15 もしも願いが叶うなら
◇◇
────3ヶ月後。
「サン!準備はいいか?!」
「うん、勿論。」
大量発生した<トビウオ・スパイダー>の討伐を終えて、休憩用テントにヒュード達が戻ったのを見計らい、俺はサンに話しかける。
するとサンは完璧に心得ており、自分のマントの下から大きめな袋を取り出した。
< トビウオ・スパイダー >
体長3mくらい。魚の顔と胴体に蜘蛛の足が八本ついたモンスター。
非常に早いスピードで飛びかかっているため、大量に発生した際は混戦にならない様に注意が必要。
大人数での討伐が推奨される。
「じゃあ、いつものように俺が討伐証明の魚の顔を集めるから、サンは魔力核と────。」
「油が乗った赤身肉の回収。」
キラッ!と目を輝かせて正解を言うサンと、俺は手を叩き合う。
トビウオ・スパイダーの魔力核の周りについている赤身肉は、実はとても油が乗っていて美味しい。
昔、冒険者達が破棄したモンスターの死骸を食べてそれを学んだ俺にとって、こいつらはご馳走の山!
討伐すればお金も稼げて、更に美味しい素材にもなる奇跡の存在なのだ。
ちなみにヒュード達はこの肉の存在も知らないし、いつも依頼完了の金にしか興味がないので、俺がコソコソ動いているのも『乞食ネズミ』とか言って馬鹿にするのが楽しいらしく邪魔しない。
ほくそ笑みながら、俺はサンと二手に別れ手際よく作業を終えていく。
そして俺は討伐証明である魚の顔を集め終え、サンは魔力核と赤身のお肉をしっかりと集め終わり、直ぐにサンのマントの裏に作った裏ポケットにモンスターコアを入れて隠すと、何食わぬ顔で、談笑しているヒュード達の元へ向かった。
「討伐証明集め終わりました〜!」
「うわっ!くっせぇ〜なぁ〜。相変わらず回収後は、生臭くて気持ちわりぃ!!
じゃあお前らはいつも通り、後ろでその素材と一緒に乗ってけよ。
んで、冒険者ギルドに持ってって金を貰ってこい。
────いいか?そこから金を少しでもくすねてみろよ?ぶっ殺すからな。」
「はい〜!勿論でございます〜!」
そこで俺のガクガクと震えながら頭を下げる懇親の演技!
サンも真似して下を向いてブルブル震えているフリをした。
それを見て満足したのか、ヒュード達はプッ!と笑いながら、依頼主から用意された馬車に乗り込んだので、俺とサンはニヤ〜と笑い合い、馬車の後ろに紐で括り付けた荷台に乗り込む。
荷台の中には生臭い匂いと共に、本日のご馳走になるであろうお肉が積まれていて、それは全て俺達のモノ!
ヒュード達は討伐したモンスターの死骸を回収したことがないため、荷物が異常に多い事に今日も全く気が付かなかった様だ。
「大量ですね。八割くらい乾燥肉にすれば、当分持ちそうです。」
「そうだな〜。今日は大量討伐の依頼でラッキー!最近単発の依頼が多かったから、乾燥肉が尽きかけてたもんな。俺達めちゃくちゃついてる!」
生臭いのなどなんのその!
俺は大事なお肉達が入った袋をギュッ……と抱きしめる。
そして頭の中で、先ほど手に入れた魔力核のお値段をカシャカシャと頭の中で計算し、チンッ!とその計算が終わった。
────良かった、今週も薬が買えそうだ。
俺はホッと胸を撫で下ろしながら、ご機嫌で嬉しそうに笑うサンを見る。
そして…………三ヶ月前より更に広がってしまった腐った部位を見て、嬉しい気分が凄い勢いで沈んでいった。
サンの体は少しづつ少しづつ腐っていってる。
そのスピードを止める事はできないが、どうも前に塗ってやった薬が身体に合ったのか、痛み自体は殆ど無くなったそうだ。
だがその薬が切れてしまえば、夜中にウンウン魘されているのに気づき、今ではどうにか切らさない様に、儲けの殆どを使ってサンに毎日それを塗ってやっている。
たがかなり高い薬であるため、切らしてしまう事もあり、その際はとにかく寝ているサンの頭を必死に撫で続けた。
すると、サンはそれを見て真っ赤になりながら「痛みが引きました……。」と言っていたが、多分嘘だと思う。
それでも少しでも気休めになればと、薬がない日は寝ているサンの頭を撫でて寝かせてやるのが決まり事のようになってしまったのだ。
一応俺はご主人様だし!奴隷の体調管理も仕事だから!
フンッ!と勢いよく鼻息を吹き、胸を張ると、サンも俺の真似をして胸を張った。
それに笑いながら、激しく揺れる荷台から周りの景色を眺める。
討伐していたのは森の奥で鬱蒼としていたが、馬車はあっという間に街道に出て、周りは草原の様な開けた場所に出ていた。
本日の天気は快晴。
そのためまるでピクニックにでも来たような最高の景色をながめながらの帰宅となる。
「やっぱり俺ってついてる〜!」
フンフン〜♬と鼻歌にしては大きな歌を歌いながら景色を堪能していると、サンは俺を見てボソッと言った。
「グラン様は……もし、何でも願いが叶うとしたら……何を望みますか?」
突然の質問に少々驚いたが、きっと景色があまりにも綺麗だから、残酷なこの世の事を忘れて、明るい話題を出したかったのかもしれない。
そう思って、俺はあまり好きではない、その『もしも』の話に乗ってやった。




