27 いつの時代もいるんだよなぁ〜
そのまま本名のグランと書くべきか、それともいちおう偽名で書くべきか……。
俺の事を知ってる奴は、きっとこの世界のどこにもいないと思う。
だが、何となく本名を使うのも嫌で、とりあえず偽名を使う事にした。
俺はサラサラ〜と『 グラン』ではなく、『クーラ』と言う偽名を書き、お嬢さんに見せた。
するとお嬢さんは、何一つ疑う事なくそのまま完成した冒険者証を渡してくれる。
「それでは、新たなる門出に神王様からの祝福がありますように。
新人冒険者<クーラ>様。いってらっしゃいませ。」
ニコニコしながらお嬢さんに手を振り、直ぐに依頼書が貼られているボードへと直行した。
「さぁさぁ、とりあえず何でもいいから仕事しねぇと、今日を過ごせない!俺にも出来る依頼は〜……。」
キョロキョロ探し回りながら、俺は先ほど素知らぬ顔で聞き出した情報を頭の中でまとめていく。
沢山献上金とやらを捧げるとなれる【聖天人】
戦闘の実力を認められればなれる【聖華騎士団】
この世界は、多分神王様とやらへの貢献度によって、優遇される世界であるという事だろう。
金を稼いで神王様へ捧げて貢献するか、もしくは実力で貢献するか……。
その事実を再確認すると、何とも言えない気持ちになってガリガリと頭を掻いた。
要は、何者かは知らないが、この世界は神王様のモノで、俺たち人間はおもちゃか便利な道具ってとこか。
『身分』と『力』が全てだった過去を思い出し、全てを悟っている俺はハァ……と大きなため息をつく。
結局何千年経とうが、世の中は無情で……その時できる精一杯をするしかないって事だ。
とりあえず考えるのはこれまでにして、俺は俺にできそうな依頼を精一杯探した。
「ゴブリンのパーティー討伐……無理。商人の護衛任務……無理。」
出来なさそうな依頼は、ぺいぺいっ!と避け、後ろの方へ回されている依頼書を探す。
やりたくない仕事ほど、依頼を受ける人が少ないので後ろの方にある。
ガサガサと下の方を探しているうちに、やっと今の俺にぴったりの依頼を発見して、目を光らせた。
《麦ダンコロ虫の捕獲》
麦ダンコロ虫は、お腹が大きく膨れているダンゴムシ状のモンスターで、捕まえるのは物凄いスピードでコロコロ転がって逃げてしまうため難しい。
しかしそのお腹をすり潰せば、麦より上質な粉になるため、貴族を相手にする高級パン屋などがこぞってこの依頼を出すのだ。
勿論以前までの俺ではソロは難しいが……。
「今なら気配なく後ろから捕獲できる!
ついでに何匹か捕まえられたら、保存食にもできそうだ。」
ニヤッと笑いながら、俺は依頼書を持ってもう一度ギルドの受付に並んだ。
そして無事に依頼を受注すると、他の冒険者達の後にシレッとついていき、門を出て森へ。
麦ダンコロ虫は湿気の多いところを好むため、透明になったまま涼しい場所を目指した。
すると────?
カサカサ……。
カサカサカサカサ〜!
沼地の近く、草の根を掻き分け、ターゲットが姿を現す。
「よしよし、いたいた。ゆっくり〜ゆっくり〜!」
即座にスキルを発動し、足音を忍ばせターゲットの背後に回ると────油断しているそいつの胴体を掴んだ!
「や、やった〜!!!」
初めてソロで捕獲が成功した事にジーン……と感動に震え、思わず叫ぶ。
丸まらないよう抱っこする様に抱えて、俺は透明化を解いた。
「これをギルドに納入すれば依頼完了!とりあえず宿と飯にありつけそうだ〜。
……もしかして、このスキルを上手く使えば、のし上がれるのも夢じゃない?!」
体を動かして逃げようとする麦ダンゴロ虫を、ブンブン振って気絶させると、ポケットから出した紐で縛って肩に背負う。
ついでに二匹目……と気配を消そうとしたその時────突然頭の中に警告が響いた。
《これより約30秒後に男性二名が到着。悪意あり。要注意人物。
危険予測レベルマックスであるため、気配を隠す事を強く推奨します。》
「はぁぁぁぁ────!?」
驚いた俺は即座にスキルを使って気配を殺し、そのまま大きな木の影に隠れる。
そしてそのままドキドキしながらようすをうかがっていると、やがて随分と人相の悪そうな若い男性が二人やってきた。
「────クソ、何で俺たちが無期限休職なんだよっ!
ちょっとトロくせぇ新人のガキどもを、囮に使っただけじゃねぇか!
大怪我しただけで、死んでねぇんだからよくね?」
「大した実力もねぇガキが助かったって役にたたねぇっつーのにな。
俺達みてぇな才能ある冒険者の役に立って死ねるなら、本望ってやつだろ?上は何もわかっちゃいねぇ。」
男達はイライラしているのか、近くの木を蹴飛ばしたり石を蹴り飛ばしたりと、周りに八つ当たりしながら、俺の隠れている木の側まで近づく。
冒険者……。
多分新人を囮にして、ペナルティを食らったってとこか。
どの時代にもいる胸糞悪い二人組に、俺は盛大に顔を顰めた。
今回は囮にされた新人は幸い命は助かった様なので良かったが、こんな奴らを野放しにしてたらいつかは誰かが死ぬ。
しかし……。
俺の頭の中に、クソ冒険者代表のヒュードの顔が思い浮かぶ。
決して平和ではない世では、力を持つ者の方が重宝される。
だからきっとコイツらもその内ギルドから休職開けが告げられ、また同じ事を繰り返すだろう。
何度も何度も……。犠牲者が何人出ようとも。
────ムカっ!!!
怒りが込み上げた俺が、足元に落ちている石を投げてやろうと拾ったその時……男の一人が突然また喋り出した。
「────っつーかよ〜、そもそも、何で毎月毎月神王様とやらに金を渡さねぇといけないわけ?見た感じ、ただ顔がいいだけ優男じゃねぇか。」
『神王様』という単語を聞き、俺は石を持って振りかぶっていた手を止める。
すると、もう一人の男もベラベラと神王様に対する不満を漏らし始めた。




