24 未来の姿の断片
「私達みたいに冒険者として働ける人はいいけど……今月は天候に恵まれなかったから、多分結構な人数が『帰る』ね。
私の友達も危ないから……本当にやりきれないよ……。 」
魔法使いのボソッとつぶやく声を聞き、盾士と剣士の男達は焦った様に、しっ!と口に人差し指をつけ、更にキョロキョロと周囲を見回す。
「────バカ!【聖華騎士団】の連中がどこで聞いているかわからねぇんだぞ!
……人間如きが何を思おうとも、神の決めたルールに口出しすれば、今直ぐにでも『帰される』。」
「そうだぞ!お前はとにかく息子の事を一番に考えて、また来月分の金を貯める事だけ考えろ。仕方ないんだ……。それが世界のルールなんだから。」
『献上金』
『命を貰う』
非常に物騒な言葉に、ごくりと喉を鳴らした。
なんだか思った以上に、1000年後の未来は明るくない様だ。
そのまま黙って三人の様子を伺っていると、牙をしっかり回収した後は、その場を静かに去って行った。
それをしっかり見送り、俺は透明化を説いてその場にへたり込む。
「なんてこった……。いったいこの1000年の間に何があったんだ??
とりあえず、冒険者って言ってたし、未来にもおんなじ機関があるっぽいのは分かったけど……。
話から察するに、毎月お金を納めないと『帰される』……?
えっと……どっかに連れて行かれる的な感じか??っつーか金を一体誰に納めるっていうんだ。あ、王様か……?」
そこでさっき騎士っぽい人が言っていた言葉が頭をよぎる。
『神王様、どうか罪深き我々子孫をお許し下さい。』
『永遠の忠誠を貴方様に捧げます。本日も有り難き『生』をお与え頂きありがとうございます。』
多分お金を納めるのはこの神王とかいう奴か。
そう思い当たると、冒険者らしき三人が言っていた【聖華騎士団】は、多分それを言っていた騎士っぽい人達の事……?
どうもそれが正解のような気がして、なんてヤバい所に来ちゃったんだろうと途方に暮れた。
「もしかしてどっかの国と戦争でもして、負けたのかもな。それなら納得できる。」
今まで数え切れないほど戦争しては、勝って負けて……それで奴隷だの難民だのとだしてきた歴史を思えば、不思議ではない。
そうだとすると神王は敵国の王様かなんかで、敗戦国のこの国の国民達に毎月金を納めさせ、金が払えなきゃ強制労働でもさせる場所へ連れて行くと……そういうことだろう。
くわばらくわばら……。
腕をシャカシャカと擦りながら、三人の冒険者達が去った方向を見る。
多分あっちに街があるはず。
行ってみるか。
俺は街があるであろう方向へ歩きだした。
◇◇◇◇
《50m先にモンスター反応あり。迂回ルートを表示します。》
《これより100m先に崖あり。おすすめルートを表示します。》
「べ、便利すぎる……。めちゃくちゃ親切仕様じゃねぇか!」
頭に響き渡る声に従い、おすすめルートを進みながら、【渡り人】というギフトに初めて感謝する。
しかし同時に、1000年前に使えてたら……と後悔の念が湧いた。
「これがあれば、サンと一緒に逃げれたかもしれないのに……。
────いや、無理か。相手がお貴族様じゃあなぁ……。」
俺を殴って楽しそうに笑っていた貴族の男を思い出し、ハァ……とため息が漏れる。
確かアイツは当時、あの街周辺の地域全部を治めていたお偉いさんだった。
だから、それこそ他国に行ったとしても、確実に追える力はあったと思う。
「確か、【ルザイン家】の……<レイケル>ご当主様だったっけ?
かなり評判が悪い野郎だったが真実だったな、あのクソ野郎め。
……そういや、今も貴族っていんのかな?いたらめんどくせぇ〜な〜。」
ボコボコに殴られた時の痛みを思い出して震えると、またサンの事を思い出して鼻の奥がツンと痛んだ。
サンに会いたい。
二度と会えないけど……。
グスンっと鼻を啜ったその時、突然街道らしき道に出たため、鼻を乱暴に擦ってその道の先を見る。
すると、そこには街をぐるりと一周するような高い防壁と巨大な門があった。
そしてその前には兵士のような格好をした奴らがいて、多分街に入ろうとしている人たち相手に検問?の様な事をしている。
「これも1000年と一緒だ。街に入るには身分証みたいなもんが必要って事か。」
俺は近くに立っている巨木の影に隠れると、そのままう〜ん……と考え込んだ。
俺がいた時代では、この身分証とは貴族なら貴族証と呼ばれる個人認証カードで、平民は冒険者や他の職業場で発行されるカードだった。
ちなみに俺は、ヒュードの冒険者パーティの雑用だったため、一応冒険者カードと呼ばれる身分証。
しかし、ちゃんとした職業につけない非雇用の平民は身分証がないため、街を出て違う街へ住むという選択肢はない。
「街に入れなきゃ、直ぐに外にいるモンスターのご飯だもんな……。
現状がどんなに辛くても、他の街へ逃げるっていう選択肢すら無能には与えられないってこった。」
しみじみとその時の辛さを思い出し、なんとも嫌な気分になったが、直ぐに俺は不敵に笑った。
「しか〜し!今の俺には無敵の能力がある!ここはこっそり中に入らせて頂くか!」
すぐにスキルを発動し身体を透明化した俺は、ソロソロ〜と街の門へと近づいていった。
「身分証を出せ!────よしっ!通ってよし!次っ!!」
兵士らしき武装した男たちが、一人一人身分証をチェックしては、中へ通していく。
それに静かに近づき出されていく身分証を観察すると、そこには冒険者カードと書かれているモノが多く、続いて多いのは商人カード。
それが群を抜いて多い様だ。
やっぱりこれも1000年前と同じ?
ふたたび感じる大きな違和感に、俺はう〜ん……と頭を悩ました。
1000年経って、こんなに文化レベルが同じなんてあるか??
やっぱりそんな未来に来たなんて嘘なんじゃ……?
そう考えると、『サンに会えるかもしれない!』という希望が湧き、パァァァ〜!と目の前が明るくなったが……それは街の図書資料室に入るまでだった。




