0009
「わぁ、綺麗な街!」
既に朝に近い深夜にも関わらず、門から続く大通りにはそこそこの人が居た。遅くまで呑んでいたのか陽気に騒ぐ者が多く、平和な街であっても治安が良いとは言えない時間帯。
「私の傍を離れるな。お前のような娘はすぐに絡まれるぞ」
「うんっ」
世間知らずな少女を守るように肩を抱き寄せながら、とある店を探して周囲を見回す。
本当ならばすぐにも宿か食事処へ向かいたいが、支払うための金銭を所持していない。先立つ物が無ければ何も出来ないのが人の世だと知るレヴィは、身に付けている魔石の一つを売却するべく店を探していた。
「どうしたの?」
時折立ち止まっては、頻りに辺りを見回すレヴィへ問う。
「店がどこか、と」
「どんなお店?」
「魔石を売る店だ」
「どれを売るの?」
「これだ」
右腕を軽く振って、袖の奥に隠れていたそれを滑らせる。しゃらんと優雅な音を立てて現れたのは、手首に巻かれた細いチェーンのブレスレット。先端にぶら下がっているのは、あまりにも高純度な風の魔石だった。
「こっ、こんな凄い物を⋯売るの?」
「大した物ではない。この程度ならいくらでも創れる」
「えぇ~⋯⋯⋯」
物の価値を把握していないレヴィは、人間の世に於いてはアリアよりも世間知らずだった。
「⋯これ、買い取ってくれるお店があるかなぁ?」
「お前が泊まれる宿代にでもなれば十分だ」
「そうじゃなくって!」
やはり価値観がズレている。少女は慌ててレヴィの腕を掴み、認識の間違いを正そうとした。
「こんなもの、高価すぎて買い取れるお店があるかなって事よ?」
「⋯そうなのか?」
「これが売れれば、しばらくは遊んで暮らせそうだもの⋯」
「ならば重畳」
伴っている少女に満足な食事を摂らせ、暖かな寝床を用意するという目的は果たせそうだ。あとはこんな深夜でも開いている店を探すだけ。気を良くしたレヴィはアリアの手を取って、街の中を突き進もうとする。
「本当に売っちゃうの?勿体ないよ?」
「⋯欲しいのなら、そのうち創ってやる」
「もう、そうじゃなくってぇ⋯」
少女の細く小さな手を握り締めて、彼女に着けさせるならどの魔石を創れば良いだろうかと考える。自分からは決して欲しいと言わないだろうアリアに、どう渡せば受け取るのかが悩み所だ。
そうして手を繋いで歩く二人の行く手を阻むのは、空気を読む知恵も無い下衆な人間。
「よーぅ、可愛い子連れてドコ行くんだ兄さん?」
三人の男が二人の前に立ちはだかった。どうやら酔っ払いのようで、レヴィの隣に並ぶ少女へ目を付けたらしい。咄嗟にアリアの手を引き、その姿を隠すように自身の後ろへと下がらせる。
「一緒の兄さんもえらく美人じゃねーの?なぁ、兄さんも交えて、俺らと遊ぼうぜぇ、なぁ?」
男達のあまりにも無節操且つ下劣な発言に、レヴィは表情を顰める。まさか自分までもが対象だとは思いもしなかった。
「お嬢ちゃん、チョー可愛いじゃーん?スゲー好み~⋯」
「近付くな、下衆め」
アリアに向けて伸ばされた手を、文字通り目にも止まらぬ速さで弾く。軽い手刀を見舞っただけだが、腕を弾かれた青い髪の男は大袈裟なまでの悲鳴を上げて地面をのたうち回っていた。
「いってぇぇえ!」
「おいこらテメエ!何かしやがったのか!」
「⋯見えてすらいなかったか」
そんなに速く打ち落としたつもりはない。視線を向けてみれば、確かに男の腕はおかしな角度に曲がっていた。
「あの程度で折れるのか、貧弱だな」
「ンだとテメ!」
わざと男達が激昂するよう言葉を選び、煽っていく。挑発している事に気付いてしまったアリアだが、何故かレヴィの背後で魔力を溜めていた。
「死んじゃわないように私が守ってあげるから、安心してねレヴィ」
清廉で心地良い魔力の波動を感じて振り返ると、少女は満面の笑みで告げる。
「何に対しての安心だ、それは⋯」
「えっと⋯レヴィが、人を殺さないように?」
「全く⋯⋯⋯」
手加減はしている。しかし竜からすれば人間など取るに足らない存在であり、撫でるだけで命を奪う事も出来る。そうしてレヴィが罪を犯す事のないように、アリアが人間達を守っていた。
事実、レヴィの手刀を受けて折れ曲がっていた男の腕は、既に快癒している。
「成程⋯嬲るには丁度いいな⋯」
魔法を使わずとも、武器を持たずとも、レヴィはそもそもが竜である。その腕に込められる物理的な力の強さは、人の身であれ竜の時と変わらない。
「我らに絡んだ事を、後悔させてやろう」




