28 不穏な感じ?
「最初はあの恐ろしく綺麗な顔に圧倒されちまったが……考えてみれば、神王様の伝説なんて本当かどうかなんざわからねぇもんな。
案外全部大嘘で、聖天人や聖華騎士団が架空の人物を作り上げて金をせしめてるんじゃねぇか?
そもそも俺が子供の頃から全く歳をとってねぇし、そんな人間いるわけねぇじゃん。
ありゃ〜精巧に作られた人形なんじゃねぇかと思うんだよな。」
「あり得るな。確かにあまりにも人間離れした容姿をしてやがるし、生きているモノを相手にしている気配が全くしねぇもん。
人形か……だったらよ、俺らで壊してみねぇ?その人形。」
もう一人の男が首を掻き切るジェスチャーをしながら言うと、それを見た男はゲラゲラと笑う。
「いいな、それ!そしたら俺達英雄じゃね?
だってよ〜神王様から理不尽に虐げられている人々を救ったって事だもんな!────ハハッ!最高だな!それ!!」
二人の男達はそのまま上機嫌で笑いながら、その場を去っていった。
俺は、完全に気配がなくなったのを確認した後、透明化を解く。
「……う〜ん、何だか嵐の予感がするな。
っつーか、神王様って、人前に出てくるのか。
てっきり国の中心地とかに住んでて、納められた金をそこで受け取るだけだと思っていたんだけど……。
国中を回ってお金回収してんのかな??」
一つの街から出た事がない俺には、どれだけの数の街が外にあるのかは知らないが、それが可能なくらいの広さしかないのだろうか?
様々な疑問を持ちながら、とりあえず欲はかかずに今日は帰ることにした。
◇◇
「おかえりなさいませ……って、えぇ?!それ、麦ダンゴロ虫ですか?」
ギルドの中に入った途端、先ほど手続きしてくれたお嬢さんが驚きながら声を掛けてくれる。
そのため、俺は得意げに紐で縛った麦ダンゴロ虫を見せて、ふふーん!と胸を張った。
「まぁね〜!俺って結構優秀なんだぜ。依頼終了の手続きお願いしま〜す!」
上機嫌でそういえば、そのお嬢さんはテキパキと手続きをしてくれて、その間、周りにいる冒険者達の目は俺に釘付け!
生まれて初めて、嫉妬されてる〜!
ホクホクと満足気に微笑みながら、俺は受付のお嬢さんにさり気なくおすすめの宿について尋ねた。
「そういえば、実はこの街に来たばかりで、今夜どこに泊まろうか悩んでいるんだ。どこかおすすめの場所はないかな?」
「そうですか。それでしたら、ここから西側通りを歩いて5分の<鳥の止まり木>さんがオススメです。
そこなら長期滞在の契約もしてくれるので、お金に余裕ができたらそこに当分住むといいですよ。
今日の依頼達成料なら、一週間分くらい余裕で泊まれます。」
「それはいい!有り難くそこに泊まらせてもらうよ。」
俺はそのお嬢さんから渡された五万ゴールドを見下ろし、お金の単位も価値も同じみたいだとホッとしながら、早速そこへ向かった。
ギルドの建物を出て、西側に進んでピッタリ5分後、<鳥の止まり木>と書かれた割と小さめな宿屋に到着する。
一軒家にしては大きいし、宿屋にしてはやや小規模だが、赤茶色のレンガ作りで丸みがある屋根は、なんだか温かみがあって個人的に落ち着くなというイメージ。
「うむ!悪くない宿だな。まぁ、そもそも物置が自分の部屋の俺にとって、どんな場所だって外じゃなきゃ天国だけどな!」
腰に手を当て、アッハッハ!と笑いながら……それでも二人で寄せ合えば暖かかった物置の部屋が懐かしくて────またグズっ……と鼻を啜った。
ジワジワまた目から水が流れてきそうになって、慌てて目を擦ると、そのままドアを開けて中に入る。
「いらっしゃいませ〜!」
入って直ぐ迎えてくれたのは、大きな布団を抱えた十代半ばくらいの少女。
長い三つ編みにクリっとした大きな瞳が魅力的な子で、ほっそりした体系に健康的に焼けた肌と笑顔が眩しい!
そしてその奥のカウンターの様な場所には、もっと年上の……多分二十代半ばくらいのセクシーなおねぇさんが座っていたのだが、先程の少女と違い、真っ白な肌に流し目が魅力的な巨乳美女だ。
「あら、お客さん?いらっしゃ〜い♡何泊していく?」
カウンターに頬杖をつきながら話しかけてくるおねぇさんに、デレデレしながら一泊いくらか聞いてみると、十代半ばくらいの女の子の方がペラペラと教えてくれる。
「朝ご飯つきで一泊3000ゴールド!前払いでお願いしま〜す!
ちなみにお弁当は500ゴールドで夕食の定食は600ゴールド!
別料金で頂いちゃいます。」
ハキハキした喋りと、人を安心させるような雰囲気……さては営業系のギフト持ちとみた!
「じゃあ、とりあえず一週間でお願いするよ。」
「は〜い♡じゃあ、21000ゴールド貰います♡」
セクシーお嬢さんにそう頼むと、一瞬で必要な金を教えてくれる。
こっちのおねぇさんは、カウンターにいる事から勘定や算学なんかのギフト持ちかな?
プリリンッ!と揺れる素晴らしいおっぱいにニヤニヤしながら金を払うと、ハキハキ喋る女の子の方に案内されてそのまま部屋へ向かった。
「私はレイラ!この宿は、さっきいたルナお姉ちゃんと経営しているんだ。
お姉ちゃんが美人なお陰で、宿のリピーターが多くて助かってるの〜。
おじさんも良かったらこれからもご贔屓にしてね。」
「あ〜……確かにあれは、また来るよな……。」
ぷりり〜ん♡と揺れる巨乳を思い出し、鼻の下を伸ばす。
するとレイラは、俺の腹にガスッ!と肘を当てると、痛みに呻く様を呆れた様に見下ろし鼻で笑った。
「全く〜!男の人は本当にどうしようもないわね!このエッチ!
目がおっぱいになってたよ。とりあえず妄想だけでお願いしま〜す!」
「えっ!!」
慌てて両目を隠すと、レイラはクスクスと笑いながら「朝ご飯は七時からね〜!」と伝えて行ってしまった。
「エッチ……。」
あんな若い少女にそう言われ、ガガーン!とショックを受けながら、俺は案内された部屋の中へ。
そこには一人用のベッドにクローゼット、ミニテーブルが置かれており、一人で過ごすには広すぎるくらいのきれいな部屋であった。




