしくなっちゃった。」
「……あぁ……、その……久しぶりの食事だったもんで、つい……。」
流石に若い子に、『いつもは残飯かゴミしか食べてないので!』とは言えず、モゴモゴと言い訳すると、レイラはパンを追加で一つ入れてくれた。
「おじさん、冒険者なんでしょ?もしかして元は農夫さんかな。
今年は『献上金』を納めるために沢山登録したけど……ほとんどの人が『帰った』からさ、おじさん頑張ってね。」
「……えっ?────そ、そうだな!頑張らないと!」
無理して笑うレイラを安心させる様に答えると、多少ホッとしたのか、レイラは世間話をし始める。
「私の昔同級生だった農夫の人も、結構前に『帰った』の……。
元々戦闘系のギフトがない子だったから、冒険者は難しかったみたい。
どうしても商売って毎月安定してないからさ、いい時に沢山貯めておかないと、毎月同じ額を納めるのは難しいよ。
今月は、誰も『帰らない』といいな……。」
「そうだな。」
大事な人がいなくなるのは、死ぬほど悲しい。
俺もそれは良く分かっているから、ついしんみりしてしまうと、レイラはポンポンと俺の背中を叩く。




