0016
「わぁ⋯⋯!」
部屋の内装を見て、アリアは瞳を輝かせ、感激の声を漏らしていた。
「え、すっごい綺麗⋯⋯」
時折、貴族の邸宅などを見た事もあったレヴィは、大した感慨も湧かない。けれどアリアは、室内に視線を巡らせて歓喜と困惑の入り交じった声を発している。
「うそ、あんなにおっきい⋯え?あれが、ベッド⋯?」
そして彼女の視線は、部屋の奥に設置されている寝具へと縫い付けられていた。
天蓋付きの、淡いピンク色のレースがあしらわれた巨大なベッド。どう見ても一人用ではないそれは、この部屋の用途を容易くレヴィに悟らせていた。
抱き続けていたそこはかとない嫌な予感。彼らが自分達を『そういう関係』と勘違いしているのだと、選ばれた部屋を目の当たりにして確信してしまった。
軽く溜め息を吐きながらアリアの様子を窺っていると、恐る恐るベッドへ近付き、小さな手でそっと布地に触れていく。
「わっ⋯⋯柔らかい⋯」
確かにベッドそのものも使われている布地も、一見しただけで上質なものだと判断出来る。しかしアリアは大袈裟なまでに驚き、感動と興奮冷めやらぬ様子でレヴィへと振り返った。
「ねっ、レヴィ!柔らかいの、これ!」
弾んだ声で呟きながら、何度もベッドの端を手で押している。
彼女のこれまでの境遇を考えれば、本来当たり前に存在しているはずの生活環境すら、手の届かない珍しい物に相当するのだろう。そんなアリアの無邪気さを痛ましく思うも、レヴィはふっと息を吐き、何度も繰り返しベッドの感触を楽しむアリアの傍に立った。
「そんなに気になるなら、さっさと寝てしまうか?」
穏やかな声で問い掛けると、アリアはベッドとレヴィを交互に見遣り、しばし何かを考え込んでいた。
「……どうした?」
「う~ん⋯⋯」
じっと、綺麗に整えられたベッドを凝視してから、アリアは決意したようにレヴィへと振り返った。
「お風呂⋯先にしようかなって」
その一言を受けて、レヴィはすぐに部屋の中へ視線を巡らせる。熱を生む魔石の魔力を探せば、目当てとする浴室は容易く見つかった。
「⋯向こうだな」
ベッドのある位置から少し離れた壁に扉を見つけ、視線を向ける。レヴィが見ている先を追うようにアリアも振り返り、そして蒼い瞳をきらきらと輝かせた。
「⋯お部屋の中に、本当にあるのね?」
興味津々の様子で小走りに扉へ駆けていくアリアは、やはり何も無い床の上でさえ軽く躓いていた。
「慌てずとも、風呂は逃げないぞ」
暗に走るなと告げれば、アリアはゆっくりと振り向いて子供のようにはにかんだ。
「えへっ⋯なんだか、楽しくなっちゃって」
「⋯⋯全く」
呆れ混じりに微笑み、レヴィもまたアリアの後を追う。
共に入る⋯などという考えは無くとも、扉の奥にあるだろう浴室の配置や様子は確かめる必要があった。
すぐ傍にレヴィが辿り着いた事で安堵したアリアは、取っ手を掴み恐る恐る扉を開けていく。無垢な少女の視界に映るのは、広い脱衣場所とその奥で湯気を立ち登らせる、明らかに一人用ではない大きな浴室だった。
「わぁ⋯ここも広いのね?」
「お前が以前いた場所では、どうだったんだ?」
風呂の広さなど、それこそ建物の規模次第だ。そういう意図で問うが、アリアはまたもや問題のある一言を返す。
「えっとね⋯⋯私は、お風呂自体はあんまり⋯⋯」
「⋯⋯⋯は?」
瞬間的にレヴィは表情を顰め、思わず声を低めていた。
「あっ!伯爵様のお屋敷でね、お風呂の温度を維持するように魔石に魔法を込めた事はあるから、知ってはいるのよ?」
「そうじゃない!」
無邪気に、けれど慌てたように語るアリアの言葉。その意味を考えれば、鎮まったはずの怒りがまたもや込み上げてくる。
「⋯⋯⋯入った事は?」
「え、ないよ?こういうの、貴族の方とか、偉い人しか使えないんでしょう?」
あの時、アリアを追ってきた伯爵と呼ばれていた男。その顔を思い出し、レヴィは隠す事なく怒りを漲らせる。
アリアに請われたからこそ生かして捨て置いたが、やはり殺しておくべきだったと思い直す。




